今朝の日経朝刊(8/23)早読みは、投信・運用手数料引き下げの構図は正にポピュリズム政治と同じ。東芝とWDの交渉は、やはり予想通りの状況に。ウォルマートとGoogleの提携でAmazonがどう出て来るか?など大きく3テーマです。

1. 投信の運用手数料は安ければ良いというのは一部の幻想に過ぎない

金融経済面に「投信 運用手数料下げ競う」という記事がある。この流れについては、個人投資家の為という視点で考えて、実に残念な流れだと思っている。これこそ正に政治の世界の「ポピュリズム」と同じ構図で、最終的なつけは、必ずや個人投資家が払わされることになる。

(ア) 発注手数料の自由化は、明らかにリサーチの質とレベルを押し下げた

実例を挙げれば、90年代後半に証券会社の発注手数料の自由化があった。これにより機関投資家のそれも、ネット証券のそれも「安いことがお客様の為」という考え方が蔓延り、手数料の引き下げ競争が活発化した。機関投資家サイドで大きな旗振り役だったのは、公的年金である。ネット証券で株を売買出来るような、自ら銘柄選びを済ませられるレベルの高い個人投資家ならば、売買注文を執行するだけのプラットフォームということで、確かに手数料は安ければ安い方が投資家の為になるのは事実かも知れない。

(イ) 情報は無料という錯覚

しかし、日本は良質なものでも「情報は無料」という文化であり、リサーチなどの情報の為に費用を払っては貰えない。その結果として起きたことは、リサーチの質の低下、外資系証券の日本株業務からの撤退や縮小だ。これは業界の間では恐らく共通認識だと思うが、セルサイドの優秀なアナリストのそれにバイサイドのそれは到底追いつかない。リサーチなど誰にでも出来るかの如き幻想は、一部のブロガーさん達の見栄か錯覚に過ぎない。良質な情報はそれなりに高いものだ。腕の良い職人の手間は、古今東西、常に高いのだから。

(ウ) 信託報酬の中の(ノーロード型を除き)販売会社取り分は不要だ

話は戻って投信の運用手数料である。確かに信託報酬に含まれる「販売会社の取り分」は、その存在意義すら希薄だと思うが、運用会社のそれはより良い運用をするためのコストの生命線だ。運用手数料が少なければ、どこから運用会社のファンドマネージャーやアナリストのリサーチ・コストが賄われるのだろうか?前述したように、既に証券会社のリサーチの質はかなり低下している中では、何とか自前主義を完遂しなければならない。にも拘わらず、そのコストが出ないとなると、もう運用会社もお手上げである。運用会社のP/Lは人件費と装置費用の塊である。原材料費も仕掛品の不良在庫処理費用なども必要ない。充分なリサーチも分析も出来ない環境で提供される商品は、結果として悪いパフォーマンスとしてお客様に還元されるだけだ。

(エ) 運用を知らない監督者たち

狭義ではなく、広義に監督者の定義を捉えて欲しいが、実際に投資判断業務に心血を注いで苦労した経験が無い人に、運用会社の本質は分からない。ただ多くの監督者たちは、実は投資判断業務に携わった経験の無い人、若しくは全くの門外漢が多い。そこにポピュリズムが「手数料は安くあるべき」という利いた風な理屈を吹聴するから、運用成果が上がらず、やっぱりインデックス運用(パッシブ運用)の方が優れているという安直な答えが導き出される。事実、良好なパフォーマンスがセールスポイントの欧米のヘッジ・ファンド(オルターナティブ・ファンド)の運用報酬(信託報酬)は、販売会社分など含めずに1.5%などザラにある。その上に、運用サイドの成功報酬までが加算される。一部の超富裕層だけがそうしたファンドを購入するチャンスを持ち、更に良好な運用収益を手にしているのが実態である。運用の世界はイオンやウォルマートではなく、「安かろう悪かろう」の理屈が罷り通る分野が厳然とあることは覚えて置いて欲しいものだ。

2. 東芝とWD、月内決着を目指すというが難しいと思う

昨日既報の通り、東芝とWDは交渉のテーブルに着いた。それを促したのは、やはり尻に火が付きそうだと察した銀行団だった。あまりの東芝経営陣の危機感のないイニシアティブの無さに業を煮やしたのだろう。年間3000億円の設備投資を少なくとも継続しないと、完全に半導体業界競争に負けて、全部が不良債権化することに恐れをなし、喝を入れたとも言える。ならば最初から日米韓連合など組成させなければいいのにと思うが、どうも産業革新機構と日本政策投資銀行は、こうした案件にはしゃしゃり出てくる。問題は、ちゃんと予定通り、両社は債権回収が出来ているのかなというところだが・・・。

話は当事者に戻って、WD側も実は尻に火がついている。San Diskの巨額のれん代償却が発生するのは避けないとならない。その意味では当初から東芝と運命共同体だったのだ。現在資産査定中というが、恐らく、既に1兆9,000億円のオファー・プライスはその価値が無いことにWD側は気が付くだろう。その時に出て来る条件を、あと一週間で東芝経営陣が飲めるかどうか、その判断を時間内に出来るかと言えば、極めて疑わしい。さてさて、そろそろ最終局面、同社の株価にポジティブなことにはなりそうもない。

3. ウォルマートとGoogleの提携でAmazonはどうでるか

Wall Street Journalには昨日のうちに掲載されていたので、Fund GarageのオフィシャルFacebookページには記事の共有をさせて頂いたが、これはちょっと興味がある展開になるかも知れない。ポイントとなるのは、Amazonが長年かけて作り上げて来た物流インフラの対抗軸となるようなそれをウォルマートが作り出せるかという事である。単に、リアル店舗でやっている宅配便の延長線上という話ではAmazonの敵にはなれない。それくらいAmazonの物流システムはe-commerce用に作り込まれている。単に、日本の宅急便問題のようなことだけではない。実際、楽天が数年前に一度自前の物流センターを作って、結局は赤字を抱えて閉鎖に追い込まれたことは記憶に新しい。

例えばAmazonの利用者ならば分る筈だが、Amazonの梱包は恐ろしく無駄に大きいと感じる段ボールで包まれている時がある。あれにはちゃんとした理由がある。無駄なようで徹底的な効率管理を運送時まで含めて考えた結果だ。また物流センターを実際に見学したことがあるが、倉庫の棚に並んでいる商品は、ちょっと見には全く整理分類されていないように見える。だが、それはAmazonの独自のノウハウで、消費者の購買パターンから、同梱されそうなものを固めて置いてあるという。ピックアップする効率を上げているのである。一方で恐らく、ウォルマートの倉庫は、カテゴリー、品種別に誰が見ても整然と並んでいる。どちらの物流システムに軍配が上がるかは興味の尽きないところである。