今朝の日経朝刊(9/4)早読み。北朝鮮が3日に強行した大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水素爆弾の実験は、どの程度、トランプ大統領のレッドラインを越えたのかが今後の焦点となろう。
1. 北朝鮮が6回目の核実験
報道によれば「北朝鮮は3日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水素爆弾の実験に「完全に成功した」と発表した。核実験は2016年9月9日以来、約1年ぶりで通算6回目。爆発規模は過去最大とみられる。日米韓に加え、中国やロシアを含め国際社会は一斉に非難した。」(日経朝刊9/4より引用)とある。ただこの手の報道には既に慣れてしまった感じも正直あり新鮮味はない。きっとこの後、国連安全保障理事会の緊急会合で「強い非難」があり、経済制裁を強化することで一致し、そして中露は北朝鮮への石油禁輸制裁という段階にはまだないと優柔不断を続けるのだろう。米国トランプ大統領は引き続きTwitterでブツブツ呟き、平和ボケ日本の国民は明日にはこのことを忘れて、ワイドショーの芸能人の不倫や出来婚の話題に目を凝らす。この状態が続く限りは、市場は大きな変動を起こすまい。為替は109円台、日経平均は19,500円前後というのが、この隣国の地政学的リスクと自国の平和ボケの均衡点だと思う。
2. その均衡点を崩すもの
均衡点が前向きに崩れるとしたら、それは中露が日米間やそのた諸国に足並みを合わせて、北朝鮮への石油禁輸制裁に同調することだ。そうすれば一旦均衡点は前向きに崩れて市場は前進するかも知れない。ただ、窮鼠猫を噛むことわざ通り、その段階で北朝鮮がどう出て来るかだ。本来、そこですかさずロシア・プーチン大統領か中国・習近平国家主席(党総書記)の仲介で、何らかの北朝鮮と米国との交渉が交わされれば、この地政学的リスク問題は収束出来るであろうが、中々そうバラ色のシナリオにはなり難い。
3. 米国が近々軍事行動を起こす可能性は低い
逆に後ろ向きに崩れるとしたら、現時点において北朝鮮がトランプ大統領のレッドラインを越えてしまっており、米国が軍事行動を起こすというシナリオだ。だが、この可能性は現時点では極めて低いと言わざるを得ない。ただそれは決してトランプ大統領が慎重にものを考えるからというような話では無い。米国には今それをするための金が無い。
米南部を襲った大型ハリケーンの「ハービー」による被害総額は、2005年の「カトリーナ」を上回り、最大1900億ドル(約21兆円)に達すると予想されている。これを受けて、トランプ大統領は当面の復旧対策などに約4%相当の78億5000万ドルの予算措置を決めるよう議会に求めたが、これによりニューシン米財務長官は連邦債務が上限に達する時期に関し数日早まりそうだと言っている。つまり国内事情で海外に撃って出る資金が無い。
4. 米軍艦艇が相次いで事故を起こした背景も既に資金不足
今年6月に米国イージス艦「フィッツジェラルド」がコンテナ船と衝突し、8月にはミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」が商船と衝突した。またオスプレイがオーストラリア沖で墜落したり、大分空港でエンジンが火を噴いたりと、どう考えても世界最大最強の米国軍の嘗ての威容からは想像もつかないような事件が多発しているのは、前オバマ政権時代から続く米軍への国防予算カットだ。それは艦船などの整備や装備品の補充、或いは人員の補充や訓練など、幅広いところに影響をしており、結果として不慣れな乗員による事故や、整備不良による事故が多発している。日本を守る米国第7艦隊もその例外ではない。
既にこのように現実には資金がショートしている段階で、間もなくお国そのものが債務上限に引っ掛かり、政府自体がシャットダウンという危機を控えている。北朝鮮相手に一戦を始めるには、国防予算がまず足りない。なら日本がそれを支援するかと言えば、現状の国内世論からすれば、そのムードは全く醸成されていないし、政治家にとって大切なお年寄りは戦争反対派が多いだろう(若い世代が賛成派という意味では決してない)。故に、トランプ大統領は「Twitterで呟く」という、お金の掛からない戦法を当面は取るしかないし、安倍首相も「より一層強いトーンで非難するとともに、日米は方針で完全に一致した」と言ったセリフを繰り返すしかない。
この状況を反映してか、既に米国内では北朝鮮核保有容認論及び、日本の核武装容認論が浮上している。内向きになった米国は、世界の警察であることを放棄することも、ひとつの選択肢になっているのだ。日本の世論はそれに気が付いていないのか、若しくは敢えて見てみぬふりをしているのかは分からない。
5. Wall Street Journalから米国側の対応
(軍事的側面)
ジェームズ・マティス米国防長官はトランプ米大統領が招集した国家安全保障に関する会議に出席した後、ジョー・ダンフォード統合参謀本部議長とともに現れ「われわれには多くの軍事的な選択肢があり、それぞれについて大統領から説明を求められた。もし米国や日本、韓国が攻撃されれば、大規模な軍事的対応を受けることになり、その対応は効果的かつ圧倒的なものになるだろう」とは言っている。
(経済的側面)
スティーブン・ムニューシン米財務長官は北朝鮮を経済的にさらに孤立させる手段をトランプ氏と話し合ったと明かした。ムニューシン氏は「今回の行動が完全に受け入れられないものであることは明らかだ」とし、「われわれはすでに制裁を開始している。だが、彼らと貿易やビジネスをしたいと考えている国が米国と貿易やビジネスができないようにすることを大統領が真剣に検討できるよう、新たな制裁案をまとめて提出する」と続けたという。
さて、既に北朝鮮が米国のレッドラインを越えたのかどうかは分からない。ただ、仮にレッドラインを越えていたとしても、米国にも諸事情があるのも事実である。この先どうなるかは、現時点では何も分からないのが地政学的リスクだ。