今朝の日経朝刊(7/25)では、二つの記事「イワシの卸値4割安」と「米国産コメ輸入急増」というのがひと際目についた。共に日銀が望むインフレ率2%達成の阻害要因になる。もしかすると「インフレ率計算の根拠にイワシの値段などは入れていないので、特に影響はない」と嘯くかも知れないが、明らかに、消費者が何を求めているのかが明確に示されていると思われる。

「イワシの卸値4割安」の背景にあるのは、需要不足ではなく、供給過剰であるのは間違いなさそうだ。サケ・マス漁を禁じられた北海道の漁船がイワシ漁に転じているので、漁獲量が昨年の5倍にもなったということが背景。しかし、5倍になったからと言って「イワシばかり食べるわけにはいかない」と思われるかも知れないし、イワシが4割安位になっても、つみれ汁や目指しだけでは食事にならないと言われるかも知れないが、イワシは食用に供される量よりも飼料などの非食用に利用される方が圧倒的に多い。

平成21年の資料で恐縮だが、農水省発表のさかなの用途別出荷量の割合によると、イワシの食用向けは僅か21.8%で、非食用が78.2%となっている。マアジやサバ、或いはサンマの約70%前後が食用に供されている現実と比べると、極めて特殊な魚だとも言える。非食用の主な用途は、「食油・飼肥料向け」が11.4%で「養殖用または漁業用飼料向け」が66.9%に上る。因みに、生鮮食品として食卓に上るイワシは全体の僅か5.9%に過ぎない。

「養殖用または漁業用飼料向け」が大きく値下がりすれば、鯛などの値段も当然にして下がるが、実は飼料として使われる豚肉などの値段にも消費者の喜ぶ方向に影響がある筈だ。つまり物価を上げたいと思っている日銀には嬉しくない話である可能性が高い。直接的に生鮮品は除くことになっていたとしても、それを原材料としている加工品はかなり多いのだから。

もうひとつの「米国産コメ輸入急増」という記事も興味深い。国産業務用米は政府による飼料用米への転作誘導で供給が減少し値上がりしている中で、外国米は輸入量が限られるが調理しやすく割安なため、調達する外食が増えているということが背景にある。考えてみると、私の学生時代と比べても、牛丼の値段はそれほど値上がりしていない、いや寧ろ値下がりしているかもしれない。そもそもコメの値段ぐらい政治的な思惑で操作されているものも少ないと思うが、米国産輸入コメは牛丼やチャーハンなどでの利用には、外食産業にとってとても便利な存在らしい。

ここで見えてくるインプリケーションは二つ。ひとつ目は原油価格のみならず、日銀の思惑に反して物価が上がらない要素は色々とあるということだ。経済理論の通りには簡単には行かないということ(そもそも物価が上昇した方が良いという理論そのものが、商学部出身の私には理解しづらい理屈なのだが)。これはインフレを抑制しようとする時にも同じことが言え、ブラジルなどが過去に何度も苦い経験をしていることは周知の事実である。すなわち、金融政策だけでインフレはコントロールし難いということである。

また、結局は消費者(消費者向け製品の加工者を含む)は、値段の高いものよりも、同様の効能ならばより安いものを望むという事である。政府がいくら国産米を守ろうと躍起になってみたところで、経済の現場では、日々違う努力がされてしまうということだ。シェアエコノミーと呼ばれる新しい形態もその良い例だろう。私は個人的には自分の車、自分自身の道具、正規営業で安心して止まれる宿泊施設など、多少高いコストを掛けても安心できるものを好むのは事実だが、今の時代趨勢は個々人の嗜好の変化もあり、安いものを優先して選択する流れが出来上がっている。

物価上昇2%を目標とするよりも、出生率2.0を国を挙げて目指す方が、余程将来の日本を見据えて有意義だと思う。国民総数を変数に持つGDPを考えれば、人口減少著しい我が国は、このまま放っておけばどんどんGDPは駆け下って行ってしまう。消費者(国民)の嗜好、すなわち不安を抱えて無理して子供を二人作るよりも、より安いものを選考しつつ夫婦だけが安心して暮らせるように将来に備えようという考え方を変えるのは容易なことではないだから。永田町で暮らす人々も、目先の倒閣や政権交代の為に声を張り上げるのではなく、如何に50年後の日本が、我々の子々孫々が今以上に住みよい国でいられるかを挙国一致で考えるべきであろう。