
現在、AIはまた新たなステージへ着々と進んでいることを、前回の無料記事「AI進化4つのフェーズとAIファクトリー」でご紹介しました。
その過程を理解し、AI投資を成功に導くための要となるキーワードの一つが、「トークン」です。
今回は、「トークン」とは何かという基礎知識を解説し、まさに今築かれている「トークン経済」の構造についてプロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
「トークン」とは何か──AIが知を生産し、対価を得る時代へ
最近、
- 「AIには技術的な伸びしろはある。でも、設備投資に見合った収益性が見えない」
- 「AIの進化と株価の動きは別物だ」
- 「トランプ関税や台湾リスクで、半導体株は長期低迷するのでは?」
というネガティブ寄りの意見を見聞きすることがよくある。
確かにこれらは一見もっともらしいようだが、実は大事な視点がすっぽり抜け落ちていると私は指摘したい。それは、「AIが何を生み出していて、それが誰にとって価値あるものなのか?」という理解だ。
この理解には、決して表層的ではないビジネス構造(ビジネスモデルとそのトレンド)の一つ一つに目を向けていくことが必要になる。
今回は、「トークン」というビジネストレンドに焦点を当てていこう。今後のAI・AI半導体業界を見極めるのに重要なキーワードなのでご参考になれば幸いだ。
「トークン」とその生成方法
まずは、「トークン」に関する基礎知識からお伝えしよう。
「トークン」とは、「AIが生成する知的成果物の最小単位」である。知的成果物とは、たとえば文章・画像・コードといったものや、意思決定プロセスそのものを指す。
AIが何かをアウトプットする際、最初は小さな単位から生成される。この単位が「トークン」なので、つまり1トークンは単語や文字列の一部だと言い換えることができる。
例を挙げると、“Hello” という単語は、 “Hel”+”lo”の2トークンから構成されている。
あなたが、ChatGPTに「Hello」と語りかけたと想像してほしい。それに対しChatGPTも「Hello」と返答するときのプロセスは、
- 「Hel」→ 次に来る可能性が一番高く、文脈からも自然な「lo」を即座に出力(=Hello)
となり、仮説や検証をしない一発回答で処理を行っている。
ところが、これは従来のいわゆる「Generative AI(生成AI)」の推論(Inference)であり、現在の新しい「Agentic AI(エージェントAI、自律型AI)」はもう少し複雑なプロセスを踏む。それが、論理的思考を伴う推論「Reasoning(Reasoning AI)」だ。
このときのトークンは、即時的な”模範回答”を出力するだけの存在ではない。
- 「Hel」に対して、「lo」だけでなく「icopter」「en」「d」など複数の可能性を想定
- 一度「Helicopter」の方向へ思考してみる(仮説)→文脈的に合わないと判断して破棄
- 次に「Helen」や「Held」を検証 → 不一致 → 破棄
- 最終的に「lo」が意味的にも構文的にも正しいと判断され、選ばれる
つまり、「lo」という1トークンが選ばれるまでに、さまざまな候補が内部で生成され、検証され、廃棄されている。1トークンを生成するのに、実は数十〜数百トークン分の「生成 → 評価 →破棄 → 再試行」のプロセスが生じるのだ。
そしてこれを課金対象とする仕組みこそが、今後のAI経済の土台となる「トークン経済」なのである。
「トークン経済」とは?
すでに、OpenAIやGoogleなどの主要なAIモデル提供企業は、「生成トークン数」に基づいた課金システムを構築している。
これは、AIがアウトプットをすればするほどトークンは増え、収益が積み上がるという構造だ。だから現在のAIは、電力・ガス・水道と同じ「インフラ課金型(従量課金)」の構造に非常に近い。 違いは、“知的インフラ”である点だ。
「トークン経済」の例①Microsoft Copilot
ここまでの内容をまとめると、トークンは「AIが知的な出入力をするためにかけた労力の結果」と言い表すことができ、 それを「使用量」として課金・収益化していくモデルが、すでにビジネスとして成立しているということになる。
この構造をもっとも直感的に理解できるのが、Microsoft Copilotの事例だろう。
Microsoftは2024年より、法人向けに「Copilot for Microsoft 365」を1人あたり月額30ドルで提供している。 このサービスはOutlook、Word、Excel、Teamsなどを統合し、日常業務の中でAIが思考の代行を担う。
実はこのCopilotの料金システムは、
- 利用法人が支払うのは、「定額(=1ユーザーあたり月額30ドル)」
- 一方Microsoft自身は、Copilotを動かしているAIモデル(OpenAIや自社モデル)に対して「トークン課金ベース」の原価コストを負担
という2層構造となっているのだ。したがってCopilotを使う法人は、定額料金の裏側で知らぬ間に「トークン経済」を支える役割を果たしていると言える。
そしてAIビジネスの儲かる仕組みは、このCopilotの構造がそのままBtoB向け生成AI全体に広がっていると考えてよい。
先述の通り実際に、OpenAI、Anthropic、GoogleなどのAI APIはすべて「トークン数」に応じて課金される。
つまり、AIが使われれば使われるほど、AI API提供者は収益を得るという形であり、GPUメーカーやクラウドサービス提供者はReasoning(推論処理)で儲かる。この「サブスク×従量課金」モデルが既にできあがっているということはきちんと覚えておこう。

「トークン経済」の例②NVIDIA Blackwell
AIのトークン需要が急拡大するなかで、もう一つ注目すべき視点がある。 それは、NVIDIAの最新GPUアーキテクチャ「Blackwell」がもたらす「逓減構造」だ。
そもそもBlackwell GPUは、前世代のH100/H200と比較して、消費電力あたりの性能向上とメモリ容量の最適化を実現している。これはつまり、1トークンあたりの生成コスト削減にも繋がっているということ。
さらに先述の従量課金方式を組み合わせると、NVIDIA(GPU提供者)やAI APIの提供者は、
- トークン生成量に応じた「従量課金」で収益化中
- GPUが進化すればするほど「1トークン生成にかかるコストが安く」なる
というコスト構造を形作っている。
つまり、
- GPUが進化して高速化すれば便利になって売上が増える
- 進化するほど、1トークンあたりの費用が減るので利幅(売上-費用)が増える
このような仕組みが見えてくるのだ。
これが、投資すればするほど、より高速に・より大量に・より安価にトークンが生成できるという「逓減構造」だ。
GTC2025では「Blackwell Ultra」のリリースが発表され、さらに2026年後半には新世代の「Rubin」が登場予定だという。NVIDIA GPUがどんな右肩上がりの進化を遂げていくのか、今後も期待を持って待つ価値があるだろう。
まとめ
いかがだっただろうか。今や、トークンは単なるAI技術の一単位ではなく、「知的生産物の経済単位」としてAIビジネスの一端を担っているのだ。
現在もAIは加速度的に進化している真っ最中であり、それはやはりトークン生成量も爆発的に増大することを意味している。
このように「トークン経済」は一過性のブームに止まらないということが分かれば、「AIが何を生み出していて、それが誰にとって価値あるものなのか?」が理解できるだろう。そして、冒頭に記したような市場の懐疑論に惑わされることなく冷静な投資ができるはずだ。
トークンは金塊であり、AIファクトリーはその金を掘るための鉱山だと言っていよい。そして今、その鉱山を手にしようと各国各社が奔走している。 AI投資の未来を見通すには、目の前の価格ではなく、AI市場そのものの経済構造を見るべき時が来ているのだ。
編集部後記
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