日ごとにその研究開発が進められ、可能性を広げている「生成AI(Generative AI)」。スマートフォンが普及する前までは、現代のまるでSFのような世界がこんなにも短期間で実現するとは、誰も想像できませんでした。そして今後、私たちの生活は一体どこまで便利になっていくのでしょうか。さらにそれを受けて、世界市場はどう方向転換するのでしょう。今回はそんな最新AIの世界における投資判断について、プロのファンドマネージャーの視点からお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
フィラデルフィア半導体指数の上昇が示すもの――Generative AIの時代
前回レポート『SVB経営破綻の原因と意味』のおさらいとして、先週は、「SVB(シリコンバレーバンク)の経営破綻」が市場の関心の中心であった。
そんな今週は、各市場の株価インデックスが面白いように別々の方向に動いた。
上の騰落率から、他の株式市場が振るわなかったのに対し、ナスダックは前週の下げを大きく取り戻したことが分かる。
ここでその中身をよく見ると、流れをリードしたのは「半導体関連」だ。
それは、ナスダックとフィラデルフィア半導体指数の相対パフォーマンスを調べてみると一目瞭然だろう。
ご覧頂ける通り、相対パフォーマンスは2022年1月14日にピークを迎えた後、一旦はアウトパフォームした(=ベンチマークの指標を上回った)その全てを吐き出したが、再度好調にアウトパフォームを拡げ始めている。
前回2022年の初めの時と今回の流れとの大きな違いは、ハイテクの主役の交代だ。
前回はパソコンやスマホがコロナ後の景気立ち上がりで需要が爆発しているという流れであり、また仮想通貨のマイニング(=仮想通貨を管理し、取引を承認して報酬を得ること)の話でもあった。つまりそれらに関わる半導体銘柄が買われた。
だが今回は、明らかにAIが牽引している。そう、「Generative AI」の流れである。
Generative AIの進出を支えるのはハード面
下記チャートは、半導体主要メーカーの対ナスダックの相対パフォーマンスだ。
ここで一度、各半導体メーカーの主力製品を確認しておこう。
では、上のチャートを詳しく分析していこう。
全体として、エヌビディアが独り勝ちしているようにも見えるが、AMDも足許でかま首を持ち上げてきたのが分かる。
一方で、苦戦を強いられているのはインテルだろう。
そして注目すべきは、このインテルとAMDは対照的な動きをしている点だ。上記の通り、両社はともにCPUをメインに扱うライバル同士であるにもかかわらずだ。
ではなぜチャート上に大きな差が表れてしまっているのだろうか。(ただ実際にはこのCPU分野でも、AMDの方がシェアをインテルから奪いつつあるのも事実なのだが…。)
その主な要因は、GPU(Graphics Processing Unit、画像処理装置)とFPGA(Field Programmable Gate Arry、即座にまたは後からでも書き換え可能な集積回路のこと)だろう。
なぜならそれらは、AIの為のアクセラレーテッド・コンピューティング(専用ハードウェアを使ってタスクを並行処理することで、作業速度・効率を上げること)に使われるからだ。
簡単に補足説明をすると、まず生成AIを動かすには大量の複雑な計算が必要で、CPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)だけでは処理できなくなってしまった。
そこで、助けてくれるのがアクサラレーテッド・コンピューティングだ。
CPUが抱えきれない演算の部分を取り出し、それを外部装置つまりGPUやFPGAに「処理をよろしく頼む!」と明け渡すことで、高速処理が可能となる。
AMDは、コストパフォーマンスの高いGPU(Radeonシリーズ)やFPGA(SPARTANシリーズ、ARTIXシリーズなど)の開発に力を入れている。これがインテルと比較したときの差分の大きな理由だろう。
一方で、マイクロンテクノロジーやウェスタンデジタルの動きを見る限り、パソコンとスマホは燻っているようだ。
どんなに付加価値が薄くなっていると仮に考えたとしても、高速なDRAM(Dynamic Random Access Memory、ディーラム。半導体メモリのこと。)が無ければパソコンもスマホも、データセンターのサーバー類までも高速稼働が出来なくなる。
またウェスタンデジタルが得意とするHDDを含め、NANDフラッシュメモリ(大容量のデータに対しても、書き込みや消去が高速のフラッシュメモリ)を利用するSSDなどの高速大容量ストレージのニーズは無くなることは有り得ない。
それにもかかわらず、株価が低迷しているのは、半導体分野自体がパソコンとスマートフォン市場におけるニーズにとどまらなくなってきた、ということを示す何よりの証左だ。
生成AIの台頭で、それ自体を動かすのに必要なハード面が半導体市場の先頭を走っていることが、お分かりいただけただろう。
身近なGenerative AI――GPT-4ができること
既にChatGPTを試された人も多いと思うが、3月17日には早くも最新版のGPT-4が発表され、実際に利用出来るようになった。ただ現状では3時間の間に25メッセージに制限(※)されている。
そもそも、GPTとは、「Generative Pre-trained Transformer」の略称である。
「Transformer」というGoogleの研究者らが開発した深層学習モデル(ディープラーニングとも呼ばれる)を土台として、OpenAI社によって公開された生成AIだ。
そんなGPTだが、旧バージョンのGPT-3と新しいGPT-4にはどのような違いがあるのだろうか。
GPT-4は、自然言語理解や生成に関するタスクで優れたパフォーマンスを発揮し、多くのAIアプリケーションやサービスに活用される。
また、会話型AIや文章生成、質問応答、文書要約、機械翻訳など、幅広い分野で利用可能だという。
ちなみに、あの小室圭さんも苦戦した米国の司法試験で、上位10%に入る得点で合格した実力を持つのだそうだ。
…と言ってもいまいち解かり辛いので、GPT-4自身にこんな問い掛けをしてみた。
答えの中の例を見るまでも無く、既にやり取り自体の文章生成が自然になっているのが体感出来る。
ただ当然にして、機能が上がればそれだけハードウェアに負荷が掛かるため、メッセージに制限が設けられている。
他にも色々と試してみたが、ただただのめり込むばかりというのが実感だ。
※…2023年10月現在は、「50メッセージ/3時間」に緩和された。GPT-4を使うには、月額20USD($)
で「ChatGPT Plus」に加入する必要がある。無料版で利用可能なのは、GPT-3.5。
さらに、Bingのチャット機能では最大30メッセージまで無料でGPT-4を利用できる。
AIを実際に試して、投資判断材料としよう
講演会などで、ChatGPTの話を例として「Generative AI」の話をすると、多くの人がとても興味を持っていることがわかる。
ただ残念ながら、その多くの人が実際に操作した経験があるかと言えば、その経験は無い場合が多い。
だからかも知れないが、どちらかと言えば「多くの専門家が凄い凄いというのだから、きっと凄いのには間違いない。ではGenerative AIがどんどん発達すると、どんなことが出来るようになり、そしてどんな未来が拡がると言うのか?」という疑心暗鬼になっている人も多いようだ。
しかしそういう質問をされると、実は私自身も答えに窮してしまう。実際に試してみればChatGPTが「凄い!」ということは体感出来るし、リアルにかなりのめり込んでしまうし、この将来性がプロミシングであることは間違いない。
だが「具体的にどうなるのか」という問いには正確な答えを持ち合わせていない。
何故なら、これが正に未来に向かった技術革命だからだろう。将来の絵がしっかり描けるならば、私自身が既に途方もないお金持ちになっている筈だ。
シリコンバレーの多くのテクノロジーの巨人たちが「AIはまだまだ始まったばかり」だと言うが、当然、将来の映像をリアルに紹介出来ている人は居ない。
だからこそ、あとは自分自身で「これは凄いことになるな」と実感するかしない。実感出来るか否か、それが投資判断のカギを握ると思っている。
IGF2023でのAIセッション
ここでひとつ実感するための材料として、京都で10月8日~12日に行われた、インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)を挙げておこう。
IGFの公式サイトによると、今回の会合は以下の8つのテーマについて議論されるという。
- AI & Emerging Technologies (AI と新興テクノロジー )
- Avoiding Internet Fragmentation (インターネット断片化の回避)
- Cybersecurity, Cybercrime & Online Safety(サイバーセキュリティ、サイバー犯罪、オンラインの安全性)
- Data Governance & Trust(データガバナンスと信頼)
- Digital Divides & Inclusion(デジタルディバイドとインクルージョン)
- Global Digital Governance & Cooperation(世界的デジタルガバナンスと協力)
- Human Rights & Freedoms(人権と自由)
- Sustainability & Environment(持続可能性と環境)
5日間でかなり多くのセッションが行われたので、すべてを網羅することはできないが、気になるセッションがあればYouTubeでアーカイブを観てほしい。
私がざっと目を通しただけでも、
- 「AIは本当に人間に代わるのか?」
- 「AIと人類の共通善は共存可能か?」
- 「大規模言語モデル(LLM)はインターネットにどのような影響を与えるのか?」
- 「AIの責任ある開発と利用のために企業や政府に必要な取り組みとは?」
…などなど、興味をそそられるディスカッションが盛りだくさんだ。
また、9日には岸田総理が出席し、「AI特別セッション」にて挨拶をした。
トップニュースにもなっていたが、その一部を抜粋しよう。
「日本政府として、今月中に経済対策をまとめることを予定していますが、計算資源の整備や基盤モデル開発に対する支援など、AI開発力の強化や、中小企業や医療分野等における、AI導入の推進など、AI開発・利用の両面に強力に取り組み、しっかりと経済対策に盛り込んでいきたいと考えています。」
「広島AIプロセスでは、信頼できるAIの実現に不可欠な共通原則として、全てのAI関係者向けの国際的な指針を年末までに策定することといたしました。特に、喫緊の課題として、生成AIを含む高度なAIシステムの開発者向けの国際的な指針や行動規範を、この秋にも開催される予定のG7首脳オンライン会議に向けて策定を進めています。」
首相官邸HPより抜粋。FG編集部が一部太字に変更。
このように大規模な国際会議(IGFは国連主催)が開かれるほどに、もう世界は生成AIを国際的に取り入れる準備を進めている。
そんな流れに置いて行かれないように、まずは身近な生活の中でChatGPTなど最新テクノロジーを楽しんだり、講演を聴いてみたりするといいだろう。何か発見があるかもしれない。
まとめ
今回は、
- 半導体関連事業が市場をリードしている。
- 生成AIの実用化のためにはまず、ハード面の強化が必要。
- 半導体メーカー各社も、PCやスマホの半導体にとどまらず生成AIのための分野を拡げている。
- 新しくリリースされたGPT-4は、より正確で流暢なコミュニケーションが可能に。
- 国際社会もAIに対して敏感になっている。
- AIを実際に体験して、投資判断材料とすることが大切。
ということを中心にお伝えしてきた。
AIが日を追うごとに賢さと勢いを増しているということが、今回のレポートで実感いただけただろうか。
私のイメージとしては、遂にダムが決壊し大量のAIという水流が流れ出した、という状況を想像する。
ダムから放流される時の制御された水流でさえ凄いと思うが、決壊したときにはより勢いを増す。
では今まで世間が騒ぎ、それを利用したビジネスモデルを謳った既存のAI関連とは何だったのかと疑ってしまうほどだ。
恐らく、今から考えればまだまだ未熟な「もどき」のようなものであり、もうひとつは「推論」を発展させる前の「機械学習」の過程で少しずつ滲み出ていたもの、と言えるだろう。
投資の世界で重要な才能のひとつは「未来予想図」をどこまで精緻に、正確に描くことが出来るかだと思っているが、やはり最先端技術の世界を正確に想像するのは難しいかもしれない。
しかし今やスマホアプリやチャットなど個人的な利用にとどまらず、企業や医療分野、ひいては国際社会という大きなフィールドに至るまでもGenerative AIはその勢力を拡げている。
過渡期である今のうちに、ご自身ができることから「AIの凄さ」を実感してみることを強くお勧めする。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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