みなさんは、「Agentic AI(エージェンティックAI)」という言葉を耳にしたことはありますか。これは、ChatGPTに代表される「Generative AI(生成AI)」とは異なる特色を持つ次世代のAIです。
2025年1月に行われた「CES2025」の基調講演では、エヌビディアのジェンセンCEOがこの「Agentic AI」について語っています。今回はその内容について、プロのファンドマネージャーの視点からお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
エヌビディア無双、AI革命の覇道——「Agentic AI」を探る
待望のCES2025で示されたエヌビディアの実力
現地時間の2025年1月7日から10日にかけて、米国ラスベガスでは世界最大のテックイベントである「CES2025(Consumer Electronics Show)」が行われた。
その中でも最大の注目が、エヌビディアのジャンセンCEOが、ゲーミング・クリエイティブ制作・ロボット工学・自動車に関する最新技術を発表する「CES オープニング基調講演」だ。
テクニカルタームが多く、全編をきっちりと解釈するのには(半導体関連銘柄を専門とする私でも)かなり骨が折れる内容であったが、何度も試聴した末に「エヌビディア無双、AI革命の覇道」という本記事タイトルをつけるに至った。
事実、ウォール街でも有名なウェドブッシュ証券のアナリストのダン・アイブス氏も「ジェンセン氏の最も重要なメッセージは、ロボット工学・自律技術・PCに関する一連の新しいAI技術がエヌビディアから生まれ、半導体および大手ハイテク業界の他の企業に対する同社の巨大な技術的優位がさらに拡大するだろう、ということだ」と絶賛している。
「Generative AI」の次は「Agentic AI」
今回の基調講演では、「Agentic AI(エージェンティックAI)」がメインテーマの一つとして話されていた。
今となっては、ChatGPTのような「GenerativeAI(生成AI)」がかなり馴染み深い存在になったが、「Agentic AI(エージェンティックAI)」についての世間の知識はまだ浅いように思われる。
「Agentic AI(エージェンティックAI)」とは、AIが認識・計画・推論・行動する能力を持つタイプのAIのこと。「GenerativeAI(生成AI)」は「学習」と「推論」を繰り返す※ことで、人間が指定したデータに基づいた目標達成ができるものだが、「Agentic AI(エージェンティックAI)」にはそこに「自律性」というキーワードがプラスされる。
つまり、「Agentic AI(エージェンティックAI)」は人間が指示を出さずとも状況を判断し、適切な行動を取捨選択できるAIなのだ。「エージェント」として自己決定的に行動を取るということである。
基調講演内では、以下のようなスライドで紹介していた。全てのAI Agentには、それぞれに役割が分かり易くついている。AI Research Assistant Agentも居れば、Software Security AI Agentのようなものも居る。この辺りは正にテック系企業のエンジニアなどには有難いAgent AIだが、下の方にはFinancial Analyst AI Agentとか、Employee Support AI Agentなども居る。

ただ、これらのAI Agentは、当然のことながら汎用では有り得ない。なぜなら、会社や組織によって仕事のやり方も業務フローも扱っている商品も何もかもが異なるからだ。なので、これらは全てカスタイマイズされる必要がある。
そこで役立つのが、「NVIDIA NIM」と「NVIDIA NEMO」だ。
「NVIDIA NIM」と「NVIDIA NEMO」は、エヌビディアが提供するAI関連のフレームワークやツールであり、それぞれ異なる目的でAI開発や運用に活用される。以下で詳しく説明しよう。
※…「GenerativeAI(生成AI)」の「学習」と「推論」については、過去の無料記事『AIの学習と推論とは?』で詳説。
Agentic AIに関するエヌビディアのサービス①NIM (NVIDIA NIM)
NIMは、AIマイクロサービスのパッケージ化や最適化を行うフレームワークだ。
AIエージェントがさまざまなタスクを実行できるように、AI技術(例:言語処理・視覚認識・音声認識)を個別のマイクロサービスとしてパッケージ化することで、まとめて提供できる。そのため、開発者は既存のAI技術を手軽に導入し、異なる環境やシステムに展開させることができるようになる。
また、クラウド環境でもシームレスに動作し、クラウドベースでのAI開発や運用における効率化を図れるのもNIMの強みだ。
<活用例>
デジタルアシスタントやカスタマーサポートエージェントなど、特定の業務やタスクを実行するためのAIエージェントの構築
Agentic AIに関するエヌビディアのサービス②NEMO (NVIDIA Nemo)
NEMOは、AIモデルの訓練やチューニングを実行するためのフレームワークだ。AIモデルの訓練を高速化し、効率化するためのツールやアルゴリズムを提供する。
また特に、言語モデル(NLP、自然言語処理)・音声処理・生成系AIに強みを持っており、Agentic AIに必要とされる高度な理解能力を持つエージェントを開発するために使用される。
<活用例>
カスタマーサポートのAIエージェント、対話型アシスタント、翻訳モデル、音声認識システムなど
エヌビディアの課題とリスク
GPUという物理的なもの以外に、これほどまでに圧倒的なソフトウェアやプラットフォームを提供しているのは、エヌビディアだけだろう。
そうとは言っても、エヌビディアにもリスクがあるということは忘れないでいただきたい。注意点としては、
- コストの問題 …エヌビディアの製品は高性能だが、コストが高いため一部の企業や開発者にとって手が届きにくい場合がある。
- 規制の可能性 …市場支配力が強すぎるため、規制当局が独占禁止法などを適用するリスクがある。
- 競合の追随 …AMDやGoogle、AWSなどがAI市場でさらなる投資を行い、追いついてくる可能性も否定できない。
といったところだろう。
まとめ
CES2025は内容が盛り沢山であったが、ひとまず今号ではここまでのご紹介としておきたい。
NVIDIA NIMとNVIDIA NEMOは、「Agentic AI(エージェンティックAI)」の開発を支えるツールとして非常に重要だ。特に、
- NIM …マイクロサービスとしての機能を提供し、Agentic AIが実行するタスクを分担&効率化
- NEMO …言語・音声認識・対話生成を効率化し、Agentic AIがリアルタイムで行動する際の基盤を提供
する。これらを使うことでAIエージェントは非常に柔軟で強力な能力を持ち、さまざまな実世界のシナリオに適応できるようになる。
ただ一番重要なポイントは、これらで何ができるか云々ということよりも、エヌビディアが完全にAI業界の無双となり覇道を進んでいるという点だ。
さらに最後に示したコストや競合に関するリスクにも留意しながら、今後も投資活動を楽しんでいただけたら幸いだ。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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