毎度「アメリカのリアルを知ることができる」とご好評の、プロのファンドマネージャーが行く「米国視察ツアー」シリーズ。
今回は、ロサンゼルス空港からサンフランシスコまで車で横断して明らかになった、2024年12月当時の様子をみなさんにお伝えします。
エッセイ感覚でお楽しみいただける内容となっておりますので、投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
日本メディアは教えてくれないアメリカのリアル
現在のアメリカの姿——「光」は輝きを増し、「闇」は深さを増している
米国視察ツアー前半:アメリカの「光の側面」(パームスプリングスにて)
今回の10日間の渡米前半は、過去のそれとは全く異なる体験をすることができた。
というのも、1996年に初めて米国本土へ赴いてから、数え切れない程の日数を米国で過ごしてきたが、寝泊まりするのは常にホテルだった。だが今回初めて、生まれも育ちもアメリカの所謂「コケージャン(Caucasians、白人。whiteより丁寧な表現)」の友人宅に泊めてもらい、日本人が通常描くであろう「アメリカ人」の日常生活を垣間見させてもらうことができた。
ただ一つ注釈を加えないとならないのが、決して米国の典型的な庶民の暮らしではないという点だ。既にリタイヤしている、経済的には何ひとつ不自由なく人生をエンジョイしているご夫婦の生活である。手入れの行き届いた芝生の向こうにはプールがあり、日没にライトアップされるその景色を見ながら、ワイングラス片手にBBQを楽しむ…なんていう日常。
そのお宅はパームスプリングスというリゾートエリアにあり、雪が厳しい地域から移り住んでくる人たち(「Snow Bird」と呼ばれる)で冬の間は人口が増える。街の治安は素晴らしく、そのエリアに滞在中、1人もホームレスを見かけることはなかった。
ミネソタから来ているご近所の方も交えて半日ゴルフを楽しみ、アメリカ生活の「光」の一コマを体験できた。
アメリカの人達は日本の人達と異なり、政治の話を好んでする。事実、友人には「どうして日本の人達は政治の話をしないの?」と聞かれもした。メディアも民主党支持か、共和党支持かを通常明確に打ち出している米国の人達にとっては、自分の政治信条を明かして話すことがない日本の人達の方が奇異に映って当然だろう。
彼は自分が「Independent(インディペンデント。共和党(Republican)でも民主党(Democrat)でもない人々)」であり、今回の大統領選挙ではトランプ元大統領に投票したと教えてくれた。
また、一緒にゴルフを楽しんだSnow Birdの1人も、「今回の大統領選挙では、カマラ(ハリス副大統領)が勝たないで、本当に良かった」と教えてくれた。インディペンデントであり、若い頃に従軍経験もある純粋なコケ―ジャン、いわゆる「パトリオット(=愛国者)」の彼らから見れば、バイデン政権がしてきたことやハリス副大統領が示した政策案の多くは最悪だったようだ。
確かに、私も会話を続けている内に、いつの間にか納得してしまう部分が多かった。来年からのトランプ政権によるアメリカ経済は「明るくなる」と、彼らには見えるようだ。
米国視察ツアー後半:アメリカの「闇の側面」(サンフランシスコにて)
だが渡米後半、サンフランシスコのダウンタウンまで足を延ばしてみると、そこには半年前に渡米した時※1よりも更に悪化した米国の「闇」が拡がっていた——
なんといっても、ホームレスが間違いなく増えているのだ。
テレビのニュースでも、ホームレスに行政側などが提供するシェルター問題※2は頻繁に取り上げられていた。
ところが、現在のアメリカの失業率は4.2%。歴史的な最低レベルは3.5%程度なので、現状決して悪いとは言えないし、むしろこれ以上の改善は労働市場の構造的な問題を解決しない限り難しい。
つまり経済統計で見れば、現在のアメリカ経済はほぼ完全雇用に近い状態ということになろう。
しかし、経済統計はあくまでも「平均値」に他ならないのだ。
だからこそ、平均値を頭に入れた上で、自分自身の目で「分散」状況を感じてみることが必要だと私は思う。平均値の水準の上下と標本の散らばり具合は全くの別物だから、見る立ち位置によって景色は変わる。
その意味からすると、今の日本の「分散」はますます小さく、「平均」はジワジワと低下し続けていて、一方のアメリカは、反対に「分散」は大きくなりつつも、「平均」も上昇している。
つまり社会全体で言えば、景気は強くなり、暮らし向きは上向いているということだ。「光」は輝きを増し、「闇」は深さを増しているというのが、現在のアメリカの姿だと言えよう。
※1…半年前(2024年6月)の米国視察ツアーの様子は、『FG Free Report アメリカの政治・経済的二極化』の記事からご覧になれます。
※2…ただ、日本とは基本的な経済構造・医療保険制度・移民の取扱いが違うため、「アメリカで増えるホームレス問題」などと日本のメディアがセンセーショナルに取り上げるイメージとは、実際にはかなり本質が異なるということも頭に入れておきたい。
米国投資ファンドマネージャーが現地視察をする理由——都市や企業ごとに違う「風」を感じる
昨今、企業の決算内容・売上・販売状況などは、ネット上で開示されている内容以上のものを聞き出せる可能性は極めて低くなってしまった。なぜなら、フェア・ディスクロージャー・ルール※3に反したら、会社側がSEC※4から罰せられるからだ。
しかしやはり企業調査において、直接企業を訪問して知り得たい情報というのは、その企業や土地の「風」だろう。
そしてその「風」というのは、実際に現地へ行ってみないと感じられないものである。Fund Garageがお伝えしたいのは、実はこの「風」と「風の感じ方」なのだ。
たとえば、日本株にしか投資をしたことがない投資家がいたとする。恐らく、その人が日本で想像していただけの頃の米国株投資と、実際にアメリカ本土に足を運んでから感じる米国株投資とでは、必ず何かが違うはずだ。あるいはたとえば、ニューヨークに行ったことはあっても、サンフランシスコ・ベイエリアには行ったことがない米国株投資家が初めてサンノゼを訪れる時には、また違った何かを見ると思う。
「風」を感じたことがあるかないかの差は、我々投資家にとって大きなものであると私は考えている。
※3…フェア・ディスクロージャー・ルールとは、企業が「重要な情報」を第三者に提供する場合にすべての投資家に同時に平等に開示することを義務付けるルール。
※4…米国証券取引委員会 (Securities and Exchange Commission)。
まとめ
今回、ロスアンゼルスからサンノゼまでレンタカーを乗り回して感じた「風」。ここから私が学んだことは、都市や街ごとに違うアメリカの状況を感じることの大切さだ。
10日間の滞在で私が運転した距離は1,191マイル(約1,905キロ)。大まかなルートは、ロスアンゼルス空港から西にパームスプリングスに抜け、そこから北上してベーカーズフィールドを抜け、サンノゼ(サンフランシスコ・ベイエリア)へというコースだ。

今回の視察ツアーもまた、たくさんの入力を行うことができ、頭の中がアップデートされた。新しい情報が出れば、それを照らし合わすことができる。
投資を続けるということは、常にアップデートと参照、そしてディシジョンという流れの繰り返しなのだと私は強く思う。
なお、トランプ政権開始後の最新ツアー(2025年6月実施)の様子は公式YouTubeでご覧いただける。本記事との比較という意味でもかなり興味深い内容になっているので、ぜひ覗いてみてほしい。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
また、こちらは無料版記事のため、最新の情報や個別企業の解説についてはカットしております。
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