仮想通貨取引所の「コインチェック」が、顧客から預かった仮想通貨「NEM(ネム)」580億円分の流出問題については、保有していた約26万人全員に、全額では無いが約463億円相当を日本円で補償すると発表したので、被害者のダメージはそれなりに緩和されると思うが、同社COOである大塚氏が書かれた著書「いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン」をあらためて読み返してみると、実は「こんなことは有り得ない」という記述が、COO自身の文章として記されている。

それは、本事件の内容を聞いたら普通の金融マンなら極々当然に疑問を抱く顧客資産の保全という考え方に対する疑問への答えともなっている。

曰く取引所は当然顧客の資金を預かっているので、それは事業性の資金と分離して管理してあるとか、「マウントゴックス事件とは何だったのか」という見出しのもと、コールド・ウォレット(インターネットに繋がっていないオフラインのもの)を利用しているなど、そのセキュリティ対策には万全を期しているとの記述が並ぶ。もしマウントゴックス事件の後に本書を読んで、仮想通貨取引を始めたのだとすれば、相当「コインチェック」には裏切られた気持ちになるだろう。

あらためて、なのにどうしてこんな事件が起きたのか、また約463億円はどこから出てくるのかなど、あらたな疑問が湧いてくるのは私だけでは無いのであろう。そしてもし、ここまでセキュリティ対策の意味を知っていて、それを怠った結果の事件であるなら、通常、金融庁は「知ってて起きた事件は、知らずに起こった事件よりも厳しく対応する」という原則を貫くのではないか?だとすると、この返還決定で幕引きになるというのはまだ早いかも知れない。

またもうひとつ面白いのは、今回被害の対象となった仮想通貨「NEM(ネム)」は、大塚COOが本書を執筆した時点で取引所の取扱い対象にはなっていない。その後に加えられたもののようだ。

本書を読むと「ビットコインでも機会があれば少し買ってみるか」と思わせる内容にはなっている。ただ、ところどころ、冷静に読むと「無い、無い」と気が付く点がある。またなるほど仮想通貨とはインターネットという国境や制約の少ない特殊なネットワークインフラが産み出したものなのだなということが分かる。頭の固い私には、多分縁遠い存在のままだろうなとは改めて思うが、内容を知って、ここで飛びつく人も居るだろうとは思う。

 

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