今朝の日経朝刊(8/17)、興味をそそるのは何処もかしこも運用難なのだなということ。日本が再び繁栄する良い機会ではあるが、問題はきちんと舵取りを出来る人が居るかだ。

1. 少なくとも6つ以上の運用難に関わる記事がある

朝刊本誌、見出しや切り口、主語や対象は様々だが、数えてみると少なくとも6つ以上の記事が運用難のことを語っている。実は今朝の新聞を開かずとも、多くのセクターが資金の運用先に困っている話は枚挙に暇がない。

「物価見通し、低空飛行」という見出しの記事に象徴されるように、市場は日銀の期待に反して、物価が上昇するとは思っては居ない。それは消費者の安値志向が続くからであり、円高が輸入物価を押し下げるからであり、HV/EVカーブームが益々原油離れを引き起こしてガソリン価格も下がるからだ。にもかかわらず、インフレ率2%に拘る日銀の金融緩和政策は市場に資金を供給し続け、ジャブジャブにしたままだ。故に昨日の新発10年国債利回りは0.04%、無担保コール翌日物金利は△0.047と異常な低さを保っている。これではどこもかしこも「運用難」という旗印を掲げてもおかしくない。

2. お金は稼げるところに向かっていくが、代償は大きくなるかもしれない

リスクとリターンの関係がトレードオフであることは、今更教科書をめくる必要もなく、もし何なら、このブログの「新入行員諸君!リスク商品でござる」の原稿を最初から幾つか読んで貰えれば要点は抑えられる筈。それはさておき、リスクフリー・レートの代替とも言える上記二つの金利水準から、より高いリターンを得ようとした場合、それは必ず等価のリスクを負うことになる。期待リターンの平均を富士山の真ん中に縦の線として引いたら、そのすそ野は右側にも左側にも公平に美しい稜線を書くように広がる。決して片側が緩かったり、クリフハンガーのような絶壁になったりはしない。更にそこに運用コストが掛る分、どちらかと言えば損失側の稜線の方が豊かになってしまう。

3. ある人は不動産へ、ある人はアジアのヘッジファンドへ

記事によれば、第一生命は一度撤退した海外不動産運用を26年振りに再開するという。欧州15か国の500物件に投資するというが、素朴に誰がどうやってそのデューデリジェンスを行うのかと思ってしまう。勿論、対価を払えば幾らでも専門家を雇えるが、それはすべてリターンを減らす要因にしかならない。また日本企業はそうした海外の専門家を目利きし、雇うのが実は下手だ。外人が悪いというのではなく、日本人が単一民族で得あったが故の特有「阿吽の呼吸」が、彼らも同じと考えて、確認したり、契約書に盛り込んだりしたりすることがよく抜け落ちるということだ。そして本当にその不動産の期待リターンが高いのだとすれば、それは何を代償として得ようとしている期待リターンなのかをよく考えておくべきだ。そこが曖昧なままに目先の期待だけで動いた故のつけを払って26年前に撤退したのだから。今回はFOF(ファンド・オブ・ファンズ)の手法が上手くワークすることを祈る。でも、なんでFOFなのかはよく分からない。肝に銘じておくべきポイントは、不動産投資の最大のリスク代償は「流動性が無い」ということだ。売りたい時に売りたいように売れない物、その代表格が不動産だということは、個人の住宅買い替え時となんら違いはない。ホイホイ値がついて売れる時は、不動産価格が値上がりしている時。逆に空き室が目立ち、利回りも低下しているような時は「For Sale」の看板を長く掲げて、じわじわと値を下げていくしかない。一物一価の均衡点は、簡単に上下変動してしまう。

また、ある人達はアジアのヘッジファンドに流れたようだ。それもインドや中国で運用するファンド。ただヘッジファンドと言う割には、インドが年初来で約27%、中国が16%、日本も7%というのは、株価指数の動きから判断すると「これをヘッジファンドと言うのか?」と質してみたくもなる。どこの何のリスクをヘッジしたファンドなのだろう。まあ、ヘッジファンドと言う表現ぐらい、定義が曖昧な商品も無いのだが。

4. 外資金融の再上陸に期待

90年前後の日本にはありとあらゆる国々から外資系金融機関が日本に進出し、営業拠点を持っていた。何故なら、当時の日本はバブル景気であり、その割に諸規制や制度が整備され切れていなかったので、彼らは濡れ手に粟の如くに日本の金融ビジネスで稼ぐことが出来たからだ。だが年々歳々、そんな彼らは日本から出て行った。完全に手を引かないまでも、少なくともカントリー・マネージャーを残して、アジアを統括するエリア・マネージャーは香港やシンガポールに異動した。それが意味するところは、日本のマネーセンターとしての存在価値の低下であり、収益性が低下したことの何よりの証左だった。日本の港湾が、コンテナ船のアジアのハブになれなかったのと、理屈は同じだ。

その流れが変わるきっかけが再び見えてきたのだとしたら、それは大いに喜ばしい話だ。世界のあちこちの広範な市場で、多種多様な金融商品を手掛けている外資系金融が沢山再上陸すれば、日本の投資家にとって法人・個人を問わず、運用の多様性を沢山提供出来ることになるからだ。再び、日本がアジアのマネーセンターの地位を取り戻すことを祈ると共に、超過収益の裏側にあるリスクは何かを常に見定める目を養っておきたい。