ビジネスショウで投資のアイディアを得よう!
ビジネスショウは投資アイデアやヒントの宝庫と言えます。具体的な銘柄として投資アイデアが浮かぶ時もあれば、大きなビジネス・トレンドや技術ロードマップを掴める時もあります。また現状の投資アイデアや投資方針が間違っていないことを確認出来るという場合もあります。
その意味で言えば、2018年4月3日から東京ビッグサイト(青海展示棟)で始まった「AI・人工知能EXPO」は現状の投資アイデアのひとつや投資方針が間違っていないことをあらためて確信させるものだったという事が出来ます。残念ながら、新たに具体的な投資アイデアや銘柄発見に繋がるものではありませんでした。
それでも結局初日と二日目と、2回も東京ビッグサイトまでいそいそと出掛けたのは事実で、それだけの価値はあったと思っています。
初日はある意味、駆け足でひと通りのブースを見て回り、一旦帰宅後、貰ってきた資料などをもとに情報を整理して、翌日は再確認の為に同じブースに行ったり、予約しておいたセミナーを聞いたりして頭の中を整理した、という感じです。
来場者の多さには驚かされました。このテーマが現在如何に世の中の注目を集めているかあらためて実感しました。主催者側からの事前連絡によると、初日最初の基調講演は申込者数が6000人を超えた為、受付開始を当初予定よりも早めたようです。
それでは、2日間見て回った「第3回 AI・人工知能 Expo」の印象をファンドマネージャーとしての目線から総括してみたいと思います。
AI・人工知能の分野でメインプレイヤーとなる日系企業は見つからない
残念ながら今回のビジネスショウでは、AI・人工知能の分野でメインプレイヤー(=ビジネス・トレンドや技術のロードマップの真ん中を行く企業)となる日系企業を見つけることはできませんでした。
“第3回目になる日本最大の「AI・人工知能EXPO」”と謳われており、確かにイベント企画会社の想定を上回る来場者を集めるビジネスショウですから、それなりにこの分野に関わる企業は何らかの出展をする筈だと想定します。
しかし、今回の出展企業を本当にそのユニバース(母集団)と考えるなら、残念ながらビジネス・トレンドのメインプレイヤーと思える企業はありませんでした。ビジネス・トレンドとの関わり合いから見ると、失礼ながら派生的な部分、若しくは端役的な存在としか言えないという印象です。やはり「AI・人工知能」という分野においての日本企業の存在とは、残念ながらそういうものなのだと思います。
念のため、以下に出展企業のマップをお見せします。
主役は米国企業か?
主役は米国企業、やはり「AI・人工知能」の分野に投資するなら米国株(アメリカ株)を投資対象の中心に据えるべきという印象を得ました。
この分野におけるビジネス・トレンド、或いは技術ロードマップのメインプレイヤーは、やはり米国企業であると言わざるを得ません。それは上記出展企業のマップに大手の日本企業が少ないからという意味ではありません。キーテクノロジーやキーデバイスを日本が握れていないからです。
Amazon そして Amazon Web Services
その答えのひとつは2日目に聴講した講演にありました。ひとつ目が「Amazon Web Services社の講演、題して“Amazonの人工知能~人々の生活を変えるAIの研究開発最新状況~”」というものと、二つ目が「IBM社の講演、題して“量子コンピューターの可能性とIBMの量子プログラム”」というものです。
AWSはご存知の通り、Amazonが提供するクラウドサービスですが、現状競合と言えるのはMicrosoftのAzuruか、Google Cloud Platformかと言ったところで、これらが既にかなりハイレベルのAIプラットフォームを提供しています。
事実、伊藤忠テクノソリューションズをはじめとする出展者のいくつかはAWSやAzureなどの代理店ビジネスだということです。つまり主導権はAWSにあります。
量子コンピューター自体はまだまだ現実的にビジネスに使うというには、もう少々時間が掛かるなという印象でしたが、競合するライバルは日本にはありそうに思えません。
AWSのプレゼンテーションの中で、多くのスライドで常に中心を占めていたのはGPUです。インテルのXeonをCPUに使うサーバーであったとしても、AIの肝を握っているのはGPUです。そしてそのGPUと言えば、現在それを開発している企業は世界で2社しかありません。
GPUならエヌビディアかAMDしかない
エヌビディアとアドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)です。後者はかつてエヌビディアと伍して戦っていたGPUメーカーであるATI Technologies社を2006年に買収完了し、その技術を取り込んでいます。
更に注目だったのは、AI用のプラットフォーム機器を展示しているブースで、出展品として並んでいたものは、どれもエヌビディア(NVDA)の製品が使われていたという事実です。
つまり整理すると:
AIを提供しているクラウドサービスはAmazon、Microsoft、Googleがメイン
その肝となるGPUはNVIDIA製かAMD製
ということです。
これは、色々な画家の画風や特徴をディープラーニングにして、カメラに映った映像をリアルタイムでその画家の作品の印象に変えてしまうAIで、プラットフォームはエヌビディアのDGX STATIONという装置です。
中に同社のTEGRAというGPUカードが4枚挿しになっているのが見えると思います。モナリザ風と、浮世絵風は既にFund GarageのFacebookページでご紹介しているので、もう一種類の絵を下にご紹介します。
スクリーンの右肩に乗っかっているカメラで撮影した映像が、そのまま変換されて表示されます。オリジナルは右手NVIDIAの文字の上にある絵です。その色使いやタッチが見事に再現されています。
これは米国Pure Storage社が提供する業界初のAI完全対応のインフラストラクチャーです。何がポイントかと言えば、常に膨大な量のデータを扱うAIは、超高速処理が出来るGPUとそれに対応する超高速データストレージとデータ転送(超低レイテンシー)などの最新テクノロジーが必要ということです。
下の写真、ラックの下段を4基のNVIDIA DGX-1というAIユニットが占め、その上にフラッシュメモリーで出来たSSDで容量が17TB(一般的な今のノートPCだと1TB容量のHDD搭載が主流)もあるFLASHBLADEを15基搭載している製品です。
これを大量に導入しているのがFacebookだそうです。顧客名を出して良いのかなとも思いましたが、Facebookもこれを使っているというのが、きっと良い営業トークになっているのだと思います。
PURESTRAGE社はストレージ部分を提供しNVIDIAと共同開発しているわけですが、その肝心なストレージ・デバイス自体を作っているメーカーは数が限られています。因みにどこの製品かと質すと、日本のユーザーには東芝メモリのものを使う事があるとしながらも、アクセラレーターを含め出てきた企業名はMF10Cに入っている企業のものばかりでした。
「AI・人工知能」の定義の曖昧さが誤解を生むことも
そもそも「AI・人工知能」という言葉の定義が曖昧過ぎます。
ビジネスショウ全体を歩き回ってみて、強く感じたことは「AI・人工知能」という言葉の定義が日本国内ではあまりに曖昧だという事です。これは投資をする上で、非常に重要な注意すべきポイントです。ある意味、単なるマーケティング用の流行り言葉として使われている感じという印象さえ受けました。
今回一緒に会場を回った人で、計量経済学に造詣が深い人がいらっしゃったのですが、その方が「AI、AIと言うけれど、ちゃんとしたデータサイエンティストが居て、その人が重回帰分析でもすれば済む話までが、何でもかんでもAIと呼ばれている気がしました」と仰っていましたが、それがポイントだと思います。
勿論、データサイエンティストと呼ばれる人の不足が問題で、それを補うためのプロセスまでがAWSなどには組み込まれていることが講演の中でわかりました。ただ計量経済学の専門家ではなく、以前単に定量分析の運用モデル構築程度のことを行ったことがあるという私でさえ、出展者の展示ブースの中には「こんなものまでAIと呼ぶのかなぁ」という印象を受けたデモが沢山ありました。
また「単なる画像認識であって、これをAIと呼ぶのかなぁ」という次元のものもありました。AI祭りの中では、何でもかんでもAIと呼んだ方が受けるのかも知れませんが、それでは昔のドットコムバブルと変わらない気がしたのも事実です。
勿論、ソフト開発とか、プロセス開発とかが重要なのは分かりますが、言うなればそれはシステムの運用上の問題であり、最大の付加価値を生むところではありません。
株式市場はテーマが大好きです。既に「AI投信」というようなテーマ型ファンドなどを作られていますし、AI関連株などと囃し立てたりもしているようですが、日本国内で言う限り、ややイメージが先行し過ぎという感じを受けてしまいました。
「AI・人工知能」自体の将来性や可能性などは非常に大きい
AWSの講演やIBMの講演を聞いてみると、やはりこの分野の将来性は非常に大きいと思われました。
人間の技を機械に置き換えたり、人間には出来ない膨大な量のデータを瞬時に解析して最適解を見つけたりするような事は、AIの得意分野になっていく筈だからです。その一方で、前述のような疑問符が灯る例もたくさんあるわけで、本来AI・人工知能など無用の長物、猫に小判のようなものにまでAIシステムの導入などを早まって行ってしまう危険性すら孕んでいると感じました。
ただ単純に「これまで蓄積してきた膨大なデータを活用してビジネスを拡大したい」というような曖昧な動機で始めると、企業は資金とリソースを無駄に消耗するだけだろうということです。
AWSの講演を聞いていて思ったのは、アマゾンがAIを開発してきた流れは、アマゾンが自社ビジネスを拡大していく上での必然性あるアプローチだったということです。AIを作ろうとしたのではなく、求めるサービスを構築して行く為に必要だったのがAIだったということを思いました。
例えば膨大なお客様の取引内容やWebサイト内での行動(比較したり、サイズを調べたり、色をみたり、書き込みレビューを読んだり)などを把握しているアマゾンならば、その顧客の嗜好や好み、或いはものの考え方や癖なども相当把握出来るのかも知れません。
それが出来れば、きっと次は最適な「おすすめ商品」をリストアップすることが可能になる筈です。同様な行動をとる顧客はどういう購買行動をする傾向があるかなどのデータも揃っているからです。だからこそアマゾンはAIを開発し、結果間違いなく、AI・人工知能の分野は人々の暮らしを変えていくのだろうと思います。
AI関連への投資なら米国株が一番良い
ストレートに米国株(アメリカ株)への投資を考えた方が収益は上がるのでは、という印象です。
さて、そうした前提に立って今回の「AI・人工知能EXPO」で見て、そして学んだことを投資に活かすとするならば、無理に日本株の中にAI・人工知能絡みと思えそうなものを見つけて、そのつもりで投資をするのではなく、素直に米国企業のメインプレイヤーに投資をした方が良いという事です。
正直、今回のビジネスショウに行くまで、前述のPURESTORAGE(ピュア・ストレージ)社は知りませんでした。「御社はアメリカで上場されていますか?」と問い掛けて「はい、NYSEに上場していて20ドル台に戻ってきたところです」と教えてくれました。下のチャートは2017年5月からの週足チャートです。
私自身、初めて聞いた名前の企業ですが、確かにこの2年間の株価運びを見て見ると、それなりにAI・人工知能のビジネス・トレンドの流れの中にいる動きをしていると思います。
財務分析などはしておりませんので、あくまでチャート形状だけのイメージではありますが。ただ少なくとも言えるのは、売れているクルマの販売ディーラーのような立ち位置の企業に投資をするか、或いはど真ん中ではなくとも、少なくともそれにかなり絡んでいる企業に投資をするのかと聞かれれば、私は迷わず後者を選びます。
AI・人工知能という視点で言えば、もっとど真ん中の銘柄に十二分に投資余力が残されているように思いますので、まずはど真ん中を攻めるだろうと思います。