無料版の始めに
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
最新の情報や個別企業の解説に関心をお持ちになられた方は、是非プレミアム会員にお申し込みください。 前置きが長くなってしまいました。では「プレミアム・レポート 2022年7月4日号」の一部を無料抜粋という形でご覧頂きましょう。
記事のポイント
- 米国の金利を見ると、インフレだからと利上げ議論が喧しい中で米国債市場は正反対の動きをしている。
- それは何故かを考え、その意味するところを見極め、冷静に自分のストラテジーを考えることが大切だ。
- メディアは安易に「利上げ」と言うが、もし日銀が本当に利上げをしたら、はっきり言って日本経済は失速し、ハードランディングして叩きつけられるだろう。
- 「物価高対策」の特効薬は供給量を一気に引き上げるか、需要を減らす方法しかない。
- 薄っぺらなポピュリズムの金利上昇は日本を更に沈没させるだけだ。
———–<以下、プレミアム・レポートより抜粋>———–
米国債金利水準、既に景気腰折れを示唆
10年債金利はGW前の水準まで低下した
先週末金曜日の米国債券市場、その10年債利回りの終値は2.88%となった。
ここで時系列を整理しよう。この水準を今年2022年に最初に上回ったのは4月18日、つまりFRBが2度目の利上げで0.50%引き上げることを決定する前だ。その後FRBは5月4日に0.50%の利上げを行い、5月下旬には安定的にこの水準を超えて3%台に。だが10年債金利がピークを付けたのは結局は3回目の利上げが発表された6月15日の前日で、その時の水準が3.47%だ。それ以降は論じてきたように、金利は上に抜けるどころか低下するばかり。インフレだからと利上げ議論が喧しい中で米国債市場は正反対の動きをしている。
それは何故かを考え、その意味するところを見極め、冷静に自分のストラテジーを考えることが大切だ。ポジションを持っていないメディアや評論家は単なる祭囃子か、それ以下の情報しか提供することは無い。
先にイールドカーブで金利の動きを見て貰おう。週末毎に確認して金利は低下している。最終的には先週末金曜日に0.75%の利上げ分に肉薄する0.71%を吐き出した。だが、この赤いイールドカーブ、よく見るとほぼほぼ平らな状況になってしまっている。これを「ベア・フラット(弱気のたいら)」とか「フラットニング」などと呼び、決して良いものではない。景気の鈍化、下手をすれば悪化を読み込み始めたことになる。
この債券市場の動きをどう受け止めたかの議論は別にするとして、先週一週間の株価の動きを纏めると下記の通りになる。残念ながら、全市場で騰落率はマイナスとなった。週の終わりに少しリバウンド上昇したので印象とは違うかも知れないが、前週末対比で見れば、ご覧の通りマイナスだ。
いよいよCY2022は下半期入り
木曜日で暦年ベースで下半期入りとなった。下記の表、7月と書いてある分は週末の1日分なので、暦年上半期の通算リターンは「”通算”マイナス”7月分”」の式で計算出来る。例えばナスダックで言えば「△28.87%-0.90%=△29.77%」ということ。今年は予想以上に厳しいマーケットと対峙することになったものだ。
その背景理由は、何度もお伝えしている通り、
- 長引く2020年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響(中国の再度のロックダウンなど)
- その一方で需要の急回復に伴うサプライチェーンの混乱
- そしてロシアによるウクライナ侵攻
だ。これらが複合要因となってエネルギー価格の高騰、食糧(主として穀物類)価格の高騰を招き「物価高」「インフレ」という大騒ぎが始まったというのはあらためて説明するまでも無いだろう。
そしてこれらを受けて、米国が先陣を切って利上げを行い、先週末金曜日の7月1日付でECBも0.25%の利上げが実施された(引き続きマイナス金利であることは重要)。タカ派のエコノミスト(FRBの地方連銀総裁を含む)やリベラルなメディアは安易に「物価高対策に利上げを」と主張してきたが、世界で最も洗練された金融市場である米国債市場では、度重なる利上げからリセッションへの警戒を本格化させている。つまり景気の「オーバーキル」だ。
日本で金利を上げたらこの国の経済は完全に失速する
日本では参院選も前にして「物価高が庶民の生活を直撃している」「日銀が利上げをしないのが悪い」「円安放置が物価を押し上げている」などとよく言われるが、もし日銀が利上げをしていたら、はっきり言って日本経済は失速し、ハードランディングして叩きつけられるだろう。
日本が利上げするデメリットを整理しよう。
- 輸出系企業(日本経済の根幹)は利益が目減りする。
- 利上げは住宅ローン金利を直撃。既債務者は返済に困り、新規住宅購入検討者は購入を躊躇い、住宅市場は低迷する。
- 約8割が借り入れを行っている日本企業で、65歳までの終身雇用を強いられているような民間企業の経営者が、その中で賃上げなど出来るわけがない。
つまり、日本経済を失速させるだけで、根本的な対策になっていない。
対してメリットは、
- 輸入業者の一部は一息つけるだろう。その分の物価は一時的に安くなるかもしれない。
- 「海外旅行先で何もかも高くて日本の没落を感じる」などという論調の提唱者は喜ぶだろう。そもそもこれは単に為替メリットが薄くなっただけで、プラザ合意より前に遡れば1ドルは240円台だ。
確かに、今回が「景気の過熱」によるインフレであれば利上げは効果的かもしれない。だが、重ねて申し上げるが、今回の物価上昇は外的要因による需要と供給のミスマッチだ。ここで利上げをしては、折角正常に戻りつつある景気を失速させるだけだ。
根源的に、「物価高対策」の特効薬は供給量を一気に引き上げるか、需要を減らす方法しかない。
「大企業が蓄えている資本を吐き出せば良い」と言うが、無借金経営の企業は日本全体の約2割でしかない。実現性を考えれば、まるでかつての「霞が関埋蔵金」夢物語のようだ。
「消費税を無くせばよい」と言う意見もある。これは消費、すなわち需要が喚起されてしまう。対策としては真逆であり、結局は後にツケが回る。消費税も無くなれば、日本の財政は急激に悪化し、国債は売られ、長期金利は上昇を通じて国の資金調達コストも上昇するだろう。
更に、ホームカントリー・バイアスが強い日本のGPIFなどの年金運用にも支障をきたすだろう。GPIFはポートフォリオ全体ではプラスパフォーマンスを挙げているが、日本国債の運用益は今でもマイナスだ。金利上昇となれば、更に足を引っ張るのは自明の理。それは年金給付額にも跳ね返る。薄っぺらなポピュリズムは日本を更に沈没させるだけだ。
それでもFRBは7月に本当に利上げするのか?
前回、ミシガン大学消費者センチメント指数が過去最低を記録したことをお伝えし、よりreliabilityが高いカンファレンスボードの「消費者信頼感指数」がどう出るかに注目とお伝えした。結果が出たのでご紹介するが、予想通り、明確に悪化していることを示していた。
このチャートが示すものは、1985年を100として現在の「Consumer Confidence(消費者信頼感)」がどの程度かを数値化したものだ。答えは5月の103.2から6月は98.7へ4.5ポイント低下し、2021年2月以降で最低となった。100を切ったので、当然1985年寄りも景況感は悪いということだ。
より詳細なものは下記のチャートが示している。
現在の状況指数(Present Situation)は足元では比較的変化していない。だが、期待指数(Expectation)は最近の下落基調が継続し、ほぼ過去10年の最低となった。消費者の暗い見通しは、インフレ、特にガソリンと食品価格の上昇に対する懸念によるもの。現在、予想は80をはるかに下回っており、2022年後半の成長率の低下と、年末までの景気後退のリスクの高まりを示唆している。
それでも尚、「物価高対策=利上げ」と盲目的に超単純な経済小理屈を振りかざすメディアはタカ派のFRB地方連銀の総裁のコメントを引用して「FRBは利上げ継続と見える」と報じたりしているが、ここから次回7月のFOMCがある26日・27日までに何か状況が大きく変わらなければ、まず間違いなく株式市場はクラッシュするだろう。7月中旬から始まる4-6月期の企業決算の発表と、それ併せてのガイダンスが気になる。
そうしてネガティブリアクションは決して中間選挙を控えたバイデン政権も望むものではない。なぜなら、米国民の金融資産の株式へのエクスポージャーは非常に高いからだ。全ての経済政策が水泡に帰し、中間選挙で大敗、国会の捻じれ再現という事態は回避すべく、何かあがくだろう。
株式市場のバリュエーションを確認する
現状確認する限り、米国市場も日本市場もインプライドボラティリティ(VIX指数と日経インプライドボラティリティ)は、何かテクニカルにピークアウトを示唆する水準には上昇していない。ならば確認すべきはバリュエーション(割安度)ということになる。先週末が終わったところでの日経平均の今期予想PERの水準は12.57。NT倍率も変に低下しているわけではない。だとすれば、このPERの水準は下記のチャートが示す通り、決して高いとは言えない。寧ろ低いと言って過言では無いだろう。
続いて米国株式市場を確認する。下記のチャートはS&P500の予想PERの推移。数値的には前週末の19.15倍よりも若干上昇して19.33倍となっているが、赤線を辿ってヒストリカルな水準を目視してもお分かりの通り、決して高いとは言えない。またこのPERの算出根拠となっている一株当たり利益については、前週末よりも実は下方修正されている。ある程度、今後起こり得る景気減速、企業収益の低下を織り込み始めた上で尚19.33倍は低い方だ。
因みにバリュエーションが低いということは、ここから叩き売られて大きく深押しすることは中々考えられないということだ。株価は経済の体温計であり、先行きを示す先行指標だ。株価下落はその後の景気減速を予想し織り込むから起こる。本来、景気減速していることを認識してから、その水準に合わせるように売られるわけではない。つまり年初来の株価下落は、半分は期待値が飛んだのだろうが、残る半分は景気減速を織り込んでいる。
商品相場をチェックする
今週も前回同様、実際の商品相場を確認しておこう。
<FG Free Reportでは割愛>
ナスダックが不調な理由を探る
<FG Free Reportでは割愛>
右肩上がりのビジネス・トレンド
マイクロンテクノロジー(MU)の決算内容から
これがマイクロンテクノロジーが6月30日の決算発表に使ったプレゼンテーション資料だ。ある意味ではこの1枚で全て完結してしまっても良いぐらいエッセンスが詰まっている。
このスライドを配布した上で、CEOのSanjey Mehrotraが「最強の収益力とフリーキャッシュフローと共に過去最高の四半期収益を実現しました。また自動車、産業、ネットワーク市場、およびデータセンターとクライアントの両方のSSDで収益記録を達成しました。NAND事業は過去最高の四半期収益を達成し、エンベデッドビジネスユニットとストレージビジネスユニットのNAND収益も過去最高を記録しました」と冒頭高らかに宣した。更に技術的な側面についても「当社の1アルファDRAMおよび176層NANDランプは、業界内で数四半期先行しています」とも言う。そして「中国でのサプライチェーンの課題とCOVID-19対策にもかかわらず、これらの優れた結果を齎らすことが出来ました」と自画自賛までした。つまりバックミラーには充分に大量豊作の肥沃な田畑が見えるということだ。
半導体業界の動向見立て
前スライドの最下段にも類似の要約文があるが、アウトルック(ガイダンスのこと)を説明する段で業界動向とマイクロンテクノロジーの個社事情を説明した資料がこれ。
CEO曰く「CY2022年における業界全体のビット需要の伸びに対する私たちの期待は、前回の決算発表時に比べるとやや緩和(moderate)しています。第3四半期(3-5月期)末近くには、主にPCやスマートフォンなどのコンシューマー市場における最終需要の弱さが原因で、短期的な業界ビット需要が大幅に減少しました。これらの市場は中国での個人消費の弱さ、ロシア・ウクライナ戦争、そして世界中でのインフレの上昇の影響を受けています。中国でのCOVID-19対策は、一部の顧客にとってサプライチェーンの課題を悪化させ、マクロ経済環境も特定の顧客の間で注意を喚起しています。主にPCとスマートフォンのいくつかの顧客が在庫を調整しており、これらの調整は主に2022年の後半に行われると予想しています」ということらしい。
一方で「モバイル、PC、および消費者市場の最終需要は弱まっていますが、クラウド、ネットワーキング、自動車、および産業市場は回復力を示しています。短期的な需要の弱さにもかかわらず、長期的な需要の傾向は依然として強く、長期的なDRAMおよびNANDビット需要のCAGRに対する私たちの見方は以前の予想から変わっていません。」と言う。私もその通りだろうと思う。
1-alpha DRAM と 176-layer NAND
こんなテクニカルタームを投資家が覚える必要があるのかとも思われるが、簡単に説明しておこう。半導体製造技術はご承知の通り日進月歩の世界であり、巨額の開発費と設備投資が必要であり、一旦立ち止まって競合に追い抜かれると、ある意味では待っているのは「死」でしかないと言っても良いほど過酷な世界だ。
以前はその技術の評価基準がある意味では共通で「ノード」と呼ぶ微細加工の線幅単位と言えた。最近は「nm(ナノメートル)」というの一般的だが、DRAMやNANDでも、最近では独自の言い方をするようになった。
「1-alpha DRAM」という中の1-alphaは「1α」のことでこれはDRAMが使う単位。測っている場所はメモリセル配列の活性領域のピッチの半分の寸法で実は1x、1y、1zとして始まった。当然徐々に小さくなっていくのだが、1xから始めて細分化を続け、次世代のノードに名称を付けていくうちに、ローマ字の最後のアルファベット、つまり「z」まで到達、そこでギリシャ文字の「α」(アルファ)、「β」(ベータ)、「γ」(ガンマ)などに切り替えたという背景がある。1αについては、10nmクラスの第4世代ということらしい。マイクロンテクノロジーでは2022年末までに次の1-betaを立ち上げると言っている。
一方で「176-layer NAND」という中の176-layerとはNANDフラッシュメモリの為の尺度だ。NANDはこれまで水平方向(2D)に作り込んできたメモリセルアレイを、高さ方向に複数積層する3D NANDによって容量向上を果たしてきた。層数がそのまま容量の大きさにつながることもあり各社が層数の多さを競っているのが現状。タワーマンションなどの高層ビルを想像して貰えば良いと思う。その中で同社はこちらも2022年末までに今度は232層の生産を立ち上げるという。これは業界トップで中国製は数世代遅れている。
当然のことながら、これら最先端微細加工を続けて追い掛けるには、半導体製造装置の技術進歩も欠かせない。古い機器のチューニングでは到底太刀打ちできないからだ。最新の半導体製造装置は米中貿易摩擦以降、米国からの引き渡しは無い。また韓国Samsung電子が何とか必死で調達しようとする日本製の半導体材料も最先端では絶対に欠かせない。
まとめ
まずはアマゾンのprime dayに注目
ミシガン大学消費者センチメント指数、カンファレンスボードの消費者信頼感指数など、軒並み消費者系のデータが悪化している中で、もしFRBが7月のFOMCで正気で利上げが出来るとすれば、例えばアマゾンのprime dayが盛況で「個人消費は鈍っていない」とか、「消費行動は変わってきている」ということが示され、株式市場が反転してみせることだろう。
逆に今月中旬以降に始まる4-6月期決算発表が捗々しくなければ、恐らくFRBは利上げどころではなくなる。そもそもFRBの目的(存在意義)はインフレ対策であり、雇用の安定だ。実際、米国の連邦準備法の第2条Aが連邦準備制度(FRB)の目的を「物価安定」と 「最大雇用」の達成であると定めているのだから。株価が崩落するような決算になるということは、企業は求人を絞り、解雇を進める状況であろう。そういう事態になれば、少なくとも需要は減退する筈だが、「最大雇用」の達成は危ぶまれる。だが今回の雇用統計が示すのは6月のFOMCの週なので0.75%の利上げの影響は反映していないのはリスクだ。
もしそれが米FRBにも当て嵌まるならば、7月のFOMCでも利上げはし兼ねない。但し、もしそれが0.25%ならば、一旦はエンディングのサインとなるように思う。
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———–<以上、抜粋終了>———–
(編集:Fund Garage編集部)
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