新型コロナウイルスに関する日本とアメリカの違いに関して
※本稿は実際に米国での留学生活を終えて帰国したばかりの大学院生に、「リアルに自分自身が体験し、そして感じた米国の新型コロナ事情をレポートして欲しい」との依頼に基づいて寄稿して貰ったものをそのままご紹介するもの。
はじめに
本題に入る前に、まず簡単に私の自己紹介をさせて頂きたい。私は都内にある某大学の大学院修士2年生として経済学の研究をしている。入学した当初から留学を志しており、コロナ渦で大学院の留学プログラムは機能していなかったが、何としてでも留学をしたかった私は私費で半年間の留学を決行した。留学中はシアトルに4ヶ月、ボストンに2ヶ月滞在し、アメリカ両海岸の生活を体験しつつ、英語の勉強に邁進してきた。
今回、ご縁あって私が留学中に見聞きしたリアルなアメリカの生活の様子を寄稿する機会を頂いた。尚、ここでの文章は筆者の個人的な感想・見解に基づくものであり、Fund Garage様の公式見解でないことはご留意頂きたい。
「日本人は元の生活に戻る気力を失ってしまったのだろうか?」
これがコロナ渦でアメリカに半年間留学し、緊急事態宣言下の日本に帰国した最初の感想である。
まず、アメリカで生活していく中で体験したコロナ渦の生活に関して簡単にまとめる。屋内でのマスク義務化はデルタ株の感染拡大に伴って実行されているが、屋外では基本的にマスクをする必要はない。スポーツやコンサート、学校関係のイベントは基本的に屋内外問わず満席体制で行われている。飲食店の時間制限は特に設けられておらず、深夜であろうとも営業している店舗は営業している。逆に、店舗内飲食を完全に禁止してテイクアウトのみにしている店舗もある。肌感覚としては8:2程度であろうか。お酒を提供するレストランやバーの多くは完全に営業しているが、軽食店やファストフード店がテイクアウトのみの営業をしているようなイメージであった。以上のような状況を踏まえ、日本とアメリカのコロナ渦での生活を比較すると幾つか違いがあるが、今回は3つお伝えする。
アメリカでは屋外でマスクを装着している人をほとんど見ない
1つ目は、私が最も驚いたことである「屋外でのマスク装着」についてお話ししたい。先に述べた通り、アメリカでは屋外でマスクを装着している人をほとんど見ない。8月頃からのデルタ株の感染拡大に伴い、屋内でのマスクが義務化されている地域も多いが、それでも屋外ではほとんどの人がマスクを装着していない。それどころか、マスクをしていない人はワクチン未接種であることを周囲に公言しているような状態と認識され、逆に危険であるという発想が浸透している。帰国直前にはカリフォルニアのディズニーランドにも遊びに行ったが、屋外では誰もマスクをせず、アトラクションに乗るために屋内に入る時にキャストの指示でマスクを装着していた。日本ではこれは真逆で、例え蒸し暑い炎天下・熱帯夜の屋外であろうとマスクを外さないらしい。実際に友人と電話して話を聞くと「屋外だろうとマスクをしていない人はやばいやつだから、近づかないようにしている」とのことであった。それどころか「今はちょっと大変かもしれないけど、冬場になれば顔を隠せるから日本人の習性にあってるんじゃないだろうか」とまで言っていた。私は彼が花粉症のシーズン以外に外でマスクをしているところなど見たことが無いが、真剣にそう思っているのだろうか。私が日本を発つ前にはもう少し皆がマスクに抵抗しているように見えたが、半年後に帰ってきた時には完全に世界が変わってしまっていた。この半年間に何が起きたのかは、今後友人と直接会って話していく中で改めて考えてみたいと思う。
多くの人が集まるイベントも通常通り開催されている
2つ目は「イベント/エンターテインメント」に関してお話しする。アメリカでは野球やアメリカンフットボールと言ったスポーツイベント、アーティストのコンサート、大学の卒業式など一か所に多くの人が集まるイベントも通常通り開催されている。コロナへの対策はイベントにより異なるが、基本的にはワクチンの接種が強く推奨され、最低限でもイベント前にPCRの陰性証明を用意することが基本となっている。ここからは私が実際にイベントに赴いた経験を基に個別に紹介する。
野球に関しては、6月頃まで座席がワクチン接種者と未接種者で分けられており、ワクチン接種者は内野席のフィールドに近いところで観戦が可能、未接種者は遠くのスタンド席から観戦する形であった。しかし、7月頃からこの垣根が取り払われ、現在ではワクチンの接種未接種に拘わらず全ての席で観戦が可能である。勿論、歓声や7回の途中で歌われるTake Me out to the Ball Gameの斉唱も健在、アルコールを含む飲食の提供も行われている。
アメリカンフットボールに関しても同様で、8月に観戦したプレシーズンマッチでは、ワクチンの接種未接種に拘わらず全ての席を利用できた。ソーシャルディスタンスを考えた席配置は特になされず、まるでコロナ渦など嘘かのような光景が広がっていた。
続いて音楽イベントに関してだが、私が参加したMaroon 5のコンサートでは、入場時にワクチン接種証明書(米国CDCカード)もしくは48時間以内のPCR陰性証明書が必要であった。しかし、一度入場してしまえばお酒や食事も自由に購入することができ、後方の芝生席では観客が柵に詰め寄って押し合いへし合いライブ鑑賞している光景が見られた。日本では現在、マスクを装着したうえで声を出さずに行うライブ鑑賞しかできないと聞いている。実際、私自身も自主隔離明け直後にライブに行く予定があるので、今の日本のライブがどのようなものかこの目で確認したいと思っているが、楽しめるかは正直かなり不安である。
ワクチン接種証明書もしくはPCR検査の陰性結果の提示を義務化し、以前と同じような形態でライブを行ってはいけないのだろうか?感染リスクは多少増すのかもしれないが、勿論できる限りの対策を取ったうえで、そのような場に出てくる人同士ならもう自己責任でいいだろう。医療崩壊が云々という反論も聞こえるがそれこそ今更であるし、これは後述するがPCR検査すらろくに用意できない医療政策がおかしいだけだろう。多くの会社員や学生が満員の通勤電車に乗って出勤・通学をし、既に人と接触するリスクを大きく取っているのだから、ここにライブが増えたところで何が変わるのだろうか。「仕事はしろ、でもエンターテインメントは強烈に制限する」というこの現状は、正直私としては理解に苦しむ。社会人の皆さん、よくそれで我慢して生きていられますね。人生楽しいですか?とさえ思う。
ドライブスルーの薬局で無料のPCR検査を受けることができる
3つ目には「医療体制」についてお話ししたい。具体的にはPCR検査や、ワクチンについてである。本当は療養体制についてもお話しできればいいのだが、幸か不幸か、私が半年間留学している間に私の周辺にコロナ感染者は一人もいなかった。なので、詳細にお伝えすることはできない。一応私の見えた範囲で想像も踏まえてお話しすると、私は通っていた語学学校の寮に住んでいたのだが、隔離用のフロアやエリアが用意されていた。恐らく自宅療養が可能な軽症であればここで隔離して療養し、必要があれば入院という形を取るのだと思う。その意味では日本と一緒ともいえる。
さて、私のお話しできるPCR検査についてであるが、アメリカでPCR検査を受けるのは非常に簡単であるし、なんと陰性証明書まで含めて無料だ。アメリカではドライブスルーの薬局で無料のPCR検査を受けることができる。オンラインでフォームに個人情報を入力して予約し、その時間帯にドライブスルーに行くと鼻に入れる綿棒を渡され、自分でそれを鼻に入れて検査を行う。結果は早いものだと1時間後にはオンラインで確認することができ、それを印刷すれば陰性証明書として扱うことができる。勿論、海外渡航用に特定の書式が必要なPCR検査となると120ドル程度と値は張るが、国内でのイベント参加等に必要な陰性証明書としては無料のもので十分である。対して日本では陰性証明書一つ取るのにも病院に行って高いお金を払う必要があり、これが日本の経済回復を鈍化させている一因にも思える。先ほど述べたイベントや旅行で陰性証明書を義務化することが簡単にできないのは、一般消費者が受けるPCR検査が日本では難しいからなのではないだろうか。
ワクチンはどこでも即日受けることができる
続いてワクチンについてであるが、アメリカでは正直どこでも即日受けることができる。学校だろうと薬局だろうとSafewayをはじめとしたスーパーマーケットだろうと受けられる。日本のように何日も待って予約を取り、渋谷で若者が並んで抽選なんて事態にはなっていない。シアトルの何でもない道端を歩いていても、薬局の前を通れば、「ワクチン打ちました?すぐ打てますよ」と聞かれる。普通に暮らしていて、アメリカではワクチンが余っているのではないかとすら思う。このような状況で、アメリカではワクチンを打つことが当然となっている。
私も日本人なので、ワクチンの副作用が怖いから打ちたくないという人の気持ちはわかるし、異物混入なんて事件が起きてしまったら更に怖いこともわかる。お上の杜撰なワクチン管理は言語道断だ。だが、これだけの事態なのだから元の生活に戻るのには多少のリスクは必要だと考えてみてほしい。最低限、陰謀論に振り回されたり、ワクチンを打たない人の権利云々を主張したりしないでほしい。政府や医療機関は明確な解決策を提示しているのであるから、それを取るも取らないも自由であると同時に、自分の選択に責任が発生することを認識してほしいと思う。
元の暮らしに戻ろうとすることに貪欲なアメリカ
以上をまとめると、これは個人的な感想だが、アメリカはとにかく元の暮らしに戻ろうとすることに貪欲だと感じた。副作用のリスクはあることは承知でワクチンを打ってでも元の生活に戻ろうとしている。エンターテインメントはワクチン接種者である限り全てが提供されているし、国内旅行も、飲食店に入ることも、外でマスクを外すことも何も問題ない。逆に、日本はゼロリスクに囚われ過ぎて疲弊し、元の暮らしに戻ろうとする意志が薄れているのではないかと感じている。数字だけを見ればアメリカの感染者数はけた違いに日本と比べて多い。それでも人々の顔は明るいし、コロナ渦から脱却しつつあることをどこにいても感じることができる。対して日本は毎日の新規感染者数に大騒ぎし、先週の感染者と比べて増えれば問題だ、減ってもまだ注意が必要だと常に暗い話題で満ちている。これにはメディアの問題、政府の問題、日本人特有の同調圧力の問題と様々な問題がありここでは語りつくせないが、最後にこれだけはお伝えしたい。取るべきリスクは取って前を向こう、リスクに対してリターンは釣り合うようにできているのだから。
以上、私が実際にコロナ渦から脱却しつつあるアメリカで生活し、日本に帰国して感じた率直な感想である。思うところが多すぎて多少感情的になっている部分もあるが、ご容赦願いたい。日本人の同調圧力なんぞには屈せず、自分自身の経験を基に楽しく生活したい。そしてせめて私の周りの人だけでも、コロナ渦からの脱却を諦めて暗くならず、楽しく生活してほしい。私の願いはただそれだけである。