FG Free Report 「Copilot+ PC」の普及とArmの強み(7月8日号抜粋)

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近年、急激な勢いで私たちの生活に根付き始めたAI。「Copilot+ PC」は、そのAIの将来性を感じることのできるものの一つです。

また、その「Copilot+ PC」のモデルの多くは、Armアーキテクチャのチップを搭載していることも知られています。

今回は、そんな「Copilot+ PC」とArmの未来について、プロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

「Copilot+ PC」とArmアーキテクチャ

「Copilot+ PC」とは?

「Copilot+ PC」が発売されてから早くも約3週間が経過した。これは、Microsoft Surfaceを含む複数のメーカー(Acer・ASUS・Dell・HP・Lenovo・Samsung)から発表され多くの注目を集めている。

AIパソコン(AIPC)は、NPU(=Neural Processing Unit。AI処理を専門とするプロセッサ)を搭載している“オンデバイスAI”だ。たとえば、リアルタイム翻訳や高度な画像生成機能などを、クラウドやサーバに繋がずとも楽しむことができる。

一方、AMDからは、7月初旬の現時点で大きな発表はない。AMDは新しいAIPCモデルを導入する計画はあるが、具体的な詳細や発表はまだ行われていない状況だ。

「Copilot+ PC」のバグとメリット

「Copilot+ PC」は、見た目には単なるノートパソコンだが、その内容は事実上全く新しい技術の新製品だといえる。なので、現時点ではいくつかの問題点もある状況だ。

特に、QualcommのSnapdragon X Eliteプロセッサを搭載したデバイスや、Windows 11のArm版自体にもいくつかのバグが報告されている。

例えば、

  • システムが起動しない
  • アプリが起動しない
  • 一部のアプリやドライバーにおける互換性の問題

などが挙げられる。ただ全体として、新しいテクノロジーの初期導入期に見られるようなものばかりだ。このようなバグは新製品に共通する課題であり、時間とともに解決されるだろう。

その一方で、当然高評価を得ている点や、予想以上に良かったとされることが沢山あるのも事実。以下のようなものが挙げられる。

  • 効率性の高さ
    QualcommのSnapdragon X Eliteプロセッサを搭載したデバイスは、特にビデオエンコーディングやAI推論タスクに強みがある。また、スリープからの迅速な復帰や一貫したパフォーマンスなど、これまでのWindowsデバイスでは経験できなかった快適さが魅力。​
  • バッテリー寿命の長さ
    ARMベースのデバイスは、バッテリー寿命が非常に長いことが高評価。例えば、ASUS VivoBook S15は、1回の充電で一日中使用できることが報告されている。
  • デバイスの軽量性
    ARMデバイスは軽量でポータブルな点が高く評価されている。例えば、Lenovo Yoga Slim 7xなど。

「Copilot+ PC」登場が示す、Armアーキテクチャーの強さ

上述の「Copilot+ PC」登場が示唆することは、ArmアーキテクチャーがWindowsパソコンの世界にまで浸透し始めたということだ。Armアーキテクチャーは、すでにAppleのMacシリーズが使うMac OSに使用されている。

「AI」が「生成AI」として脚光を浴びるようになった背景には、「アクセラレーテッド・コンピューティング」の普及がある。飛躍的に向上したデータセンターのコンピューティング能力が、ディープ・ラーニングを可能としたからこそ「生成AI」が誕生できたのだ。

「アクセラレーテッド・コンピューティング」では、従来「CPU」が担っていた演算処理の一部をオフロード(分離)して、より大量に高速処理することが可能となった。ここで「CPU」に代わって活躍しているのが、並列演算処理が得意な「GPU」だ。

ただ「GPU」は、高性能である一方消費電力や発熱量が大きい。ならば「CPU」は、低消費電力かつ高性能が売りのArmアーキテクチャーが適当だろうという議論は昔からあった。ただ近時になるまでは、Armアーキテクチャーはスマホや車載のモバイル機器のCPUのような用途にしか使われていなかった。なぜなら、演算能力が低いと考えられていたからだ。

ある意味では、その常識を覆したのはアップルかもしれない。アップルは一時期、MacシリーズのCPUにインテル製を使っていた時期がある。しかし、2020年6月に発表したAppleシリコン「M1」からArmアーキテクチャーに切り替えたことで、再び自家製CPUをパソコンの世界にも持ち込んだ。これでアップルのエコシステムは全てがArmアーキテクチャーとなり、iPhoneやMacといった機器間のシームレスな連携が実現した。

そして今、「Copilot+PC」はWindowsのArmアーキテクチャー版を搭載して誕生した。マイクロソフトがQualcommと共同でWindows向けのArmアーキテクチャCPUの開発に乗り出したのは、2012年にまで遡る。それが有名な「surface」という端末であり、パソコンの様でもあるが、タブレット端末の延長線上の様でもあるものだ。

だから今回の「Copilot+PC」として、いわゆるパソコンメーカーが作るモデルに搭載される意義は大きい。極論、パソコンがx86ことインテル・アーキテクチャーであるべき必然性がなくなったとも言える。

だとすれば、今度はデータセンター内のCPUもArmアーキテクチャーに置き換わる未来は近いかもしれない。

 

…Arm社は、ファブレス(自社工場を持たない)企業であるため、Arm社が独自開発したアーキテクチャの使用ライセンスをメーカーに提供している。つまりAppleのCPUは、Armアーキテクチャの設計技術をもとに、Apple社が独自に設計しているのである。一方でインテル社は、CPUの開発から製造・販売まで全て自社で行なっている。そのため、インテル社の工場で既に製造されたCPUを、Apple社が買っていたということ。

Armとエヌビディアは競合なのか?

恐らく、ここまでの話を耳にした多くの人が、エヌビディアのGPUとの競合を懸念するのではないだろうか。なぜなら、ビッグテックのクラウドサービス・プロバイダーが、こぞって独自のAI処理用の半導体をArmアーキテクチャーで開発しているからだ。大消費電力という問題がクリアできるならば、エヌビディアGPUよりもArmアーキテクチャーで開発したAI半導体の方が良いと誰もが考えてしまうのは自然なことかもしれない。

だが、結論から言うと、それは間違いだ。ArmのAI半導体とNVIDIAのGPUは、それぞれの強みを活かして共存していく形が最も現実的なのだ。そうすれば、データセンターやクラウドコンピューティング環境で高い効率性を発揮できるようになるからだ。

ここで言うArmのAI半導体とは、「Arm Neoverse」を指す。

「Arm Neoverse」とは、クラウドコンピューティングやネットワーキング、生成AIなどの高度なワークロードを処理するために設計された高性能コンピュートプラットフォームだ。

つまり、エヌビディアがGPUを用いたAI推論とトレーニングにおいてリーダーシップを発揮していると同時に、ArmのNeoverseも効率的なAI処理を提供することで市場での競争力を高めている。中には、エヌビディアの高価なGPUを買う必要もなくなり、故に、「そこそこのAI半導体で充分になる」という発言も見られる。

ところが、Armとエヌビディアは競合関係だろうと考えるのは早計だ。その証拠として、エヌビディアは2020年にArmを400億ドルで買収する計画を発表(独禁法の関係で2022年に取り下げられた)した過去がある上に、ArmベースのCPUとエヌビディアのGPUを組み合わせた製品が販売されている。たとえば、​エヌビディアのBlackwellや次世代Rubinでも、そのCPUはArmアーキテクチャーで開発されている。

つまり、Arm NeoverseとエヌビディアのGPUは、それぞれ異なる特長と役割を持つため補完的な関係にあると言える。具体的には、

  • 汎用計算 vs. 並列処理:Neoverseは汎用計算処理に強みを持ち、一般的なデータセンター運用やAIワークロードの基盤を提供。一方、エヌビディアのGPUは大規模な並列処理とAIトレーニングに特化。
  • エネルギー効率 vs. パフォーマンス:Neoverseは省電力でエネルギー効率が高い。一方、NVIDIAのGPUは高性能な計算能力を提供。

下の写真は、エヌビディアのBlackwell GPUだ。光り輝く二つのGPUと、中央に光るのがGrace CPU。このひとつの基板上のセットで「エヌビディアのGPU」と呼ぶ。これも混乱を招くひとつの要因とは思うが、ArmアーキテクチャーのCPUとエヌビディアのGPUが補完的に機能し、共存していく形が最も現実的だということの説明になる。

まとめ

いかがだっただろうか。「Copilot+PC」が登場して約3週間、状況としては総じて好調で好評だといえそうだ(多少のバグはあれど)。

AI PCの存在価値が認識され普及することで、AIの世界はより拡がっていくだろう。その時、カギを握るのがやはり「Armアーキテクチャー」だ。

さらに、Armの「省エネで効率のいいCPU」と、NVIDIAの「高い計算能力と並列処理を備えたGPU」を掛け合わせれば、データセンターやクラウド環境において、効率と性能のバランスを最適化することが可能になる​。

両社は競合関係というより補完関係にあり、協力すれば今後新たな技術が生まれる可能性を秘めていることが、お分かりいただけたなら幸いだ。

編集部後記

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