インテルCPU供給の遅れに潜む問題と今後の影響 Part2

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(本記事は、2019年5月に掲載したものの再掲です。)

「なぜインテルのCPU供給が不足」となっているのか?

この話には諸説あるようだ。ただ一番腑に落ちた内容は以下のもの。

  1. 想定していた以上にIntelのCPUが売れてしまったこと
  2. インテルが設備投資を躊躇した4-5年前の影響が表面化こと
  3. 微細化技術の遅れで10㎚が立ち上がらず、未だに14㎚で生産していること

これら3つが複合要因となって、決算発表で見る通り第一四半期の売上は前年同期とほぼ同じであったにも関わらず、更にデータセンタ向けが振るわなかったにも関わらず、純利益はアナリスト予想を上回るというちぐはぐな決算となったのだろう。年後半には改善すると言いながらも、通期の予想のガイダンスを引き下げるというのも、同社の何か苦しい内情を伺わせるものである。

半導体製造の設備投資には時間が掛かる

半導体の製造プロセスというのは実に複雑(近時解説を公開予定)で、一朝一夕に需要に合わせて生産量を増やしたり減らしたりは出来ない。また半導体製造装置は非常に高価なものであるため、稼働率を下げたままで操業すると、あっという間に減価償却に圧し潰されて競合他社に後れを取ることになる。

インテルの場合は、独占的な立場のCPUなので、これまでは殿様相撲を取ることも出来たが、データセンタ向けのCPUでは、競合も立ち上がり始めており、メモリーなどと同じビジネスモデルに追い込まれつつもある。

半導体製造の能力増強には二つのポイントがある。ひとつが「新しい機器の購入、設置、テスト、量産という流れ」と、もうひとつがクリーンルームなどの建屋の増設である。スペースが余っていれば新しい機器を導入することで、それでも数カ月以上の期間が必要だが、能力は増強できる。だが問題はスペースすらない場合である。

日本の総合電機メーカーがDRAMやフラットディスプレイの世界で、韓国や台湾などの後塵を拝するようになったのは、設備投資の意思決定の遅さが故に、上記のプロセスを踏んでいる内に、次世代製品に市場の主流が移ったり、単価の下落に減価償却が追い付かずに利益を出せないまま撤退していったりという構図である。

翻ってインテルであるが、それでも$1B規模の設備投資を増やして既存の「オレゴン」「アイルランド」「イスラエル」のファブを増強しているという。だがこの程度の規模では、全体の設備投資規模からするとある意味で「焼け石に水」の状態なのかも知れない。更に、14㎚から10㎚への微細化が遅れている。

10㎚の立ち上がりの遅れが、14㎚のフル操業を招いたのでは?

一般的に考えれば14㎚のラインがフル操業ならば問題ないではないかという考えもあり得る。しかし、本来は10㎚に移行して作るべき、例えば第9世代のCorei9でも現状14㎚のラインで作っている。そして第8世代のCorei5でさえ14㎚のラインで作っている。既にインテルのラインは正にパンパンのフル操業なのかも知れない。

フル操業で需要を満たすだけの供給を行うためには、一枚当たりのシリコンウェハから取れる完成品のチップ(ダイ)の良品率は極めて高いレベルを維持しなくてはならない。これを歩留まりと呼ぶ。

しかし、無理やり空きスペースに増やした製造装置などで、通常の生産レベルの歩留まりを維持することは、さすがのインテルの生産現場といえども容易ならざることなのであろう。恐らく、製造装置メーカーを巻き込んでの必死の努力が日々続いている筈である。

コア数の増大はダイサイズ(完成品の四角いチップ)の増大をもたらしている

現在のハイエンドのCorei9にはコアと呼ばれる部分が8つ入っている。Corei5ならば6つである。もし同じコアの設計のものだと仮定すると、単純に考えて、Corei9のコアの部分はCorei5の8/6、すなわち4/3と約3割以上の面積が大きくなっている。

更に言えば、CPUにはキャッシュと呼ばれるメモリー機能の回路部分もあり、前者が16MBで後者が9MBである。ここでも単純計算で16/9と凡そ3割増しの面積をもつことになる。

これに更に加わるのが、画像処理を担当するGPUコアと呼ばれる部分である。

面積が大きくなると何が起こるだろうか?現状、半導体製造の現場で使われている一番大口径のウェハのサイズは直径が300ミリ(12インチ)の円盤上であり、この上に四角いCPUを光学処理などしながら製造していく。すなわち、単純な算数だが、ひとつのダイサイズが大きくなれば、それだけ一枚から取れるCPUの数がそれだけでも単純に減ることになる。

更に問題なのが、丸い円盤の中に四角い半導体を作るという事は、外周部ではかなりな無駄が生じるということだ。もし、近くに丸い餅焼き網があれば、それを見て頂きたい。丸い焼き網の中に、四角い目の網が張られている筈だが、外周部の網目は四角くならない筈だ。この網の目を大きくすればするほど、外周部では四角い半導体が作れないことを意味し、単純な面積計算で得られる以上に、採取可能なダイの数は減ってしまう。

これをなるたけ回避する方法が、微細化と言われる技術で、必要な回路をより小さな面積で描けるようにする。だが今のインテルは14㎚が精一杯で10㎚の立ち上げに成功していないので、コア数の多いCPUを作るほど、完成するダイの数は少なくなってしまう。

ちなみに、技術的には半導体製造に特化したファンダリーのTSMCなどは、既に7㎚で生産をしており、年内には5㎚のプロセスにも移行するとも言われている。

GPUコアを非搭載にして歩留まり率を向上させる

ここまで考えてきてインテルの戦略として見えてきたのが、GPUコアを非搭載とすることだ。非搭載とするといってもGPUコアを作らない訳ではない。ただGPUコアを使わないようにする、すなわち良品でなくても可とするということだ。CPUコアとキャッシュメモリーなどがあれば、GPUコアは不稼働でも実質的にCPUとしては使える。つまりGPUコアが不良品でも捨てることなく出荷可能ということだ。

実はこの作戦にインテルが出ている可能性を示唆するのが価格だ。型番の後ろにFがついたGPU非搭載のCPUと、GPU搭載のCPUとの価格差はあっても約3000円程度、中には価格設定が同じものがある。つまり歩留まり率が上がってF版を廃止することが出来る日が来ることを想定して価格を釣り上げたままにしている。

しかし逆に言えば、今のインテルの製造現場の実情は、そこまでしてでも歩留まり率を向上させて出荷しなければ需要に追い付かないほどに切羽詰まって追い込まれているということだと推察できる。

まとめ

現状、インテルは2019年末には10㎚の新しいCPUを出荷できると言ってはいるが、この間にインテルだけに頼っていたクライアントが経験したことは、今後多くの変化をこの業界にもたらすであろう。

またインテルは必ずや従来通りの「天下のインテル」に戻ろうとするだろう。その為に彼らが血眼の努力をしていることは容易に想像がつくし、それを裏付ける情報も諸々流れている。

これこそ、これからの投資のアイデアを練る上で重要な、そして多くのヒントを提供してくれていると考える。因みに、息子の新しいパソコンは、問題なく稼働している。

 

この続きは、Part-3【インテルの現状からのインプリケーションを考える】
へと続く

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