FG Free Report GTC2025基調講演を徹底解説!(3月24日号抜粋)

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毎年NVIDIAが主催するカンファレンス「GTC2025」が、今年は3月16日に行われました。そこでNVIDIAのジャンセンCEOが登壇した基調講演は、単なる製品発表会ではなく、生成AIの次の進化形である”Reasoning AI”の到来、そして物理世界と結びついた”Physical AI”の幕開けを告げる宣言でした。

全編2時間11分にも及ぶ講演を踏まえ、専門的かつ高度な内容を、ビジネスと投資の観点からプロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

GTC2025基調講演:AI革命の真実とNVIDIAの覇権

難解だが素晴らしい内容だった「GTC2025」の基調講演

今週、市場の大きな注目材料となったのは、エヌビディア(NVDA)が毎年この時期にカリフォルニア州サンノゼで開催するGTC2025で、同社CEOジャンセン・ファン氏が行う基調講演だった。

“King of AI”と呼ばれる彼が現状のAI革命について語るこのイベントが、市場に大きな刺激を与えることを誰もが期待していただろう。しかし正直に言うと、あれはシンプルで分かりやすい好材料を求める株式市場にとって、到底理解が追い付くレベルの代物ではなかったと感じざるを得なかった。

というのも、恥を忍んで真実をお伝えすれば、その素晴らしさに納得し感銘を覚えるまでに理解するには、この業界の投資を専門とする私でも24時間以上の時間を費やしてしまったのだ。全編で約2時間11分にも及ぶ基調講演は、それほど専門的であり、最低限のAIに関する知識を持ち合わせていないと大変眠気を誘うものであった。私は全編を通し視聴したのち、何度も再生と一時停止を繰り返しながら、細テクニカルタームや気になる点のメモを取り、その内容を調べ直し、再度全編通しで聴いて、最後に基調講演全体のロジック構成(起承転結)を確認するというステップを踏んだ。この作業には実に、二日間という時間を要した。

トークンとは何か?なぜ儲かるのか?

ジェンスンCEOが繰り返し用いたキーワードが「トークン」だった。これについては、先に説明する必要があるだろう。

ちなみに、基調講演のオープニングビデオでは、このトークンとは何かについて語られることなく話が進んでいったので、トークンを知らなければ基調講演の冒頭で既に置いてきぼりとなる。だからこそ、ChatGPTを初めて見た時のように誰もが「凄いなぁ」と感動できなかったのであろう。そしてそのまま、PerceptionAI・GenerativeAI・AgenticAI・Physical AIについてのスライドを使って、ジャンセンCEOはプレゼンを進めた。ただ、この辺りのスライドは既に今年1月に行われたCES2025で発表された※1ものなので、「目新しい内容はなかった」というような曲解にも繋がったのだと思う。

話を戻そう。「トークン」とは、AIが理解・生成するために必要な「最小単位」である。例えば”TH”というトークンは、”The”や”Theory”へと続く可能性を持つ。

重要なのは、AIが生成するすべての出力(テキスト、画像、音声など)はトークンの集合体である点だ。そして今後、

  • AIの利用者は、生成したトークン数に応じて課金される
  • AI提供者は、1トークンあたりの利益を最大化する

という形で、トークン=マネタイズの単位となる。つまり、トークン生成の効率はAIビジネスの収益性と直結するのだ。

さらに、

  • トークン生成が増える = AIの使われ方が高度になる
  • 推論(Reasoning)が複雑になる = トークン数が増加する
  • よって、GPUやインフラへの需要はむしろ高まる

という構図が成立する。

これまでは、大規模言語モデルの学習・訓練の費用は「高い」と認識されてきた。それをDeepSeek R1が安価にした※2と短絡的な理解だったので、DeepSeekショックが沸き起こりAI関連銘柄は急落した。

だが、今後しばらくはReasoning AIの時代になり、生成するトークンの数で課金される段階となる。要はAI初期投資の時代が終わり、これからは回収期に入るということだ。

だからこそ講演冒頭でジャンセンCEOは、トークン効率の高さから「LLMは安価に作れる」「GPUはもう不要」といった見解を真っ向から否定したのだ。

DeepSeek R1は推論力(Reasoning)を持つ次世代モデルの代表格であり、従来型のLLM(例:Llama3 70B)とは全く異なる設計思想に基づいている。トークン生成数は多いが、誤答が少ない。つまり、Reasoning AIという「考えるAI」への進化は、むしろ計算量の増大とGPU需要の拡大をもたらすことに他ならない。

 

※1…詳しくは、以前の無料記事『CES2025レポート:NVIDIAが語るAgentic AI』を参照。

※2…DeepSeekショックについては、以前の無料記事『DeepSeekがもたらしたReasoning AI』を参照。

CUDA、Dynamo、そしてNIM:三位一体の覇権

ジャンセンCEOは、AIファクトリーの中核に位置づけるものとして、

  • CUDA(計算ライブラリ)
  • Dynamo(推論OS)
  • NIM(NVIDIA Inference Microservice)

を挙げた。

これらはまさに、インターネット革命当時のインテル(チップ)×マイクロソフト(OS)×シスコ(ネットワーク)の3社の覇権を1社で完結する支配構造を彷彿とさせる。

CUDA(Compute Unified Device Architecture)とは、NVIDIAが開発したGPUを使って、高速な計算を行うためのプラットフォームとプログラミングモデルを提供するもの(開発環境)だ。Dynamoは新しいAIのOSとも言えるものであり、さらにNIMは「推論API+インフラ構築の手間いらず」で動かせる推論マイクロサービスなので、あらゆるAIモデルをAPI経由で容易に実装・拡張できるようになる。

DeepSeek R1はとても重く賢いが、上記NVIDIAの三位一体で十分に運用できるということをジャンセンCEOは伝えたかったのだろう。

そしてPhysical AIへ:Omniverse、Cosmos、Blue

基調講演の後半では、AIはやがて物理世界と融合すると語られた。Omniverseはリアルな世界の外観(見た目)を再現する仮想空間であり、Cosmosは意味理解(意味付け)を担う知識ベース。そして、GR00Tによって訓練されたロボット“Blue”は、物理世界で自律的に行動する。

Perception AI → Generative AI → Agentic AI → Physical AIという進化の中で、AIは産業の全てを内包する“万能知能”へと近づいているといえよう。NVIDIAはその全階層でハード・ソフト・インフラを提供することで、“AI for Every Industry”を本気で具現化しようとしているのだ。

まとめ:NVIDIAから投資家へのインプリケーション

市場の初動は鈍かった。しかし、それも当然である。専門用語が多く、視覚的なインパクトに欠けた今回の講演は、ChatGPT登場時のような”誰でも分かる驚き”には欠けていた。だが内容は本質的で、次の10年を牽引する産業構造とマネタイズのあり方を明示していたと十分に言えるだろう。特に、

  1. AIは依然として巨大な初期投資産業だが、トークン生成によって回収フェーズに入った。
  2. DeepSeekが示すように、LLMの訓練コストも圧縮可能になりつつある。
  3. 大量のトークンを必要とする推論は、ますますGPUとCUDAの需要を高める(←この点の理解の欠如が最大の問題)。
  4. CUDA・Dynamo・NIMの合わせ技で、AIの展開がクラウド並みに民主化される。

以上のポイントが我々投資家にとって重要な項目である。

GTC2025は、AIバブルの終焉を告げるものではなく、その“成熟と本格化”を示すマイルストーンであり、知る者だけが先を取ることが明らかになった。ジェンスンCEOの語った「投資すればするほど儲かる」は、もはや誇張ではない。むしろ、今がそのスタートラインであるということを、投資家のみなさまにはご理解いただけたら幸いだ。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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