先日、2024年秋に発表されるiPhone16シリーズは、ニューラルエンジンの強化と、OSに生成AI機能が追加されるという報道がありました。iPhoneは登場から20年足らずで、誰もが驚くような進化を遂げています。今回は、Appleが取り組む「エッジAI」技術と、Appleの投資的観点での評価を、半導体関連銘柄を専門とするプロのファンドマネージャーの視点で解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
右肩上がりのビジネス・トレンド——「エッジAI」
プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。
今回のFG Free Reportは、「エッジAIとスマホの未来」について解説していきたい。
Appleは「エッジAI」の有力企業
iPhoneの登場は日本では2008年、米国ではそれより1年早い2007年だ。
スマホは、パソコンで可能なことの多くを取り込み、そこにカメラや決済機能などを更に追加したことで、爆発的に普及した。今では、プライベートにはデスクトップパソコンはおろか、ノートパソコンさえ持っていなくても、スマホだけは持っているという人は先進諸国では大半だろう。
しかし、2023年のスマートフォンの世界出荷台数は、11億5400万台(22年比3.9%減)と、過去10年間で最低となった。
恐らく、スマホのハードウェアが提供する能力向上・機能向上が一旦限界に来ている、あるいは新しい消費者ニーズを喚起できない段階まで進歩したとも言えるだろう。
ではこの先、スマホが再び新機能や新コンテンツで人々を魅了できる可能性はもうないのだろうか。
いや、恐らく、人々はこれからもスマホを保持し続け、最新の機種に入れ替えながら進む、という流れになるだろう。
そして、その主人公となるのが「エッジAI」だ。
事実、既に多くのスマホが初期の「エッジAI」化しているのだが、それを「AI」だと誰も認識しないままにいる。
例えば、Amazon.comのCEOが語った、
「生成型AIは人々の想像力を刺激していますが、多くの人々が話しているのはアプリケーション層、特にOpenAIがChatGPTで何を達成したかについてです。しかし、生成型AIの採用と成功がまだ始まったばかりであること、そして消費者向けのアプリケーションが機会の一部でしかないことを忘れてはならないということを覚えておくことが重要です」
というストーリー。
あるいは、アプライドマテリアルズ社の決算発表でCEOがプレゼンした「IoT+AI」の話、そしてエヌビディアのCEOがアップデートした「アクセラレーティッド・コンピューティング」の話。
その全てに共通する話題が、まさに「エッジAI」なのだ。
「ChatGPT」の登場があまりにも衝撃的であったこともあり、今や多くの人が「AI=生成AI(Generative AI)」と考えている節がある。これはその昔、ロボットと言ったら「鉄腕アトム」のような人型ロボット(またはドラえもん)を思い浮かべ、ファナックが作る工業用ロボットなどはロボットと見なされなかったのと同じようなことだ。
しかし、「生成AI(Generative AI)」は、あくまでも「AI」のひとつの類型に過ぎない。
「エッジAI」とは何か?
では、「エッジAI」とは一体何だろうか。特徴を整理してみよう。
「エッジAI」とは、エッジデバイス(スマホやクルマなど)上で直接AI処理を行う技術を指す。
反対に、端末ではなくクラウド上でAI処理を行うものは「クラウドAI」と呼ばれ、これまでのAIプラットフォームの主流であった。
ただ、この「クラウドAI」では、ネットワークを介して一度クラウド上に情報を送ったのちに、端末に情報を返す作業が必要になるので、データ送信の遅延やプライバシー問題が懸念点であった。
しかし、「エッジAI」の技術があれば、端末上で発生したAIタスクをそのまま即座に端末上で解決できるため、上記「クラウドAI」の弱点を克服できる。
スマートフォンに使用される「エッジAI」の具体例としては、以下のようなものがある。
- リアルタイムの顔認識
- 音声認識
- 画像処理、高度なカメラ機能
- リアルタイムの翻訳
- ヘルスケア機能
画像データ、とりわけ動画ともなるとデータサイズはかなり大きくなってしまう。精緻な画像を作れば作るほど、当然データ量は増えるわけだが、それを現場処理してしまおうというのが、「エッジAI」なのだ。
例えばさらに、そこに拡張現実 (AR) と仮想現実 (VR)を組み合わせれば、新しいエンターテインメント・教育・仕事のツールとしての可能性も拡がってくるだろう。
iPhone15の「エッジAI」と、iPhone16の予想
今現在、アップルが提供している「エッジAI」のエンジンとして最先端のモデルは、「A17 Proチップ」と呼ばれる半導体だ。iPhone 15 Proおよび15 Pro Maxモデルに使用されている。
「A17 Proチップ」の概要は、以下の通り。
- 世界初の3nmプロセスSoC
- 設計:Apple Inc.
- 製造:TSMC
- CPU:64ビットの6コア(3.78 GHzで動作する2つの高性能コアと、2.02 GHzで動作する4つの高効率コア)
- アーキテクチャ:ARMv9
- トランジスタ数:190億個(前作A16 Bionicは160億個)
更に、A17はAppleが設計した6コアGPUを統合しており、A16のGPUと比較して最大20%向上している。この結果、A17は1秒あたり35兆回の演算(TOPS)が可能となった(A16のニューラルエンジンは17兆回)。
これらの果実として、高性能ポートレート機能やゲーム機並みのグラフィックスなどをユーザーは体験できる。
実際に、iPhone 15Proで撮影した夜間の写真は驚くほど綺麗である。
以下は、iPhone 8(上)とiPhone 15Pro(下)の星空写真の比較だ。驚くべき点は、これらは同じ角度で同じ場所を撮影したものであるということ。
撮影:FundGarage
そして、今年2024年9月にはiPhone16シリーズが発売される。これには、「A18 (Pro)チップ」が搭載され、「生成AI」や「エッジAI」を本格的に導入すると噂されている。
これにより、AI市場は「エッジAI」トレンドにシフトしていくだろう。
アップル(AAPL)の「エッジAI銘柄」としての投資価値
ここまで見てきたように、調べる限りでは、アップル(AAPL)のエッジAI銘柄としての本質的な投資価値は高いと言える。
ただ一つの懸念点として、「AI」というモノに対する市場理解がどこまで進むかということが挙げられる。
すなわち「AI=Generative AI」という理解以上に、「AI」に対する認識が高まるかどうかということだ。
「エッジAI」として同様な技術を有する企業には、エヌビディア(NVDA)がある。同社の「Jetsonシリーズ」は、エッジデバイス向けのAIプラットフォームとして非常に人気だ。
また、アドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)、スマホやクルマに関するものとしてはクアルコム(QCOM)などにも注目できるだろう。クアルコムは、「Snapdragonシリーズ」のチップセットにAIエンジンを組み込んでおり、スマートフォンやIoTデバイスでのエッジAI計算が高速化されている。
あとは、投資家がどういう時間軸で企業成長を捉えるかだろう。
まだまだ「AI」の分野は「Just the very early stage」であることは確かであり、日々の価格変動とどう向かい合えるかがカギを握る。
まとめ
今回は、以下の内容を中心に、「エッジAI」の重要性と投資について解説した。
- これからのエッジ端末(スマホ、車、監視カメラなど)の未来を語るうえで欠かせないのが、「エッジAI」である。
- 「エッジAI」とは、エッジ端末上で直接AI処理をするプラットフォームのことである。
- 「エッジAI」は、データ送信の遅延やプライバシー問題といった、「クラウドAI」の弱点をカバーできる。
- 2024年9月発表予定のiPhone 16シリーズには、「A18 (Pro)チップ」が搭載され、「生成AI」や「エッジAI」を本格的に導入すると言われており、期待が高まっている。
- アップル(AAPL)のエッジAI銘柄としての本質的な投資価値は高いと言えるが、「(エッジ)AI」に対する市場理解がどこまで浸透するのかがカギを握る。
現状、「エッジAI」という言葉が、浸透してきたとはまだまだ言い難い。
しかしながら、本記事で説明したように、水面下では技術革新がかなり進んでいるということがお分かりいただけたのではないだろうか。
Amazon.comのベゾスCEOが指摘したように、みなさんもこのことをぜひ忘れずに投資活動を続けてみてほしい。
編集部後記
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公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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