
銀行株は、「金利が上がれば買い、下がれば売りましょう」と言われることは少なくありません。
しかし実は、銀行株投資は奥が深く一筋縄ではいかない場面が多くみられます。
今回は、米国メガバンクの決算を手がかりに、景気の読み方をプロのファンドマネージャーがお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
銀行株投資の本質──米国メガバンク決算が示したアメリカ景気の真相
銀行株投資の難しさの原点
銀行株投資の見立てについては、一見すると分かりやすいように見えるかもしれない。
ニュースでもしばしば、「金利が上がれば銀行株に追い風」「景気が減速すれば貸倒れが増える」といった単純な市場解説が流布される。そのため、個人投資家の中には、「金利と景気さえ見ていれば銀行株は読める」と短絡的に捉える者も少なくない。
しかし、この考え方には危うい落とし穴がある。
というのも銀行株投資とは、金利や景気の「シナリオ」を読むだけではなく、
どの銀行がどのようなバランスシート構造を持ち、どの戦略を取り、どのリスクを負っているのか?そして市場がそれをどのように誤解しているのか?
を、限られた外部情報の中から推測し、仮説を立てる作業だからだ。
この複雑性こそが、銀行株投資を特別に難解なものにしている。表層的なニュース解説や四半期決算の数字だけで完璧に分析できることはほとんどないと言って良いだろう。
しかし、銀行株の動きがマクロ経済の観察対象として有用であることは事実だ。
先週、米国の主要銀行6行の決算発表が行われ、米国経済の現状を垣間見る手がかりが得られた。今回は、トップ2の「JPモルガン」「バンク・オブ・アメリカ」を取り上げて、その内容を整理していく。
⭐︎補足・用語解説⭐️
- 金利による純利益 「純金利収入(Net Interest Income、NII)」
一般的に「金利が上昇すれば増加しやすく」、「金利が低下すれば縮小しやすい」という特徴を持つが、実は単純な金利水準の高低で決まるものではない。
短期金利と長期金利の差(イールドカーブの形状)が最も影響する。
銀行は、顧客から集めた預金(短期資金)を、住宅ローン・企業貸付・有価証券投資等に回して利ザヤを得る。イールドカーブが順イールド(長期金利>短期金利)の場合、銀行は稼ぎやすくなる。反対に、逆イールド(短期金利>長期金利)の場合、調達コストのほうが高くなり、収益は圧迫される。
- 銀行の貸倒引当金(PLL)の算定
「貸し出した資金のうち、どれだけ焦げ付くか」に備える会計上の引当金。しかし、期末にいくら積むかは単なる計算式では定まらない。現場で回収状況を見ている担当者の感触、リスク管理部門のモデル評価、そして最終的には経営陣によるトップダウン判断が反映される。
外部の人間はもちろん、行内の現場担当者ですら、最終的な数字を予想することは困難である。
- バランスシート
ALM(資産負債総合管理)、デリバティブ・ヘッジ、バーゼル規制適合、格付け対応といった多層の管理体制の上に成り立つ。それぞれ専門知識を要し、たとえ専門のアナリストであっても、外部の投資家が四半期決算書から読み解ける情報はごく限られている。
米国メガバンク決算解説①JPモルガン
JPモルガン(JPM)は米国最大の商業銀行であり、世界的な金融機関の中でも別格の存在感を持つ。投資銀行業務・商業銀行業務・資産運用・為替や債券などトレーディング・カードと、事業はほぼ全方位に展開しており、決算は「米国経済の縮図」として市場が注目する。
今回の2025年第2四半期決算(4〜6月期)は 純利益171億ドル、1株当たり利益(EPS)は4.96ドル。市場予想4.48ドルを大きく上回った。前年同期比では17%減益だが、これは前年にVisaとの株式交換による一時的利益約80億ドルがあった反動であり、実質的な事業はむしろ好調と評価される。
特に好調であったのは、
- 投資銀行手数料:前年比7%増(25億ドル)
→M&A(合併・買収)や債券引受の活動が想定以上に回復。 - トレーディング収益:前年比15%増(89億ドル)
→株式・債券市場のボラティリティ、特にトランプ政権による関税政策の影響が商いを膨らませた。
ダイモンCEOのコメントも興味深い。「米経済は底堅いが、関税・地政学・財政赤字・資産価格のリスクは依然残る」と述べ、好調を認めつつも、次のステージ(政策・地政学リスク)に備える警戒感を見せている。
投資家が読むべきポイントは何か
JPモルガンの強さは単に金利環境や景気に乗るのではなく、
◎投資銀行・資産運用・トレーディングといった多角的な稼ぐ力
◎預金基盤の厚さと高度なリスク管理
にある。短期筋の過剰反応(出尽くし売りなど)が生じた場合、投資家は「全体トレンドが変わったのか、それとも期待が下がったのか」を見極める必要がある。
米国メガバンク決算解説②バンク・オブ・アメリカ
バンク・オブ・アメリカ(BoA)は、米国でJPモルガンに次ぐ規模を誇るメガバンクであり、伝統的な個人/中小企業向けの預金、融資・投資銀行業務・富裕層資産運用ビジネスをバランスよく組み合わせた総合金融機関だ。
今回の2025年第2四半期決算は、純利益71億ドル、1株当たり利益(EPS)は0.89ドル。市場予想0.86ドルをやや上回り、前年同期の0.83ドルから増益。増益率は小幅だが安定感が光る。
詳しく見ると、
- 純金利収入(NII):前年比7%増(147億ドル)
→固定金利資産の金利改定、預金と融資の増加が寄与。 - セールス&トレーディング収入:前年比15%増(54億ドル)
→投資家の市場ポジション見直しが収益化。 - 投資銀行手数料:前年比9%減(14億ドル)
→M&A案件の減少、非投資適格債の発行減が響き、特にアドバイザリー収入は前年並み、債券引受収入は21%減。 - ウェルスマネジメント収入:前年比約15%増(78億ドル)、純新規資産流入590億ドル
→富裕層のリスク資産回帰、資産流入が大幅増。
ボースウィックCFOは、「地政学リスク・金利変動・新政権の政策措置・供給網変化といった不確実性が、むしろ顧客の資産見直し需要を生み、収益に貢献した」と説明した。
投資家が読むべきポイントは何か
バンク・オブ・アメリカの決算ポイントは、投資銀行業務が競合比でやや弱含む一方で、カード・預金・富裕層ビジネスにおいて安定的な成長が見られた点である。これは米国の消費・中小企業活動・富裕層の運用意欲が底堅いことを映しており、単なる市場ボラティリティ頼みではない強さといえる。
短期的な市場反応が「投資銀行失速」だけを材料視する場合、投資家はそれを深読みし、
◎BoA全体の成長ドライバーは、リテール(個人/中小企業向け金融業務)とウェルス(富裕層向けサービス)である
という事実を見逃さないことが重要である。
固有要因 vs 全体要因:投資家は何を見分けるべきか
銀行決算の数字を目にしたとき、投資家が最初に混乱しやすいのは、「これはその銀行固有の問題か、それとも景気全体に波及する問題か」を見分けることだろう。
ここで投資家が読み取るべきは、
- 金利や景気という外部シナリオ
- 各銀行固有のビジネスモデルや強み
- 見える数字と市場の期待のギャップ
である。
たとえば毎回お伝えしているテクノロジー株投資は、外部観察者にとって「見える世界」である。プロダクトの成長曲線・ユーザー数・技術革新・市場シェア・競合優位性といった要素はある程度、定量的で定性的な分析が成り立つ。
一方、銀行株は不透明だ。冒頭で述べた通り、銀行の収益構造は極めて複雑であり、外部から見えるのは表層の一部にすぎない。
だからこそ、表面的な数字の上振れや下振れに飛びつくのではなく、「その奥に何があるのか」を探る必要がある。
まとめ:ポイントを押さえて銀行決算を読み解こう
銀行決算を読むとは、単に数字の良し悪しを並べることでもなければ、「金利が高いから銀行株を買う」「景気が減速するから銀行株を売る」ということでもない。
どの部分が景気全体を映しているのか(=イールドカーブの影響はどこに出るのか)。
どの部分が銀行固有の事情なのか。
市場がその違いを正しく理解しているか、あるいは誤解しているか。
この見極めこそが、投資家にとって最も重要な作業である。
そしてこの作業を通じてこそ、銀行決算は単なる株価材料ではなく、米国景気を洞察する窓となり、投資判断の大きな指針となるのだ。
編集部後記
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