今朝の日経朝刊(9/1)早読み。防災の日の今日の日経一面は、公務員の定年延長の記事がトップを飾っている。民間に範を示すためには良いかも知れないが、肝心な財源の方はどうするのか?そう言えば、アベノミクスの中には、当初プライマリーバランスの話もあったように思うが・・・。今日は批判的なトーンで諸々纏めてみた。

1. 新規公開株の初値の問題

「ユーチューバー」のマネジメント事務所、UUUM(ウーム)株が31日、上場2日目で初値を付けた。公開価格の3.3倍となる6700円で、初値ベースの予想PER(株価収益率)は153倍となったと報じている。PERが153倍が高過ぎるかどうかの議論の前に、何故、公募価格と初値がこれほどまでに乖離したのかを考える必要があろう。IPO市場が超活況でどれもこれも初値がスカイロケットの状態ならばたいした問題ではない。ただ公募価格の値決め自体に間違いは無かったのか?ネット関連株のPERが高いのは至極当たり前のことで、PERをバリュエーション指標の一つとして公募価格の上限のようなものを見ていたのだとしたら、余りにも主幹事証券の値決め方法が稚拙過ぎる。初値と公募価格の乖離が大きくて喜ぶのは、初値で売り逃げる人だけかも知れない。こうした例が増えると、またぞろIPOバブルならまだしも、IPO銘柄を使った不正問題が起きる可能性がある。初値が高いことを喜ぶ前に、公募価格の妥当性についての議論をもっと慎重にすべきだ。

2. ANAのCB発行、その発行体の真意は正しいか?

ANAホールディングスがユーロ建てのCBで1400億円の資金調達を行うという。資金使途は航空機の購入資金と、自社株買いに使うという。前者は通常のビジネス目的のファイナンスであるから問題は無い。しかし、後者の自社株買いというのはどうであろう?朝刊によれば「自社株取得の単価が転換価格を超えない場合は、CBが全て株に転換されても発行前より株数は増えないため希薄化を防げる」(同社)(日経新聞朝刊9/1より引用)と、一見既存株主への配慮を感じさせるが、これって株価が業績向上によって上がることが無い可能性を示唆していると取られてどう反論するのであろう。本来、こうしたエクィティ・ファイナンスは、資本に変わるリスクを取る傍らで調達コストを下げるために行われる。だからこそ、転換によるダイリューション(希薄化)が進んだとしても、既存株主には業績向上による株価の値上がりで報いるというのが、資本市場から資金を吸い上げる方法の基本倫理ではないだろうか?その意気込みが無くて、資本市場から資金を吸い上げないで欲しいものだ。前述のUUUMの話と併せ、資本市場からの資金調達について、どうも歪みが出てきている。自社株買いは、本来、利益から捻出された余剰資金で行うべきものだ。

3. AIの現実を垣間見た気がするのは気のせいか

AIを使った商品やシステムの記事が二つ紙面を飾っていた。ひとつ目は13ページの「ソニーもAIスピーカー」という記事。もうひとつは14ページの「観客の表情で満足度をはかる」というもので、前者にはGoogleの技術が、後者にはMicrosoftの技術が使われる。どちらもAI研究の先端を走っていると言われている企業だが、極論で言えば、前者は音声認識のレベルの話で、AppleのiPhoneなどに搭載されているSiriと比べてどれほど目新しさがあるのだろうか?また後者はAIの技術というよりは、画像認識/分析のクオリティ・レベルの問題で、まだイメージセンサーの技術革新の段階のように思われる。シンギュラリティだなんだというレベルの話とは、まだかけ離れた話だ。更にがっかりに追い打ちを掛けるのが日本を代表すると思われるハイテク企業のSONYもPanasonicも自社技術では対応出来ない点だ。かつて民主党政権下で行われた事業仕分けの時、蓮舫氏が「スーパーコンピューターは世界一でないといけないのか」という発言をして物議を醸したが、産学共同で新技術を開発する米国と、前述のような風土の中で民間任せの基礎研究の差が、ジワジワとこうした最先端分野で日本の競争力を削いでいるのだとしたら、非常に嘆かわしいことだ。

4. オーナーが変われば事業も伸びる

14ページの村田製作所の電池事業の記事はホッとする話だ。ソニーが手放した電池事業に500億円の投資をまず行い、その後も継続的に毎年200億円規模で続けることで、現状世界シェアトップのPanasonic(22.8)をも上回る20-30%のシェア獲得を狙うという。セラミックコンデンサー制作で蓄積された電子部品の製造ノウハウなどが活かされるのだと思うが、こうした前向きな話に株式市場は素直に反応して欲しい。またこうした為に必要な資金が必要な時こそ、資本市場からの調達は本来歓迎される。現状の村田製作所にその必要は無いと思うが。

5. 予想通り、東芝の半導体メモリー事業売却はまだ決まらない

新聞報道が事実だとすれば、東芝は非日本企業との契約交渉という点について、まるでノウハウが無いのではないかと疑ってしまう。その典型例が「「口頭での説明内容が契約書に全く反映されていないじゃないか」。東芝の交渉関係者は憤る。」(日経新聞9/1朝刊より引用)というもの。平たく言えば、口約束が文字になっていないということだが、非日系企業と契約書を交わす時の基本原則は、英語で書かれた書類の文言を双方で確認し合って修正が必要な点は直していくということ。口約束が通用するのは、純日本的な古典主義的阿吽の呼吸の契約だけだ。大工の棟梁さんへ追加工事を少々お願いするのとは訳が違う。またその一方で、純日本的なシャンシャン取締役会では無く、取締役会で喧々諤々の議論をしているようだ。本来あるべき姿ではあるが、要は社内の意思統一すら出来ていない印象を醸し出す。3月までは上場廃止にならないと言う事だが、一部上場企業という権威付けに日々泥を塗っているような気がしてならない。ガバナンスはどうなっているのだろうか?