今朝の日経朝刊(7/22)によると、世界の不動産市場にファンドマネーが流入しているらしい。確かに日本においても、丸の内・大手町界隈を車で走ってみると、街の景観が一変するほどビルが建ち替わってしまったし、今もなお、そこかしこで工事の音が聞こえてくる。

しかし、そうした景色を見たり、また今日の日経新聞の一面記事を読んだりしたことだけで、日本の不動産を欧米や中国の事情と同じに考えて投資対象とするのは、私はあまりに危険な賭けだと思っている。何故か?それは欧米や中国と日本とでは、人口動態が大きく違うからだ。そして中国においては、経済発展のステージが欧米や日本の現状とは全く異なる状況にあるからだ。

冷静に今の日本の事情を考えてみよう。総務省が発表したところによれば、日本の人口は50年後には約4600万人も減少するという。中国の10億人単位の話からのそれではなく、高々1億数千万人水準からの4600万人である。人口が2/3になってしまうのである。

そんな先々の話などしなくても、今も尚、地方では小中学校の統廃合や廃校が相次いでいると聞く。過疎化の流れの中で、皆都会や都心部に流れてきているからだと言われるが、ならば都会の小学校のクラス数は増えているのだろうか?私が小学生だった頃のひとクラスの平均生徒数は45~50名程度、一学年は3~4クラスは普通に埋まっていた。在学中に新校舎も建てられていた。ならば今はどうか言えば、ひとクラス40名以下で1~2クラスというのが都会の学校の平均ではないだろうか?地方から流入しているという仮説は成り立たない。

出生率は05年の1.26を底として回復してきたとはいえ、16年は1.44と依然として2.0には満たない。出生率が2.0を超えてこない限り、当然人口は減少し続けるわけであり、故に前述のように50年後には4600万人もの日本人が居なくなる。単純に考えれば、それまで3人いたところが2人になるという事だ。だから言える間違いない事実は、住宅も、オフィスも、必要とされる床面積は減ることはあっても、もう劇的に増えることは無いということだ。フリーアクセスフロアのオフィスの導入、ゆとりある働き方改善によるリモート・オフィスや在宅勤務の導入、その全ての施策もオフィス需要を弱める方向に働く。

賃料÷投資額で利回りを弾いて、投資効率を計算するのは良い。ただ、この分子は本当にこの先永劫に減らないのだろうか?単純に今この瞬間だけの微分値なのではないのか?また仮にもし、その分子が減り始めるようなことがあるとしたら、その時分母となっている投資額は満額回収出来るのだろうか?すなわち、購入時の価格で不動産そのものが売却出来るのだろうか?賃料が緩んでいる状況というのは、不動産自体の需給が緩んでいる時である。それまでに大きな値上がりが無ければ、売却時に投資額を満額回収するのは難しい筈だ。そしてこれこそ、80年代バブルの後始末として、多くの日本人が骨身に沁みて味わった辛酸だったのではないだろうか?その時と、今の何が違う?

米国は今でも人口が年間200~300万人程度自然増している。欧州も移民流入を含めて、人口は減ってはいない。中国はピークアウトしているとは言え、経済成長に伴う都市化の需要で、それなりに不動産需要があるというストーリーは書ける(本当のところはわからない国なので)。

ただもし、ひとつ可能性を上げるとすれば、それはインフラへの投資物件かも知れない。地方の牛しか通らない立派な高速道路に比べると、首都高速など都市部のインフラの老朽化は著しい。その更新需要はあると言える。首都高速横羽線の品川あたりについては、本格的な改修工事をしないと相当に厳しい状況にまで傷んでいると聞く。言えることは、実需のあるインフラへの投資物件の選別。間違っても、オリンピック施設への投資ではない。

その視点で見ると、やはり米国のインフラ投資は日本のそれに比べて、必要度は高い。道路も橋も鉄橋もトンネルも「これ、いつ作ったの?」と思われる老朽化が進んだままにある。古い米国映画を観てみれば直ぐにわかる。同じ橋、同じ駅舎がそこに映っているのだから。

その現実と、日本のそれを同一に考えることは、決して私には出来ない。