今朝の日経朝刊(8/13)も完全なお盆ムード。とは言え、驚愕するのは2面(総合1)の「日銀総資産 FRBを超える」の記事だ。

1. 人口もGDPも小さいのに、日銀の総資産が米国FRB超える?

日銀の6月末の総資産が502兆円となり、この国のGDPに匹敵する規模になったという。これを1ドル=110円で計算すると4.56兆ドルで6月中にFRB(4.46兆ドル)を上回った。欧州中央銀行(ECB)の543兆円(4.20兆ユーロ)にも迫るというが、日銀をここまで総資産膨張に駆り立てるものは何なんだろうか?そんなにインフレ率2%達成が重要なのだろうか?

             (日本経済新聞 8月13日朝刊より引用)

2. 国民は物価が上がることを本当に望んでいるのか?

確かにデフレは経済成長が止まっている、或いは縮小している状態と教科書的には言われるので良くないことなのであろう(経済学部出身の人なら、きちんと説明出来るかな?)。商学部出身者としては、物の値段が下がって何故悪いのだろうと、いつも素朴に思ってしまう。それはさておき、インフレ率(モノの値段の上昇率)を2%にするというのは、国民の気持ちに沿っているのか?100円で大根を買う時「早く102円になれば良いのにね」と主婦たちが井戸端会議でもしているのか?ユニクロに980円のデニムを買いに行った若者が「1000円にすべきだよな」と思っているのか?

3. 日銀の施策は国民の味方ではない印象が強い

日銀が人口が3倍のアメリカの中央銀行の総資産を超えるまで、金融市場で株を買ったり、国債を買ったりして金融緩和を続けているのは、インフレ率を2%にしたいがため。ただその一方で、その願いが中々果たせないのは、やはり国民が常に「より安いもの」を求め、その結果としてそれに応じたビジネスが台頭して覇者になるからではないのだろうか。Amazonでの買い物に消費者が走るのは、単に宅配して貰った方が飲み物のケースを自宅まで運ぶのが辛い世代が増えたからだけではなく、明らかに品揃えも多く、値段も安いからだろう。高級ブティックが立ち並んだ銀座のど真ん中に、ファストファッションの店がデーンと軒先を拡げているのは、そんな銀座に買い物に来る消費者だって、一着が何万円もする洋服より、一万円で紙袋一杯の幸せを手に出来るお店の方が好きだからだろう。

6. 日銀は過去にも大失敗したじゃないか

(平成の鬼平・三重野元日銀総裁時代)

日銀の金融政策で、流石だねと思ったことは、残念ながら社会人になって30余年この方、殆ど記憶にない。寧ろ「余計なことをしてくれたなぁ」と思ったことの方が多い。例えばバブル退治の「平成の鬼平」と祭り上げられた三重野元日銀総裁の金融引き締め。バブルを潰して結局誰が得をした?なぜ、とことん完膚なきまでバブルを潰した?それによって、庶民がみんな憧れのマイホームを手に入れることが出来たのか?寧ろ景気が大失速して、金融機関が不良債権に喘ぎ、失われた20年を作っただけ。

7. その後の日銀総裁も失敗続き

(速水(1998/3~2003/3)、福井(2003/3~2008/3)、白川(2008/4~2013/3))

速水元日銀総裁の時代も、ITバブルを呼び込むように一旦は98年9月にゼロ金利政策を導入したにもかかわらず、ITバブル弾けたばかりの2000年8月には早速利上げに走ってゼロ金利政策解除。拙速すぎた。結果、バブル崩壊が加速、慌てて2001年2月に0.25%から0.15%に引き下げるも焼け石に水、結局は翌月にゼロ金利政策に回帰。でも、その失策の結果は日本経済に大きくダメージを与え、銀行破綻が相次いだ。
白川元日銀総裁の時代も、リーマンショックや東日本大震災もあって、不幸なタイミングの日銀総裁と言われるのかも知れないが、その金融政策は常に後手後手。伝統的に日銀マンは金融緩和を「負け」と刷り込まれているらしく、「いつジャブジャブにするの?今でしょう」というタイミングをことごとく外してきた。結果、急速な円高を阻止することが出来ず、2011年には70円台にまで円高が進んだ。

8. 真打ち黒田日銀総裁(2013/3~)は、まずバズーカ砲をぶっ放したが・・・

黒田日銀総裁は就任早々に「量的・質的金融緩和」の導入(QQE1)を決定し、一気に金融緩和に舵を切りバズーカ砲をぶっ放す。これを受けて円安も株高も加速、為替は120円台を突破するし、日経平均も20,000円台を回復した。これは見事だった。ただ「量的・質的金融緩和は2%の物価安定目標実現に必要な時点まで継続する」としたのが自縄自縛のタネとなる。つまりデフレを脱するという決意表明の為に2%という現実味のある数値を置いたのは功を奏したが、その2%に縛られるあまり、いつまで経っても「量的・質的金融緩和」を止められない。既にバズーカ砲の弾は切れ、先込め式の火縄銃程度の威力しか無くなっているのに、今はそれでも撃つしかない状況。本来なら、為替が110円台を超え、日経平均も16,000円程度に回復した以降の2015年前半中に、せめて方針転換の予言ぐらいをしても良かったであろう。

9. 今、市場はそれを見透かしている

北朝鮮情勢緊迫化では安全圏ではあるはずない日本なのに、為替は108円台まで円高になり、一方で株価もまだまだ20,000円前後で日銀が買い支えている。市場はまるで黒田バズーカとのチキンレースを繰り広げている。でも、いつか本当に弾切れになる。その時は必ずショートが勝つと思っている。極東の島国の中央銀行の総資産が一国で米国のFRBの総資産を超え、ECBのそれに迫るなど異常な事態だ。おまけに地政学リスクのど真ん中とあっては、ヘッジファンドならずとも、あるシナリオは描きやすいタイミングとなってしまった。残念だ。