株式投資に失敗しない新聞記事の読み方/ AIチップ日本の出番は本当か?

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今朝(平成31年4月21日)の日経新聞30頁(サイエンス)のところに『「AIチップ」日本の出番』という記事が掲載されていました。見出しからは、「日本の出番が来たのか」、或いは「日本の出番は無いのか」、どちらとも読める(判断がつかない)内容なので、ちょっとこの新聞記事を題材にして「株式投資に失敗しない新聞記事の読み方」について考えてみたいと思います。

記事の主旨

記事は「人工知能(AI)の情報処理に適した専用の半導体回路「AIチップ」を開発する事業が日本で始まった。」という一文から始まります。どうやらAIに特化した専用の半導体を東京大学と産業技術総合研究所が16億円で購入した専用のコンピューターを駆使して、これから設計や検証の支援をして行く、或いは人材育成などにも役立てて行くということのようです。技術や資金に乏しいベンチャーにも門戸を開放するというところが、ひとつのポイントでもあるようです。

ただ世界では既にAIチップの分野では猛烈な研究開発競争が繰り広げられていて、グラフィックチップの最大手である米国エヌビディアが先行、但しそれは深層学習(DL:Deep Learning)に関するものが主流だとも報じています。

そしてこの分野では既に米国グーグル、インテル、アップル、フェイスブック、アマゾンや中国ファーウェイやアリババ集団など米中勢が鍔迫り合いを繰り広げていますと。ただ、それはクラウドの世界の話で、(「端末側」という意味の)「エッジ」ではないので、東京大学池田教授の弁として「日本はセンサーなどの技術に強みをもつ。エッジ側なら戦える」という立ち位置で記事は進みます。

少し技術的な部分に触れ「AIチップの情報処理では、大量のデータの記憶素子とのやりとりが問題になる。既存のCPUは計算のたびに記憶素子の読み書きを繰り返し、処理時間が長くなり消費電力も大きくなる。読み書きを減らし一気通貫で計算できれば、計算時間を短縮し消費電力も少なくできる。」とAIチップの特徴を説明しています。

そしてエッジ側のAIチップについては国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスが早くから頑張っていて、既に製品化して販売中だとも伝えます。

用途としては、工場の生産ラインで不良品を早期に発見したりするのが現状で、今後は自動車やロボットに多数搭載されていく可能性が高いと推論しています。何故なら、高度な処理をAIに全て任せるとなると、瞬時の判断が必要となる為、コンピューターが大きく重くなるので、端末には載せられず、端末とクラウドの間で途切れない安定した通信が必要となります。だからこそAIチップの出番なのだと結びます。スマホの音声認識も今はクラウド処理だけど、今後はAIチップの処理になるだろうと予測しています。

最後にAIのソフト分野に触れ、やはり米大手が席巻し、こちらも日本の存在感が薄いと。だからこそAIチップに日本は活路を見出さないと駄目だと結論付けています。つまり、これから「日本の出番が来たぞ」という意図での記事だと思われるのですが、さて、株式投資の目線で見るとどうでしょうか。

記事の通りだとすると投資対象は?

さて、この日経新聞の記事を元に投資対象を考えてみることにしてみましょう。下記の図は記事中に挿入されていた図の下半分の部分です。ご覧頂ける通り、エッジ用のAIチップを狙うという事であると、対象は①スマホ、②自動車、③ロボット、④センサーというのがひとまずの本文中の例示ということになります。


ただ残念なことに、実は日本企業で今現在こうした半導体を製造している企業と言うのは激減しており、現在(2018年)の勢力図は下記の図の通りです。


第1位の東芝メモリは、AIチップのようなロジックチップではなく、社名が示す通りフラッシュメモリを作っている会社です。

第2位のルネサスエレクトロニクスですが、新規の半導体の開発及びその生産に弾みをつける前に、現在は過剰マイコン在庫(スマホ向け)の削減に向けて、国内9工場で最大2か月の稼働停止を計画しており、2019年の業績に影響を及ぼす可能性が高く、あまり懐に余裕があるように思えません。つまり投資対象としては、少々勇気が必要です。

第3位のソニーセミコンダクタソリューションズは、CMOSイメージセンサで世界トップクラスのシェアを誇りますし、ビジネスショウではエッジ・コンピューティングのひとつとして、CMOSカメラの画像認識のデモを見せてくれました。ただエッジAIではありませんので、AIチップを作るかどうかは疑問です。

そして問題は既にこの上位3社で日本の半導体売上高の54%を占めているということです。日本の半導体業界は非常に特化して分野で、且つ小さく纏まってしまいました。

残る第4位のロームはアナログ半導体やパワー半導体、第8位のサンケン電気もパワー半導体、第6位の日亜化学は半導体ですがLEDなので、AIチップには遠いといえます。

残るは三菱電機かパナソニック、或いは第10位のソシオネクストということになりますが、前者はかつて総合電機メーカーとして多くの半導体を生産していたこともあり、きっと資本も豊富ですから、可能性がゼロでは無いかも知れません。また後者ソシオネクストも確かに同社のWebサイトを見る限りではASICやASSPなどロジック系を作っているようです。但し、非上場なので投資対象にはなりません。

つまり以上見てきたように、仮に記事が言うように産学協同のモデルが成果を産んだとしても、日本でそれを商業生産出来るというか、やろうとする企業が残念ながら見えてきません。ファブレスの半導体企業として新興企業が立ち上がり、台湾のTSMCのようなファンダリー企業に生産を任せるという図式はあるかも知れませんが、今現在のAI産業界全体の状況やスピード感を考えると、AIチップで日本が躍進するという絵を描くのはかなりしんどいような気がします。

業界動向の確認

一方、この記事が示す様に、AIのプロセスの内、Deep LearningやMachine Learningによる「認識」の部分は、GPUを使ったプロセスが現在主流であり、これはエヌビディアが独壇場と言えます。GPUという観点でアドバンスドマイクロデバイス(AMD)もGPUを作っているので、この分野でエヌビディアの背中が見えるのはAMDだけではないかと思います。今敢えてこの両者の牙城に斬り込もうとする勇猛果敢な半導体企業は見当たりません。

一方、AIのもう一つの過程である「推論」の部分は、記事にもある通りCPUが担うのは確かです。そして近時は若干この部分がボトルネックになりつつありましたが、4月になって、相次いでインテルは第2世代XEONプロセッサーを発表したし、クアルコムがスマホのCPUと同じARMアーキテクチャーを利用したデータセンタ・サーバー用CPUを市場投入しました。やはりこの分野は米国勢が圧倒的に優位です。

更に言えば、記事が紹介しているように、グーグルやフェイスブックやアマゾンも参戦してきていますし、アップルもCPU開発能力を確りと持っているのですから、開発競争は激戦化しています。

インテルは第2世代XEONプロセッサー以降の性能向上で、GPUから入るのではなく、あくまでCPUからGPUの領域を奪取することを考えているようでもあります。

一方、本新聞記事が報じるように、大きな時代の流れの認識として、今後の自動運転やIoTが齎す大量のデータが全てクラウドに集中したら、クラウドでのコンピューティング処理がより大変で追いつかなくなるので、これをエッジ(端末)で処理をさせたいというエッジAIの考え方は益々広がりつつあるのは確かな話です。事実、「AI EXPO」などのビジネスショウでも、「エッジ」という言葉は多くのブースで聞くことが出来ました。

当然5Gがエッジとクラウドを繋ぐ大切な役割を担うことは確かですし、AIチップとデータストレージの高速接続と超低レイテンシーというのは今最もホットな話題のひとつです。この辺の内容については、「AI EXPOのレポート」で触れさせて頂いた通りです。

クラウド内でAIが行うことと、エッジでAIが行うことは当然同じではありません。エッジAIでは、例えば画像認識に特化する、加速度センサのデータ処理に特化するなどすればよく、汎用性を求める必要ありません。だとするとエッジAIに必要なのは、ダウンサイジングされたAIチップであり、或いはFPGA(Field Programable Grid Array:プログラマブル・チップ)半導体です。

前者は既にエヌビディアがJetsonというプラットフォームを開発済みですし、またFPGAの分野に関しては、米国企業のザイリンクス、或いはインテル(FPGAの専業メーカーAlteraを買収済み)などがリードしています。

日本が入り込む余地は既にかなり限られている

新聞記事のトーンでは、AI分野の内、まだエッジの部分には日本企業が参入する余地が残されているようにも紹介されていましたが、見てきたように、①日本でAIチップを生産する可能性のある半導体企業は極めて限られていると思われること、②既に半導体のみならず多くのハードウェアの分野は米国企業に激戦の場になっており、おっとり刀でこれから産学共同で参入しますという余地は極めて狭いように思われる、というのが見立てです。

但し、AIに関わる分野の内、自動車の自動運転の世界については、日本に大きな可能性とチャンスがあると思われます。寧ろ自動運転については、米国よりも日独の闘いになるかも知れません。ただ周辺テクノロジーとの絡みもあるので、日米独、それに中国を加えての闘いになることが見込まれます。

テクノロジーは米国企業を対象にする

かねてから申し上げている通りなのですが、日本は失われた20年と呼ばれた期間に、多くの最先端テクノジーの分野で諸外国の後塵を拝するようになってしまいました。その典型的な例が半導体分野だろうと思われます。

以前は日本の総合電機メーカーがDRAMをガンガン作って世界を席巻していましたし、その生産技術を生かしてフラットディスプレイの世界でも、日本は世界の最先端を歩むかと思われました。しかし、今ではご承知の通り「日の丸半導体」も「日の丸ディスプレイ」も中国や台湾の軍門に下り、DRAMは韓国勢に取られました。

さはさりながら、日々世界で技術革新は進んでおり、新しいハイテク機器や様々なデバイスが世に登場し、新しいシステムやソフトウェアが人々の生活を変えています。今、その最もホットな大革命がAIであり、自動運転であり、またIoTや5Gと言った流れなのだと思います。これらの流れはやはり米国から始まりました。

AIの流れをもともと加速させたのは、例えば顧客の属性や購買動向、或いはWeb内での商品選びの動向などから、顧客の嗜好をいち早くつかみ、より最適な商品提案に結びつけようとしたAmazonのニーズに基づいていたり、SNS内で繰り広げられるコミュニケーションから、より有効な広告媒体となろうとするFacebookなどのニーズに基づいていたりします。つまりIT革命の延長線上に起きた新たなる変革期であり、その根っこが米国にあるのは当然の事と言えます。

ならばAI絡みの投資を考えるならば、無理にこじつけるように日本企業の株式に結びつけるよりも、素直に米国企業、すなわち米国株(アメリカ株)への投資を行う方が、着実な成果を上げられるように思います。

但し、前述したように、自動車の分野だけは日本が世界に誇れる(自信を持って言えます)最先端の技術を握っており、この世界は両睨みで銘柄探しをして行けると思います。

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ファンドガレージ 大島和隆

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