FG Free Report AI時流に乗るArmアーキテクチャ(9月11日号抜粋)

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2023年9月、ソフトバンク・グループ傘下であるArmが、NASDAQ市場にIPO(新規株式公開)しました。実は同社の「Armアーキテクチャ」は、みなさんが普段使っているスマートフォンやモバイル機器の基盤となる「半導体」の多くに使用されています。今回は、半導体のアーキテクチャについての理解を深めながら、Armのビジネスと評価をプロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——Armアーキテクチャ

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、「さまざまなAIニーズに応えるArmアーキテクチャ」について解説していきたい。

ソフトバンク・グループ(9984)とArm(ARM)のIPOについて

ソフトバンク・グループ(9984)が9月5日、子会社のArm Holdings(アームホールディングス、ARM)をNASDAQ市場に新規株式公開(IPO)する際の仮条件価格を発表した。

1株当たりの公開価格の仮条件は47ドル~51ドルで、時価総額は最大で約520億ドル(約7兆7000億円)に上ると言われている。

これを受け、アップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)、インテル(INTC)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、アルファベット(GOOGL)、サムスン電子、ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)、シノプシス(SNPS)などもIPOに参加(=出資)した。

一方、以前出資交渉を行っていたアマゾン・ドット・コム(AMZN)は参加を見送る結果となった。

Arm(アーム、ARM)とは何の会社?

Arm(ARM)とは何の会社かと問われれば、答えはずばり「半導体のアーキテクチャ」の会社だ。

Armは英ケンブリッジに本社を置き、2016年にソフトバンク・グループの傘下に入った。

ここで気を付けてほしいのは、Armが新聞等で紹介される際、「半導体設計のアーム・ホールディングス」と書かれることが多いが、一般的に「半導体設計」という枕詞でイメージされるものとはビジネスモデルが異なるという点だ。

というのも、エヌビディアも、AMDも、クアルコムも、みんなTSMCに半導体の製造そのものを任せている所謂「ファブレス(工場が無い)の半導体メーカー」なので、彼らのビジネスモデルも言ってしまえば「半導体設計」である。

しかし、どうだろう。実際にはそのエヌビディアも、AMDも、クアルコムもみんなArmの顧客なのだ。もちろんそこには、アップルもアマゾンも含まれる。

これはどういうことかというと、Armもファブレス企業であるが、半導体アーキテクチャのライセンスを上記のような企業に提供しているのである。つまり、そのライセンスを用いることで、各企業がプロセッサを製造できるという仕組みだ。

そして今回のIPOに参加するインテル、このインテルこそが、実はビジネス上のArmの最も大きな競合相手と言えるのだ。なぜなら唯一、インテルは自社で半導体の製造工程まで抱えているからだ。(このパズルを解くことができる人は、きっとArmのビジネスを理解されているだろう。)

面白いことに、ソフトバンク・グループ(もしくは孫正義会長)がメディア市場関係者に好感を持たれていないと感じることがしばしばある。

恐らく、今でもArmという会社を正しく理解している金融市場関係者は、Wall街のアナリストなどを含めても少ないのだろう。

そもそも、ソフトバンク・グループのビジネスモデルでさえ、現時点でも理解されているとは思えないのだから仕方ないかもしれないが・・・。

因みに、前述のArmのIPOへの参加企業の中に名を連ねるケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)と、シノプシス(SNPS)という会社、この両社を説明する枕詞は「半導体設計支援ソフト」である。

半導体のアーキテクチャとは?

ここで一旦、「半導体のアーキテクチャ」とは何かを明らかにしていこう。

半導体のアーキテクチャとは、主にCPU(中央処理装置)、広義にはロジック半導体(プロセッサ)の基本的な「骨組み」や「設計思想」を指す。

そしてこの「骨組み」や「設計思想」には主に、

①命令セット ②データパス ③レジスタの配置 ④メモリアクセス方法

というものが含まれる。

分かりやすく、以下にそれぞれを喩えを用いて解説しよう。

①命令セット: プロセッサが実行できる「料理」のメニューのようなもので、それぞれの「料理」は特定のタスクや操作を表す。

②データパス: 情報がプロセッサ内で移動するための「道路」のようなもの。

③レジスタの配置: プロセッサが一時的にデータを保管するための「引き出し」のようなもの。

④メモリアクセス方法: レストランの「注文の取り方(ウエイターか、端末か)」のようなもので、プロセッサがメモリからデータを取得する方法のこと。

つまり、同じように見えるコンピュータも、異なるアーキテクチャをそれぞれが持っているということだ。そしてもちろん、アーキテクチャが異なれば、コンピュータの動作や性能も変わる

半導体アーキテクチャで最も代表的なのは、「Armアーキテクチャ」と「x86アーキテクチャ(インテルアーキテクチャ)」であるが、

Armアーキテクチャは、エネルギー効率を重視しているためバッテリー持ちが良いのが特徴だ。なので、モバイルデバイスに適していると言える。

一方のx86アーキテクチャは、高い計算能力を持ち、主にパソコンやサーバーなどの高性能なマシンに使われていることが多い。

「ArmがAIの時流に乗るのは難しい」という誤解

「クラウドが重要視されているこの時代に、モバイル向きのArmアーキテクチャの成長は見込み難い」というような過小評価をされがちなArmだが、実際、そんなことは全くない。

なぜなら、前回の無料記事「AIの未来を握る『エッジAI』とAppleの取り組み(9月4日号抜粋)」でもご紹介したとおり、AI技術の進化と展開は、今やクラウドだけでなくエッジデバイス(※1)にも及んでいるからだ。

簡単に言えば、クラウドに付き物である、データのプライバシーやレイテンシ(遅延)、通信コストのといった問題を、エッジAI(=データ処理をデバイス上で行うこと)が解決してくれるということだ。

特にIoTデバイスや自動車、医療機器など、リアルタイムでの高速な判断が必要な場面でのエッジAIの利用が増加している。

前述のとおり、Armアーキテクチャは低消費電力で効率的なのが特徴だ。この特性は、エッジデバイスでのAI処理に非常に適しており、実際多くのエッジAIチップがArmアーキテクチャを採用している※2)。

さらに、AWS(アマゾン)やGCS(グーグル)などのクラウドプロバイダーも、Armの技術を取り入れた独自のAIチップを開発している。

エッジデバイスのみならず、クラウドでもエネルギー効率を重視されている現状があるのだ。

 

※1…エッジAIの具体例:

  • スマートスピーカー: Amazon EchoやGoogle Homeなど
  • ウェアラブルデバイス: Apple WatchやFitbitなどにおける、心拍数のモニタリングや活動量の計測
  • セキュリティカメラ: 顔認識や動体検知などの機能
  • 自動運転車: 車載カメラやセンサーからのデータをリアルタイムで処理
  • 産業用ロボット: 工場や倉庫での作業をサポート

※2…Armアーキテクチャを使用する半導体の一例:

  • Apple: AppleのAシリーズやM1チップ(MacやiPad向け)
  • Qualcomm: Snapdragonシリーズ(スマートフォン向け)、Oryon(Armベース独自CPU)
  • NVIDIA: Jetsonシリーズ(エッジAI全般向け)
  • Samsung: Exynosシリーズ(Galaxy専用CPU)、Cortexシリーズ(スマートフォンやタブレット向け)

Armの未来(ニーズは止まらない!)

クラウドプロバイダーのほかに、データセンターの中にもArmアーキテクチャのニーズはある。

なぜなら、データセンター内の冷却や莫大な冷房用電力コストに関わる問題を解決するためだ。

データセンターが海中に作られたり、アイスランドのような寒冷地に作られたり、あるいはネバダ砂漠の真ん中といった太陽光発電が自由自在な場所に作られるようになったのは、基本的には「冷却」の為だ。

半導体の中に電気を流し、高負荷の大量演算を続ければ、間違いなく電力消費量は上がり、そして発熱する

つまり、冷却に関わるコストや無駄を省くために、データセンターの半導体でさえ省電力型が好まれるというストーリーなのだ。

加えて、IoTのエッジAIが省電力である必然性については、例えばアップルがMacパソコンのCPUをインテル製から、自社開発のArmアーキテクチャのそれに変更したことが、大きな示唆を与えてくれているだろう。

そして車に関しても、「クルマ=走るエッジAI」と化する未来が間もなく訪れる。

機械学習とIoTの統合は、産業や生計を革命的に変えることが期待されており、そこにArmアーキテクチャの未来が詰まっていると私は信じてやまない。

まとめ

今回は以下のポイントを中心に、「Armアーキテクチャ」について解説した。

 

  1. Armは「半導体のアーキテクチャ」のファブレス企業で、2023年9月にIPOした。
  2. 半導体のアーキテクチャとは、主にCPU(中央処理装置)、広義にはロジック半導体(プロセッサ)の基本的な「骨組み」や「設計思想」のこと。
  3. アームアーキテクチャ:エネルギー効率の良さが特徴。モバイル機器向き。
  4. x86(インテル)アーキテクチャ:計算能力の高さが特徴。コンピューターやサーバー向き。
  5. Armアーキテクチャの特性を生かし、多くのエッジAIチップがArmアーキテクチャを採用している。
  6. モバイル機器のみならず、データセンターやIoT分野にも、Armアーキテクチャのニーズは広がっていくだろう。

 

今回ご紹介した内容の理解を深めることが、直接的にはArm(ARM)の評価を通じてのソフトバンク・グループの見え方になるであろうし、また現在の半導体業界やデータセンターやクラウドサービスの業界、更には自動運転やADASに絡む自動車業界の問題などをクリアに見せてくれる可能性が高いと思っている。

ArmがAIの分野で必要とされるエリアは、あまりにも広いということがお分かりいただけたと思う。

そして私が、この会社が過小評価されていると感じているのはこのような理由あってこそだ。

IPOしたことで、今は(2024年4月現在)普通に株式投資先の銘柄として選択できるようになっているし、持ち株の9割は当分、ソフトバンク・グループのものでもある。

こういうことを考えていくと、また新たな投資の道が拓けるかもしれない。

また、本記事の内容は下のYouTubeでも解説しているので、ご参考になれば幸いだ。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
また、こちらは無料版記事のため、最新の情報個別企業の解説についてはカットしております。
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