FG Free Report 「アクセラレーティッド・コンピューティング」とは?(8月28日号抜粋)

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みなさんは、「アクセラレーティッド・コンピューティング」という言葉をご存じですか。「アクセラレーティッド・コンピューティング」は、生成AIが大きく躍進するこれからの時代において、欠かせないアプローチです。今回は、これまでのインターネットの変遷を追いながら、「アクセラレーティッド・コンピューティング」の役割と重要性について、プロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——アクセラレーティッド・コンピューティング

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、「インターネットの変遷とアクセラレーティッド・コンピューティングのこれから」について解説する。

「アクセラレーティッド・コンピューティング」を知らずして、これからの生成AI時代には追い付けないだろう。

今回は、

  1. 「アクセラレーティッド・コンピューティング」とは何か?
  2. 「アクセラレーティッド・コンピューティング」と「生成AI」の関連性
  3. 「右肩上がりのビジネス・トレンド」の重要性

という論点から、理解を深めていこう。

「アクセラレーティッド・コンピューティング」を最大限に活用するために

「アクセラレーティッド・コンピューティング」とは、特定のタスクやアプリケーションを高速化するために特化した専用ハードウェアを使用するアプローチを指す。

そして、この「アクセラレーティッド・コンピューティング」を最大限に活用するためには、以下のような高速な接続技術やネットワーク内コンピューティング技術が求められる。

  • InfiniBand: 高性能コンピューティング(HPC)やデータセンターなどで使用される高速接続技術のこと。低遅延と高帯域幅を特徴とし、サーバーやストレージ間のデータ転送を高速化する。
  • DPU (Data Processing Unit): データの処理やネットワークのトラフィック管理を効率的に行うための専用のプロセッサのこと。CPUやGPUの負荷を軽減し、データセンターの性能や効率を向上させる役割を持っている。

さらに、生成AIを動かすには大量の複雑な計算が必要で、これまでのCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)だけでは処理できなくなってしまった。

そこで、CPUが抱えきれない演算の部分を取り出し、それを外部装置つまりGPUやFPGA、ASICに「処理をよろしく頼む!」と明け渡すことで、高速処理が可能となる。

  • GPU (Graphics Processing Unit): 並列処理に非常に優れており、特に大量のデータを同時に処理する必要があるタスク、例えばディープラーニング(深層学習)や大規模言語モデルのトレーニングなどに適している。エヌビディアは、この分野でのリーダーである。
  • FPGA (Field-Programmable Gate Array): 特定のタスクに特化したハードウェアを動的にプログラム(開発)することができる半導体。ネットワーク機能・データベースのクエリ処理・特定のアルゴリズムの高速化など、特定のニーズに応じて使用される。
  • ASIC (Application-Specific Integrated Circuit): 特定のアプリケーションやタスクのために設計された専用の半導体。高い計算効率やエネルギー効率が求められる場面で使用されることが多いが、他のタスクには適用不可。

つまり、データセンターや大規模言語モデルの構築において、GPUはトレーニングや推論のタスクに主に使用される。

一方で、FPGAやASICは、特定のニーズや要件に応じて、ネットワークの最適化や特定のアルゴリズムの高速化などに使用されることがある。

現在の生成AIやディープラーニングのトレンドにおいて、GPUは中心的な役割を果たしているが、FPGAやASICも、特定のシナリオや要件に応じて、非常に価値のあるツールとして活用されている。

それぞれの技術には、独自の利点と制約があり、適切なユースケースやアプリケーションに応じて選択されるということがイメージできるだろう。

「アクセラレーティッド・コンピューティング」と「Generative AI」の関係

エヌビディアのJensen CEOの発言に、

It is recognized for some time now that general purpose computing is just not and brute forcing general purpose computing.”

というフレーズがあった。

つまり、「一般的なコンピューティング(=general purpose computing)だけを増やす、つまり単純にコンピューティングの能力を増やすだけのアプローチは、現代の計算ニーズにはもはや適していない」ということだ。

「一般的なコンピューティング能力を単純に増やす」というのは、具体的には「CPUの計算能力を増強すること」や「CPUのコア数を増やすこと」など、伝統的な方法でのコンピューティング能力の向上を指す。

その代わりに、特定のタスクや問題に特化したハードウェアを使用して計算を高速化する「アクセラレーティッド・コンピューティング」のアプローチが、現代の高度な計算ニーズにはより適している、と彼は主張する。

そこで、「アクセラレーティッド・コンピューティング」と「Generative AI(生成AI)」の関係性について作図してみた。

「Generative AI(生成AI)」はディープラーニングの一部であり、データを生成する目的で使用される。

一方でディープラーニングは、ニューラルネットワーク(人間の脳のニューロンの動作を模倣)を使用してデータから学習する機械学習の一部門であり、分類・回帰・クラスタリング・強化学習など、さまざまなタスクを実行するための技術やアーキテクチャを提供する。

この辺りのことを把握していくと、いかに今が時代、テクノロジーの大きな変革期であることがわかり、多くのCEO達が「まだ始まったばかり」と口をそろえる真意がわかる。

インターネットの変革

いわゆる、「IT革命」などと呼ばれた時代から、既に四半世紀が経とうとしている。

インターネットが普及する前、コンピューターと言えば「メインフレーム(大型コンピューター、汎用コンピューターとも呼ばれる)」であった。

そして、当時の主役はIBMだろう。しかし、その栄華も長くは続かず、メインフレームの時代は終わった。

次に主役に躍り出たのが、「Wintel帝国」を築き上げたIntelとMicrosoftだ。メインフレームという大型機の時代が終わり、パーソナルなコンピューティング端末がインターネットを通じて世界中に繋がったのだから、当時新たに開かれた世界の地平線の果てを見渡すことは困難だった。

下図をご覧いただきたい。

出典:アプライド・マテリアルズ Q2 2023 Earnings Presentationより

各ERAでの、PCとインターネットの大きな変化は次のとおり。

  • ERA1:人間の手計算に頼らず、機械を使って計算するようになった。
  • ERA2:オフィスワークの仕方が変化した。まず手書きのモノがなくなり、何でもかんでもパソコンで処理するようになった。また、e-commerceの台頭も大きい。商店街から本屋さんが消え、ショッピングの仕方も劇的に変わった。
  • ERA3:何でもかんでもパソコンだったものが、スマホに変わり、さらに有線が無線に代わられた。そしていつでもどこでも同じことができるように、多くのデータが「クラウド」の中に集約された。

「右肩上がりのビジネス・トレンド」を掴んでいれば、「下げ」も好機にみえる

ここまでの流れ、実はまだ始まったばかりのERA4への助走だったのではないか、という思いすらしないだろうか。

それほど「Generative AI」の可能性を実感しているからでもあるのだが、Microsoft、Meta Platforms、amazon.com、Advanced Micro Devices、Applied Materials、nvidiaなどの決算を深堀すればするほど、彼らに見えている世界の地平線は、やはり遥か彼方の見えないところにあるように感じてしまう。

そして何より面白いのは、彼らが見ている(見えている?)ものはほとんどど同じ地平線の彼方にありそうにも思えることだ。つまり、全く異なるビジネスをしている会社のCEO達のロジックが、どこかで話を擦り合わせているのではないかと思われるほど、ひとつのストーリー上にあるということだ。

逆に、ERA2の初期はある意味では同じ興奮を覚えたものの、ERA3の時は、正直なところではERA2の初期や今現在のような感覚はなかった。

確かに、考えてみれば「PC⇒スマホ」というのは、抜群に便利な世の中になったことは事実だが、言い換えればそれは「性能向上」の一環でしかないとも言える。

これは、ノートパソコンとタブレット端末の境界線が今一つ曖昧なことと同義かもしれない。要はネットに繋がった端末の形態変化でしかないからだ。

クラウドについては、無駄がなくなり利便性は向上したかもしれないが、その有無について検証する「機会」がない。黒子過ぎるとも言える。

どちらにせよ、「遥か彼方の地平線」というものはイメージできていなかったように思う。

その意味では、「アクセラレーティッド・コンピューティング」もイメージは似ている。

なぜなら、「これではコンピューティング能力が足りない」という実感は通常、あまり起こり得ないからだ。パソコンの演算能力が足りないと感じている人はほとんどおらず、多くの人がスマホひとつさえあれば用が足りているのが現状だろう。

だが、前掲の「Accelerated computingとGenerative AI」の図を見てから、昨今急速にニーズを高めている演算項目を見たら、確かに通常のパソコンはおろか、データセンタでさえパソコンの延長技術のサーバーではコンピューティング能力が足りないことが明白になる。

右肩上がりのビジネス・トレンドがここにあることは明らかなのだが、市場が僅かな金利変動の方にナーバスに動くのは、「Accelerated computingとGenerative AI」のスライドで示したような内容の理解がまだ進んでいないからだと予想できる

例を挙げれば、自分のパソコンのCPUに何個のコアが入っているかを知っている人は少ない。ストレージがHDDベースなのか、SSDベースなのか、あるいはネットワークの帯域幅はどのくらいなのかなど、そのキャパシティを足りているかを考えながら作業をしている人はレアだろう。

そう考えると、「アクセラレーティッド・コンピューティング」はそのくらい、近くて遠い話題なのだ。

一方で、Generative AIこと、生成AIはまだまだそれに比べると分かり易い。だから取りつき良いところで一旦はブームとなったが、応用が利かずに市場は足許で停滞しているということだと思う。

ならば、ある意味では、株価が下落してくれることは「天の恵み」と言えるかもしれない。なぜなら、ここに右肩上がりのビジネス・トレンドがあることは誰の目にも明らかなのだから。仮に金利がある程度上昇しようとも、この「アクセラレーティッド・コンピューティングとGenerative AI」化の流れは止まらないし、誰にも止められないのだ。

まとめ

今回は、「アクセラレーティッド・コンピューティング」について、インターネット変革と合わせて確認した。まとめは以下の通り。

 

  1. 「アクセラレーテッド・コンピューティング」とは、専用ハードウェアを使って作業速度・効率を上げることである。InfiniBandやDPUといった技術、GPU・FGPA・ASICといった専用ハードウェアが用いられる。
  2. これまでのインターネット変革は、今後のもっと大きな変革の助走にすぎない。
  3. 「アクセラレーティッド・コンピューティング」「生成AI(ディープラーニング)」分野は確実に「右肩上がりのビジネス・トレンド」なので、きちんと理解を深めていこう。
  4. 「右肩上がりのビジネス・トレンド」関連の株価が下落しても焦らない、むしろ好機ととらえよう。

 

エヌビディアのジャンセンCEOが「単にCPUの能力を増やすだけでは、現代の計算ニーズに対応できない」と言ったように、これからもどんどんコンピューターとインターネットの時代変革が起きていく。これは確実だ。

しかしそのような中でも、「右肩上がりのビジネス・トレンド」を掴んでさえいれば、外的な政策動向に左右されずに済むということが、今回お分かりいただけただろうと思う。

「アクセラレーティッド・コンピューティング」は、言わば「オタク」な世界ではあるが、逆に言えば知らない人が多い今こそ、狙い目なのだ。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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