今、エヌビディアをトップランナーとして急成長する半導体銘柄ですが、AI半導体分野で特に大きな勢いを見せているのはアドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)だと言えるでしょう。AMDは、CPUやGPUのみならず、ほとんどのロジック半導体分野でビジネスを展開する企業です。今回は、そんなAMDのファンダメンタルズや将来性について、2023年10月末の決算内容をもとにプロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
AMDのビジネスを知る
先週のハイテク株上昇をリードしたAMD
先週の株式市場にポジティブなインパクトを与え、特にナスダックの上昇を誘ったのは、アドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)であった。
「インテル、入ってる」というCMのイメージが強く、パソコンのCPUと言えばインテル(INTC)だと思われる人が少なくはないだろうが、実は時価総額を見るとAMDに軍配が上がる。また、現在半導体銘柄で時価総額最大となるのはエヌビディア(NVDA)である。以下に、プレミアムレポート発行当時と最近の各社時価総額・株価の比較表を掲載しよう。
そのAMDが、先週31日に決算を発表した。決算内容は下記の通り。
- 第3四半期の Non-GAAP EPS は$0.70で、市場予想を$0.02上回った。
- 収益は $5.8B (前年比+4.1%) で、市場予想を$110M上回った。
- クライアント部門の収益は 15 億ドルで、主にRyzenモバイルプロセッサの売上増加により前年比42%増加した。
- ゲーム部門の収益は15億ドルで、前年同期比8%減となった。これは主にセミカスタム収益の減少によるもので、AMD Radeon™ GPUの売上増加によって部分的に相殺された。
- 2023年第4四半期の売上高予想は、前年比+約9%または前四半期比+約5%となる約61億ドル(±3億ドル)。
面白いことに、決算発表直後の時間外取引でAMDの株価は△5%以上下落していたが、翌日の本市場取引では+10%近く(前日比+9.12%)も上昇する結果となった。ゲーム関連の低迷を一因に、今期見通しについて控え目な数値を発表したことから、時間外取引ではとりあえず売られた。だが、その印象を変えたのが決算説明会だった。
実のところ、AMDの決算を評価分析するのは、ベテランのアナリストや投資家でも難しくなってきている。なぜなら、取り扱う半導体の種類が多岐にわたるからだ。
いわゆる「ロジック半導体屋」というような旧来の単純な見立てで同社を捉えようとすると、そのビジネスフィールドがそれぞれ独立して成長しているため、ビジネス・トレンドをきちんとフォローするのが難しい。なので今回は、決算が示唆するAMDのファンダメンタルズについて深掘りしていきたい。
AMDは、AIとアクセラレーテッド・コンピューティング分野の雄
昔、と言っても20年も遡れば充分だが、半導体と言えばロジック半導体のCPUと、メモリー半導体のDRAMぐらいしか無かった。
しかし昨今、「アクセラレーテッド・コンピューティング」が必要不可欠な時代に突入し、ロジック半導体はCPUのみならず、GPU、DPUそしてFPGAにASICと一気に種類が増えている。
またメモリー半導体については、既に10数年前からDRAM(揮発性メモリー)に加えてフラッシュメモリー(不揮発性メモリー)が登場しているし、さらにDRAMも形式がDDR(Double Data Rate)だけではなく、HBM(High Bandwidth Memory)と多様化している。
インテル(INTC)はかつてCPUとメモリー半導体の両方を手掛けていたが、メモリー半導体からは撤退してしまっている。またGPUへの取組みも強化しているが、まだまだ一般的な状況とはなっていない。
また、AIの王者とも言われているエヌビディア(NVDA)だが、最近でこそCPU(Armアーキテクチャ)も手掛け始めたが、基本的にはGPUが圧倒的に主力の会社だ。
しかし今回話題のAMDは、CPU・GPU・DPU・FPGA・ASICの全てを手掛けている珍しい会社なのだ。このことをよく表しているのが、下掲の決算のスライドだ。
出典:AMD Reports Third Quarter 2023 Financial Results
このスライドから分かることは、データセンタからパソコンの世界、そしてゲーム機器(米国での主たるユーザー層は30代以上)、更にクルマや通信キャリア向けなど、AMDは全てのセグメントをカバーしているということだ。
さらに、これらのセグメントをAIという軸で捉えると、実に一気通貫なビジネスフィールドが整理される。代表的な製品を下に挙げてみよう。
- クラウド、データセンタ用アクセラレータ:「AMD Instinct™ MI250 & MI300 Accelerators」
- クラウド、データセンタ用プロセッサ:「AMD 4th Gen EPYC™ Processors」
- AI用GPUアクセラレータ(2023年10月からAWSやAzureに納入):Instinct™ MI250 & MI300 Accelerators
- データセンタ・自動車・5G無線通信・防衛分野向けSoC:「Embedded Versal™ AI Edge Zynq™ MPSoC」
- AI PC(モバイル・パソコン用CPU、後述):「Ryzen™ 8040」
さすがにここまで来ると、一般的な個人投資家の知識ではその具体的な利用実態までは手に余るかもしれない。ただ重要なのは、「半導体関連」という十把一絡げの括り方では、ビジネス・トレンドは見極めきれないということだ。
AMDが手がける「AI PC」とは?
最後に、先ほどの製品ラインナップの中で特に将来性のある「AI PC」について簡単に解説したい。
AI PCとは、人工知能(AI)技術を統合したパーソナル・コンピュータのことで、従来のPCよりも高度なタスクをこなす能力を持っているもの。AI PCには、AIに特化したハードウェアとソフトウェアが搭載されており、ユーザーの行動を学習することでよりパーソナライズされた体験が可能になる。
現状において、PC上でAIを使う方法は大きく2つある。1つが、クラウドベースのAIをOSやアプリに実装する方法だ。この方法の代表的な例としては、Microsoftの「Microsoft 365 Copilot」や「Copilot in Windows」が挙げられる。この場合、AIの処理はクラウド(サーバ)側で行うので、ユーザーのデータを全てクラウドストレージにアップロードしないと利活用ができない。
もう1つは、PCに直接AI処理専用のプロセッサを実装する方法だ。これがまさに、AI PCである。AMDの「Ryzen™ 7040 Mobile processors with AI accelerator」は、AI処理に必要な推論演算を専門とする「NPU(Neural Processing Unit)」を追加することで、クラウドにアクセスせずにAI処理を行えるようになっている。
AI PCの凄さは、従来のPCでは難しかったり時間がかかったりした作業を、AIが迅速かつ効率的に行なう点にある。例えば、写真の中から特定の人物を見つけ出す作業や、大量のテキストデータから有用な情報を抽出する作業などが、AIの力を借りることで素早く容易に行えるようになる。
AI PCの動向を占うに当たり、Windows 10のサポート終了も重要な要素となるだろう。2024年3月31日をもってWindows 11 Proのダウングレード権を行使した「Windows 10 Pro」のプリインストールPCの提供が終了する。そして、2025年10月14日にはWindows 10がサポート終了となる。
どうだろう、私の知る限りでは日本ではまだまだ多くの法人がWindows 10のパソコンを使用している筈だ。これらが全てリプレイスすることになる想像がつくだろうか。
「CPUならインテル、GPUならエヌビディア」と考えられ、また最近のエヌビディア株の急騰など、市場はエモーショナルに需給でドタバタする時があるが、最終的にはきっちりとファンダメンタルズに回帰する。そういう目で見て、投資判断をする必要がある。
まとめ
今回は、以下の要点でAMDのファンダメンタルズについて考察してきた。
- 2023年10月末の決算を受け、AMDは先週のハイテク株上昇に貢献した。
- AMDは取り扱う半導体の種類が多岐にわたり、それらのビジネスフィールドがそれぞれ独立して成長している。そのため、ビジネス・トレンドをきちんとフォローするのが難しい。
- 昨今、「アクセラレーティッド・コンピューティング」のために、AIに特化した半導体が必要不可欠になっている。その多くをカバーしているのが、AMDである。
- 特に、人工知能をPCに統合した「AI PC」は、従来のPCでは困難であった作業をより迅速かつ効率的に実行可能であり、今後の期待値が最も高い製品のひとつ。
- 投資活動ではしっかりとファンダメンタルズを評価し、短期的な需給だけではない長期的な成長を考える必要がある。
もしかすると、市場では未だAMDは「全方位外交的で特徴が薄いロジック半導体の会社」という受け取られ方なのかもしれない。やはり、CPUと言えばインテル(INTC)、GPUと言えばエヌビディア(NVDA)といったイメージだ。
しかし、AMDはほとんど全てのAIに関するロジック半導体分野で均衡のとれた強さがあるということが、今回の解説でお分かりいただけただろう。
「インテル、入ってる」や「AIの王者エヌビディア」にどのような差をつけて成長していくのか、今後が楽しみである。
編集部後記
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