近年、エヌビディアをはじめとした半導体関連企業が急成長を遂げています。この半導体に大きな注目が集まっているのは、AI(生成AI)の発展と人々の期待の高まりによるものです。「AIが人間の仕事を奪う」とも言われているこれからの時代、果たして本当にAIは人智を超えた存在になってしまうのでしょうか。
今回は、「AIとは何か」・「AIにできることとできないこと」・「AIの現状と活用」の観点から、投資家として知っておくべきことをプロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
AIと共存するためには?
AIの現実的理解:投資家へのガイド
昨今のメディア報道や株式市場動向などを見ていると、あまりにも「AI」と呼ばれるものが急速に立ち上がり、表舞台に主役として飛び出てきた一方で、現実には多くの人々にとって、AIがまだまだ未知のものであるということを感じずにはいられない。
ChatGPTのような「生成AI」についても、日々評判は高まっている。しかし、実際に何らかの形で仕事や遊びにChatGPTを取り入れたり、実際に一緒に作業をしてみたりしたことがある人は現実には少ないことが、一種の混乱というかカオスな状態を作り出しているようにも思われる。
この要因は、生成AIを便利で有意義な知的ツールだと思っている人がいる一方で、生成AIは人々の仕事を奪うもの(例えば映画「ターミネーター」に出てくる、人類社会を襲う「Skynet」のような存在)になると警鐘を鳴らす人がいるからだろう。
悪いことにそうした極論を語る人の中には、「学識者」と称される人から「似非専門家」までおり、極端な論調が傍らで醸成されることもある。
そのようなネガティブ・キャンペーンを張る陣営には、正しい流れに乗り遅れた人の屈折した抵抗が含まれる場合も多いように見える。敢えて諫言すれば、「専門家」という肩書ほど、いい加減適当極まりないものはないし、また「学者」ならば、誰でも正しい知識を持っているだろうというのは立派な思い込みである。
特にこの問題を一層難しくしているのは、もちろんその中には正しい知識を持った者もいるから、慎重に情報を取捨選択しなければならない点だ。
ただ、我々投資家に今一番必要なのは、「現在のAIとは何か」「人類にとってどんな役割を果たしてくれるのか」「その表裏一体となるリスクは何か」といった論点を現実レベルで適切に理解する能力だと言える。
そこで以下に、「AIの現実的理解:投資家へのガイド」を提示した。ぜひご参考いただきたい。
- 技術の範囲と能力の理解
現在の生成AIは、LLM(大規模言語モデル)を活用することにより、膨大なデータ学習能力や人間の言語を模倣する力を持っている。しかし、その能力には明確な限界が存在する。それはAIが、独自の創造的思考や感情を持たないことである。 - 社会的・経済的影響の認識
AI技術を応用すると、業務の自動化・新しい職種の創出や教育・健康管理などが可能になる。また、一部の仕事は自動化によって取って代わられる可能性がある。 - 倫理的・規制的な課題
AIの発展は、倫理的な問題やプライバシー侵害の懸念を伴う。また、AIに間違った訓練データや何らかのバイアスが掛かったデータを使ってしまえば、結果に歪みやエラーが生じる可能性がある。 - AI利用者への教育と普及
AIの理解とその適切な使用を促進するためには、利用者への教育が重要。特に、AIの基本知識や応用例を非技術者にも理解しやすく伝える必要がある。 - 過度な期待は避ける
映画やフィクションにおけるAIの描写は、現実と大きく異なる。現実のAIは、特定のタスクに特化したツールとして設計されたものである。
以上のガイドを踏まえ、投資家はAI技術の現状と可能性を現実的に理解し、それを投資判断に活かすべきである。ただしAIの進展は、新たな投資機会を生み出すと同時に、社会や経済に大きな影響を与えるため、適切な知識と理解が必要であることを忘れてはならない。
例えば「AI」には、「機械学習(データから学習するAI)」・「自然言語処理(=NLP、テキストや言葉を理解するAI)」・「コンピュータビジョン(画像を解析するAI)」など基本的な分野がある。
中でも「ChatGPT」は、機械学習とNLPの技術を組み合わせたものであり、広範な言語データに基づいて人間のように自然な対話を行うことができるAIシステムだ。
ChatGPTを利用していると、時にはあたかも感情があるかの如く感じてしまうかもしれない。しかし、それはあくまでも人間の錯覚だという点に注意しよう。
金融業界におけるAI:AIとの協働を目指す
興味深い進歩として、主にNLPと機械学習を利用し、市場心理を
- メディアの取り扱い頻度
- ワーディング
- ソーシャルメディア上の議論
- ニュース記事のトーン
などから読み解こうとする試みが、最近行われている。
例えば、ニュース記事やSNS上の言葉遣いから感情を分析し、市場の楽観性・悲観性・トレンドを予測するようなモデルの開発だ。
だが、これらはまだ全体に発展途上にあることは否めない。特に、市場の心理や行動を正確に読み解くことは非常に困難で、予測の正確性は限られている。AIモデルは市場の感情や動向をある程度推測できるが、市場に影響を与える非定量的な要因(政治的事件、自然災害など)を完全に理解することは不可能だ。
AIを利用した市場分析は、従来の分析手法に比べて新しい視点や深い洞察を提供できる可能性がある。しかし、あくまでAIは有用な「ツール」であり、その使用は専門知識と人間の判断とを組み合わせることで最も効果を発揮する。
現状では、AI技術は市場心理を完全に理解するには至っておらず、その分析結果は慎重に扱う必要があるということに変わりはない。
また、こんなこともあった。
先日、ある人材紹介会社の社長と話していたら、現在、運用会社でファンドマネージャーを求人しているところは殆どないという。
何故なら「ファンドマネージャーの仕事は、既に殆どAIに置き換わっているからだ」と。また最近ChatGPTなどの生成AIが騒がれているが、もっと前から金融機関などはAI技術を取り入れており、今や日本の運用会社ではファンドマネージャーは不要になったともいう。
私は、この高説に強い違和感を感じた。
なぜなら、私が追い掛けている技術トレンドから考える限り、数年前に「AIモデル」を名乗って登場した、投資信託などのAIは、実際にAIというよりは、単なる回帰分析や相似・近似を利用した定量モデルの運用手法に過ぎないからだ。
確かに、金融業界におけるAIの役割は増加している。しかし、これが伝統的なファンドマネージャーの役割を全面的に置き換えられるわけではなく、やはりAIはあくまでツールの一つとして機能しているというのが現実的な見方だ。
まとめ
今回は、以下のポイントを中心に、AIの現状をお伝えしてきた。
- 昨今、AIへの注目が集まる世の中で、「AIが人々の仕事を奪うかもしれない」という懸念があるが、それはAIへの理解ができていない表れである。
- 我々投資家に今一番必要なのは、「現在のAIとは何か」「人類にとってどんな役割を果たしてくれるのか」「その表裏一体となるリスクは何か」といった論点を現実レベルで適切に理解する能力だ。
- AIにはデータの分析や人間の言語を模倣する力があるが、感情や想像的思考は備わっていない。また、論理的な問題やプライバシーに関する懸念も存在する。
- 一部の作業は自動化される場合があるが、全てではない。
- 金融業界では、市場心理をAIに分析・予測させる開発が進んでいたり、「AIモデル」と呼ばれる投資信託の運用方法が登場したりしている。しかし、これらのAIはあくまでもツールの一つであり、人間の判断力や専門知識と掛け合わせることで本領を発揮する。
つまり、AIに過度な期待(SF的な想像など)はせず、むしろ手を取り合って協働していくことが大切なのだ。
人間に得意不得意があるように、AIにも弱みはある。「AIはすごすぎる」、「AIのせいで仕事がなくなる」といった世論は、必ずしも正ではない。
皆さんも今後AIに触れる際、今回の内容をぜひ思い返して、AIを楽しんでいただきたい。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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