FG Free Report AMDの強みとビジネス戦略(2月10日号抜粋)

Facebook
Twitter
INDEX

アドバンスド・マイクロ・デバイセズ(以下AMD)は、CPU・GPU・DPU・FPGA・ASICといった幅広い半導体を手掛けるハイテク企業です。

2024年第4四半期決算の内容から見えてきたAMDの戦略について、プロのファンドマネージャーによる製品別の分析結果と合わせて確認していきます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)  

アドバンスド・マイクロ・デバイセズ(AMD)の賢い戦略

先週の無料記事『Metaの可能性——Llama・MTIA・Ray-Ban Meta』に引き続き、今回も米国ハイテク株の2024年第4四半期決算を掘り下げて見ていきたい。本日の主役は、アドバンスド・マイクロ・デバイセズ(以下AMD)だ。

AMDは最近こそ評価されてきたものの、「GPUと言えばNVIDIA」や「CPUと言えばIntel」というイメージが定着した2社の陰に隠れ、比較され、長らく伸び悩んできた企業である。しかし実はAMDという企業は、CPU・GPU・DPU・FPGA・ASICを手掛ける、まさに半導体産業のオールラウンダーと言える存在なのだ。(参考記事:『AIの種類と特徴を知ろう』 ・『AMD〜AI分野のオールラウンダー〜』

しかし今回の2024Q3決算内容を見るに、AMDはNVIDIAと真っ向から競争するのではなく、むしろIntelの弱体化を突いてCPU市場での支配力を高める戦略にシフトしているように私は感じた。

というのも、圧倒的な強さを誇るNVIDIAのGPU牙城に10年もの後発で立ち向かうなどということは、株式市場が期待しているほど楽な戦略ではないのだ。実際に今回の決算発表から製品別の動向を分析しても、この戦略が妥当な見立てのように思う。そしてこれは大変にしたたかな戦略であり、市場がそれに気が付いた時には、面白い展開も期待できそうなのだ。

AMD製品別の戦略

以下に、私が行った製品分析結果をまとめたのでぜひご参考にしていただきたい。

1. CPU市場での明確な攻勢

  • EPYC (データセンター向けCPU)
    • 今回の決算で最も目を引いたのは、ハイパースケーラー(AWS, Azure, Google Cloud, Alibaba, Tencent)でのEPYCシェアが50%以上に達したという点。
    • Intelが依然として製造プロセスの遅れや価格競争で苦しんでいる中、AMDはTurin(EPYC第5世代)を中心にラインナップを強化。
    • 企業向けではAkamai, Hitachi, LG, Visaなどの大手が採用、エンタープライズ市場でも確実に浸透。
  • Ryzen (クライアント向けCPU)
    • デスクトップCPU市場では圧倒的なシェア(AmazonやNeweggで70%以上) を記録。
    • Dellとの提携拡大により、これまでIntelの牙城だった商用PC市場にも攻勢をかけている。

この状況を見ると、AMDはCPU市場での確実な覇権拡大を最優先しているのは明らかだ。特にIntelが経営の混乱で方向性を見失っている今こそ、AMDがサーバー・PC市場で大きくシェアを奪う最大のチャンスだからだ。

2. AI向けGPUは「戦わずして勝つ」戦略

確かに、市場の期待としては「AI向けのデータセンターGPU(Instinctシリーズ)でNVIDIAに対抗して欲しい」という声が強く、実際にAMDは2024年にAI向けGPUで50億ドル以上の売上を記録した。しかし以下の点を考えると、AMDは「無理にNVIDIAと正面衝突しない」戦略を採っているように見える。

  • MI350シリーズの前倒し投入(2025年中盤)
    • NVIDIA H200と完全に競合するわけではなく、むしろ特定用途(推論・エッジAI・HPC)に強みを持たせる形。
    • 既にMeta(Llama 4)、Microsoft(GPT-4ベースのCopilot)などが採用、「NVIDIAの代替」としてのポジションを確立。
  • エンドツーエンドのAIコンピューティング戦略
    • リサ・スーCEOが強調していたのは、AMDは「AI向けのデータセンターだけでなく、エッジ・PC・組み込みにもAIを展開できる唯一のプレイヤー」である点。
    • 例)Ryzen AI対応の「Copilot+ PC」が本格化すれば、Intelにとっての強力なプレッシャーになり得る。

要するに、「NVIDIAとGPUで消耗戦をするよりも、Intelの凋落を活用して市場シェアを確実に拡大しつつ、AIコンピューティング全体で覇権を狙う」 という戦略が浮かび上がる。

3. 市場認識や期待とのギャップ

これが株価に影響を与えている最大の要因かもしれない。市場は「AI関連株」としてAMDを見ており、特に「NVIDIAに匹敵するAIデータセンターGPUメーカーになってほしい」という期待が大きい。しかし実際には、

  • AI関連売上(50億ドル超)は十分な成長を見せているが、市場が期待する爆発的な成長(100億-200億ドル規模)には届いていない。
  • =「思ったよりも成長スピードが遅い」と感じた投資家が失望売りをする構図。

しかしAMDの立ち位置を冷静に見ると、「今はNVIDIAとガチンコで競争しない」のは合理的な判断だと言える。なぜなら、

  • MI300シリーズはまだNvidiaのH100/H200ほどのエコシステムを持っていない。
    • ソフトウェア(ROCm)の成熟度やエコシステムの整備が進めば、2026年以降に本格競争する可能性が高い。
  • Intelが脆弱な今、AMDにとっては「CPU市場を確実に取る」ことが最も高リターンな戦略。
    • NvidiaとのGPU戦争は消耗戦になりやすいが、Intelが崩れればEPYCがシェアを大幅に拡大できる。
  • AMDの強みは、バランスの取れた収益構造にある。
    • AMDは 「データセンター・PC・エッジ・組み込み」すべてのAIコンピューティング市場に攻勢をかけている。
    • =単一市場(データセンターAI)に依存しない収益構造を作れる。

という事実が見えてくるからだ。

AMDの本当のライバルはArm?

今回の決算シーズンを通じて確認できたことは、予想以上に今でもAI革命は「just the very beginning(始まったばかり)」であるということだ。

株式市場の流れに任せていると、既に身の回りにいわゆる「AI」が溢れていて、「AI」がバブルの頂点に達していて、さらに既にバブル崩壊の兆しが見えているというような錯覚を覚える時さえある。しかし、やはりまだまだ序の口にしか立っていないことが実感として残る各社の決算であった。

確かにこれまで、AMDの決算を評価する時の競合対象はNVIDIAだったかもしれない。ただ、今回Armの決算発表も分析した上で、AMDの当面のライバル(現状かなりAMDの方が有利な戦い)はIntelであり、どうやらその次のライバルもやはりNVIDIAというよりは、Armアーキテクチャなのかもしれないと私は考える。

なぜなら、AMDには買収したXilinx(ザイリンクス)が手掛けていたFPGAという、正にエッジAIの為にあるようなロジックチップも押さえているからだ。EpycやRyzenといったx86アーキテクチャのサーバーやパソコン向けのCPUのみならず、KINTEXやVIRTEXに代表されるFPGA技術のアクセラレータがそれだ。下のスライドでは、右側の”Embedded”と書かれているセグメントを指す。

出典:Fourth Quarter and Full Year 2024

なぜ、これらが”Large Growth Opportunities”と言えるのかというと、今までの静的AIの段階から、これからはエッジデバイスがリアルタイムでデータを吸収し学習モデルを継続的に更新することで、AIが「経験(=現場ごとに異なる知識)」を得るようになる動的AIの時代へと変わっていくからだ。その代表例が既にテスラ(TSLA)が自動運転用AIで行っているような、リアルタイムのトレーニングだ。まさに「AIが人間のように学び、環境に適応する世界」 へ向かっていることに疑いはない。

AMDの強みのひとつは、FPGAを活用したカスタムAIソリューションにある。FPGAは、特定用途向けの最適化が可能で消費電力効率も良い。例えば、産業用ロボットや通信インフラ向けのAI推論にはとても有利にはたらく。

そして、エッジデバイスの世界で抜群の強みを発揮しているのがArmの小型デバイスであり、その側面から見ればAMDにとってインテルの次なるライバルは実はArmではないかと予想がつくのだ。

 

…一度トレーニングしたモデルを提供し、その後の学習は制限的という意味。例えば、GPT-4は2023年時点のデータを元にしているため、2024年以降の情報は学習していない。

まとめ

  1. 2024Q4決算内容から、AMDはNVIDIAと真っ向から競争するのではなく、むしろIntelの弱体化を突いてCPU市場での支配力を高める戦略にシフトしているという意図が見てとれた。
  2. ①NVIDIAほどのエコシステムを持っていない ②Intelが脆弱な今、AMDにとっては「CPU市場を確実に取る」ことが最も高リターン バランスの取れた収益構造を活かす という点が戦略の背景にある。
  3. 今までの静的AIの段階から、これからはエッジデバイスがリアルタイムでデータを吸収し学習モデルを継続的に更新する動的AIの時代へと変わっていくことを踏まえると、エッジデバイスに強みを持つArmアーキテクチャが次なるAMDのライバルになり得る。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
また、こちらは無料版記事のため、最新の情報個別企業の解説についてはカットしております。
<FG Free Report では割愛>となっている箇所に関心をお持ちになられた方は、是非、下記ご案内よりプレミアム会員にお申し込みください。

有料版のご案内

Fund Garageのプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」では、個別銘柄の買い推奨などは特に行いません。
これは投資家と銘柄との相性もあるからです。「お宝銘柄レポート」とは違うことは予めお断りしておきます。お伝えするのは注目のビジネス・トレンドとその動向がメインで、それをどうやってフォローしているかなどを毎週お伝えしています。
勿論、多くのヒントになるアイデアは沢山含まれていますし、技術動向などもなるたけ分り易くお伝えしています。そうすることで、自然とビジネス・トレンドを見て、安心して長期投資を続けられるノウハウを身につけて貰うお手伝いをするのがFund Garageの「プレミアム会員専用プレミアム・レポート」です。