FG Free Report SVB経営破綻の原因と意味 (3月13日号抜粋)

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2023年3月、米国のシリコンバレー銀行(SVB)が破綻したニュースは当時ご覧になったでしょうか。日本でも大きな問題として取り上げられましたが、その主たる原因は一体何だったのでしょうか。米国の反応との違いもありそうです。今回は、そんなSVB破綻の原因と、そこから見えてくる日米間の金融機関の違いについて、プロのファンドマネージャーの視点からお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

シリコンバレー銀行(SVB)が破綻、日本では大騒ぎでも米国では…?

シリコンバレー銀行(SVB)が3月10日、経営破綻したとのニュースが報道された。カリフォルニア州の金融保護当局によって閉鎖され、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれたのだ。

それを受けて、上昇基調であった当時の市場は、残念ながら銀行株を中心に反転した。

銀行株の下落がNYダウに大きなインパクトとなり、また「シリコンバレーのスタートアップ」にも影響があるだろうと考えられたことで、ナスダックも下落。週を通じた騰落率では、米国市場は総じて大きく下落した。

ところが、

日本では「米シリコンバレー銀行が経営破綻 リーマン危機後で最大」とかなり騒がれていたものの、

実は現地米国内ではそこまでの騒ぎになっているようには見えないのだ。

勿論、シリコンバレーのあるサンフランシスコ・ベイエリアや、関連するエリアでは動揺もあるようだが、予想された程ではない。

その大きな理由はというと、日本での「銀行」という存在の位置づけと、米国のそれでは全く異なるからだ。

今回は、そんな日本と米国における「銀行」の違いはどのようなものなのか、またそれを踏まえてなぜSVBが破綻に至ったのかを一緒に見ていこう。

SVB銀行破綻が意味するもの

日本と米国の金融システムの違い①直接金融と間接金融への依存度

前述の通り日本では、「米シリコンバレー銀行が経営破綻 リーマン危機後で最大」と喧伝されているようだ。

特に、「リーマン危機後で最大」と見出しに入れることで、「あの時を思い出せ」とばかりに見事に悲観バイアスに火がつくように焚きつけているようにも見える。

しかし、現実はどうなのだろうか。

結論から言うと、今回のSVB破綻は米国国内で見るとそれほどの大きなショックではない。

さて、ではこの事態を日本人が正確に理解するためには、「日本と米国の金融システムの違い」を理解する必要がある。

その一つ目のポイントが、「日本と米国ではその直接金融と間接金融への依存度が全く異なる」ということだ。

まず、直接金融と間接金融について整理しておこう。

 

直接金融

…企業が社債や株式を発行して、資本市場から直接資金調達を行う方法。

間接金融

…企業が銀行から融資を受け、資金調達を行う方法。

 

日本では、企業の資金調達の約90%が銀行融資(つまり間接金融)によるものであり、

反対に米国では、資本市場からの直接金融が主流で、銀行による間接金融の割合は資金調達の約20%程度とされる。

つまり、米国における銀行融資の存在感というのは日本と比較して圧倒的に小さい

日本と米国の金融システムの違い②ベンチャーキャピタルの存在

そしてこの直接金融を間接金融の違いに大きく関わるのが、ベンチャーキャピタルの存在である。

 

ベンチャーキャピタル

新興企業や成長企業への資金調達や支援を行う、一種のリスク投資ファンドのこと。つまり将来的にその企業が成長すことを見越して出資し、IPO(※1)などのイグジット戦略(※2)により利益を得る。VCとも呼ばれる。

※1…IPOとは、株式公開のこと。つまり、株式会社が自社の株式を証券取引所に上場させること。

※2…イグジット戦略とは、その企業の経営者やファンドが株式を売却することで利益を得ること。

 

このベンチャーキャピタルが、米国では新興企業の成長を支援する重要な資金調達手段となっている。

そしてその規模や役割が、日本でなぜ成長力のあるベンチャーが育たず、ユニコーン(=時価総額が10億ドル以上のベンチャー企業)が少ないのかということにも影響してきている。

何故なら、ベンチャーキャピタルは新興企業の資金調達面だけでなく、経営戦略やビジネスモデルの改善、財務管理などといった経営支援も行うからだ。

つまりベンチャーキャピタルは、企業の成長を支援するためのビジネスパートナーとしても重要な役割を果たす。成功してこそ果実を得ることが出来るビジネスモデルなのだ。

さらに実際私は、シリコンバレーでベンチャーキャピタルを立ち上げられないか検討した時期がある。

現地の仲間のベンチャーキャピタリストや弁護士事務所とも何度かディスカッションした経験から、日本の間接金融のそれとは大きくその存在価値が異なると断言出来る。

米国におけるベンチャーキャピタル市場は非常に大きく、2021年にはベンチャーキャピタル市場で約1,900億ドルが投資されたとされる。

これを1ドル135円換算で計算すると約26兆円、つまりちょうどシリコンバレー・バンク(SVB)の総資産額に匹敵するから偶然の一致とは言え、面白い。

同様に日本のベンチャーキャピタル市場(2020年)を見てみると、投資額は約2,600億円であり、つまり概ね日本のベンチャーキャピタルの規模は米国の約1%(100分の一)に過ぎない

日本と米国の金融システムの違い③商業銀行、投資銀行、証券会社の違い

ひとくちに「金融機関」と言っても種類は沢山あるが、一般的に「商業銀行、投資銀行、証券会社」の定義の違いが曖昧になっているようによく思う。そこでこの点も整理しておく必要があろう。

日本ではメガバンク3行(三菱UFJ、三井住友、みずほ)と所謂「地銀」が銀行であり、野村證券、大和証券、みずほ証券などは普通に証券会社と捉えられている。しかし、JPMorganとか、Goldman Sachsが「銀行」か「証券会社」のどちらに属するのかと聞かれると、わからない人も多いだろう。

それは取り分け、日本では「商業銀行と投資銀行」という線引きが殆ど無いに等しいので、上の両社などの例は「証券会社」と考える人が多いからだ。

これについては米国で金融の歴史を見てみると少しわかりやすい。

米国には、1933年に制定されたグラス・スティーガル法(Glass-Steagall Act)という、「商業銀行と投資銀行」の業務を分離する法律があった。つまり、明確な商業銀行と投資銀行の業務には明確な違いがあったのだ。

この法律では、

  • 商業銀行
    • 業務:預金者の預金を保護する責任を負いつつ、企業に自らお金を融資する。
    • 禁止:証券取引、証券仲介、証券発行などは禁止。
  • 投資銀行
    • 業務:リスクの高い投資取引に従事する。債券や株式の発行などに関し、これらを販売する目的で買い取り、事業法人等の資金調達を助ける(債券・株式の引き受け)。
    • 禁止:商業銀行の顧客に対して預金口座の提供を禁止。

と制限し、業務分離を定めていた。基本的な商業銀行と投資銀行の業務の違いはこれだ

商業銀行はもっぱら預金を集め、それを貸し付けるのが業務、投資銀行は株式や債券などの証券類の引き受けをするのが業務の基本となる。

しかし、1990年代後半になると、金融業界において商業銀行や証券会社の業務分野の境界が曖昧になってきた。金融商品の種類も多様化しだし、グラス・スティーガル法が時代遅れとされてしまった。そして2000年には法律の一部が撤廃され、互いの業務の乗り入れが始まったのだ。

その結果、金融市場において高いリスクが生じることになり、リーマン・ショックにも繋がった。

そしてこれを切欠に、金融システムの安定性の確保のための新たな規制が導入されることに繋がるのだ。(代表例:ドッド・フランク法(米国)、バーゼルIII規制(国際的な規制)、MiFID II(欧州連合)など。)

そして現在、米国の代表的な金融機関は、

商業銀行】…JPMorgan Chase Bank of America Wells Fargo Citigroup など

投資銀行】…Goldman Sachs Morgan Stanley など

となっている。

それぞれ商業銀行と投資銀行の差はあるが、お互いの業務は乗り入れが続いている。

例えばJPMorgan ChaseとBank of America、Citigroupは、商業銀行としての業務の他に、投資銀行業務も現在は行っており、Wells Fargoも商業銀行としての業務を中心に行っているが証券業務も行っている。反対にGoldman SachsとMorgan Stanleyは、投資銀行業務が中心だが、商業銀行業務も行っている。

では、証券会社は無いのだろうか?

その定義を主に、証券の売買、保管、管理などのサービスを提供する金融機関として、個人投資家や機関投資家などの顧客から、株式、債券、投資信託、先物、オプションなどの金融商品を購入・売却する手続きを代行し、顧客の投資活動をサポートするものとするなら存在する。

また投資銀行とは異なり、IPOや企業買収などの資金調達業務や投資銀行業務を行うことは出来ず、株式や債券の売買による手数料や、口座管理手数料、アドバイザリー手数料などを得て収益を上げるものとされている。

具体的には、

証券会社】…ETRADE Financial Charles Schwab TD Ameritrade Robinhood など

が挙げられる。

日本で通常「銀行」と呼ぶのは「商業銀行」の場合が多く、「証券会社」は「投資銀行」に近い。ただ企業向け金融と言う意味、すなわち「投資銀行業務」という点では、現在かなり境界は曖昧だ。

SVBはなぜ破綻したのか?

では、上記を踏まえて、SVBはなぜ経営破綻したのかを考えよう。

まず議論に入る前に、SVBがどのような機能を持つ銀行なのかをよくご存じない方は、以下のChatGPTの返答をご参考いただきたい。

SVBは主に、スタートアップ企業やVCなどのテクノロジー関連企業に特化した商業銀行であり、これらの企業に対する資金調達支援やキャッシュマネジメントサービス、投資銀行業務に近いサービス(一般的な投資銀行と比べると限定的なサービス)などを提供していた。

そんなSVBの破綻のメカニズムの一番分かり易い説明は、以下の通り。(日経新聞から一部引用。)

 

①新型コロナウイルス下の金融緩和に伴うカネ余りで、スタートアップは資金調達を拡大した。これにより、21年の米国のVC投資は過去最高となった。

②資金の余ったスタートアップがSVBに預金した結果、22年3月末の預金残高は前年同期比6割増の1980億ドルとピークに達した。

③預金が増える一方、株式で十分に資金調達していたスタートアップへの融資需要は低かったため、SVBは運用先として住宅ローン担保証券(MBS)など有価証券の購入にあてた。

④米連邦準備理事会(FRB)が22年3月に利上げを開始し、急な金利上昇に伴い保有する債券の含み損が想定を上回って拡大。結果、債務超過状態に陥った。

 

そしてさらに物語を次の章へ進めたのは、噂でパニックを起こした人たちによる「取り付け騒ぎ」だ。急激に9日と10日に流動性が悪化し、資金繰りが出来なくなったことで、経営破綻に至った。

まとめ

今回は、

 

  1. SVBの破綻は、米国国内では日本で騒がれているほどの大きな問題ではない。
  2. なぜなら、日本と米国の金融システムが異なるからだ。
  3. 一つ目は、日本は間接金融が主流であるが、米国では直接金融が主流であること。
  4. 二つ目は、米国ではベンチャーキャピタルが大きな資金調達の手段であること。
  5. 三つ目は、日本では商業銀行、投資銀行、証券会社の線引きが曖昧であること。

 

を中心にお伝えした。

一口に「銀行」と言っても、日米間では大きな違いがあるということがお分かりいただけただろうと思う。

そして間接金融か直接金融かという点でも日米で大きな違いがあり、ベンチャーキャピタルの存在も絡んで、「銀行の破綻」と言っても相当に字面の印象と、実態面で違いがあることもご理解いただけただろう。

また日本では企業が誕生した時点から制度融資などを含めて銀行が企業の資金調達を担うのに対し、米国ではベンチャーキャピタルが「リスクマネー」として企業の資金調達を応援することの方がメインとなる。

すなわち、日本では「回収出来ること」が金融機関側の大きな命題であるのに対し、米国では「成長すること」が大きな命題となっているという違いがある。

今回は少々、専門用語が多かったが、みなさんの疑問が解消されていたら幸いだ。

編集部後記

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