昨今、よく耳にするようになった「データセンタAI」や「エッジAI」。しかし、これらの実体がどのようなもので、どのような技術を持つのかについて、厳密に理解できている方は少ないかもしれません。
今回は、AIトレンドに乗り遅れず投資を成功させるために、2種類のAIについて半導体関連専門のファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
「データセンタAI」と「エッジAI」の違い、説明できますか?
「データセンタAI」と「エッジAI」は、別物だが連携している
まずは、「データセンタAI」と「エッジAI」の建付けについて詳しく説明していこう。
一般に今騒がれているAIは、いわゆる「データセンタAI」と呼ばれる、大きなインフラ施設の中にあるものを指す。これは、数万個のGPUを連動して動かしながら、下手をすれば小さな都市ひとつ分にもなりそうな電力を消費している巨大ITインフラだ。
従来CPUが全てをこなしてきたものを、GPUが代わりに高速処理するコンピューティング環境のことを「アクセラレーティッド・コンピューティング」と呼ぶ。
一方で、大きな施設の中ではなくスマホやPCなどのデバイス上でデータ処理を行うのが、「エッジAI」である。「エッジ」とは「端っこ」という意味で、この場合は「端末」という理解が適切だろう。
物理的な制約から、エッジAIのコンピューティング能力はデータセンタAIのそれに劣るため、データセンタAIが大規模言語モデル(LLM)をトレーニングするのに対して、エッジAIには小規模言語モデル(SLM)が導入される。
この図でも明らかな通り、エッジAIとデータセンタAIは連携している。
エッジAIは、ネットに繋がないでもスタンドアロンで(=デバイスが単独で)動作可能というのが売り文句ではあるものの、実際にはインターネットなどを通じて適時データセンタAIと繋がる必要がある。この理由は、①データセンタAIにあるLLMが更に賢くなった知識をSLMに更新させるため、②エッジAIが集めたデータをデータセンタAIのトレーニングやラーニングに使うためだ。その結果として、「賢くなった」ものがエッジAIにフィードバックされる仕組み。
エッジAIが取得したり生成したりしたデータを、データセンタAIが利用する場合、その利用目的に応じて「トレーニング」または「ラーニング」のどちらかを行う。
- トレーニング(Training): エッジAIが収集したデータを使って、データセンタAIのモデルを新たにトレーニング(訓練)する。例えば、画像認識モデルを改善する際、エッジデバイスで収集された画像データを元にデータセンタで再トレーニングを行う。
- ラーニング(Learning): より一般的な意味での学習を指す。エッジAIからのデータをデータセンタAIが取り込み、モデルのパフォーマンス向上や予測精度の向上に利用。
データセンタAIのGPUと、エッジAIのGPUの違い
GPUというものについても多くの誤解があるが、2024年5月に実施された「COMPUTEX TAIPEI」でエヌビディアのジャンセンCEOが説明していた時の映像が、その混乱解消に大きく役立つと思われる。そのワンシーンを切り取ったものが、以下の画像だ。
ジャンセンCEOの手許にあるのが「GeForce RTX4090」と名付けられた、従来からあるグラフィックスカード(画像処理を行うためのパーツ)としてのGPUだ。この中に小さな半導体チップが「ひとつ」内蔵されており、ゲーミングマシンとも呼ばれるデスクトップパソコンの中で活躍する。エヌビディアの祖業はこれを作ることだった。
一方で、昨今話題のH100やH200、あるいはBlackwellのB200といったGPUは、後ろのような形のサーバーラック状のものが基本となる。このラック全体が、「GPU」である。
この大きなケースの中に数多く鎮座している半導体チップが生む付加価値が、AIビジネス全体のどの程度のものであるかをご理解いただけただろうか。
2種類のデータセンタAI——「クラウドデータセンタAI」と「オンプレミスデータセンタAI」
ところで先ほどの絵では、便宜的にデータセンタAIを雲の中の「クラウドデータセンタAI」としてイメージしてもらった。しかし実は、データセンタにはもうひとつ従来型の「オンプレミスデータセンタAI」と呼ばれる自社データセンタで完結するものも存在する。
これらの比較表を、以下に添付する。
この一番の違いは、物理的なサーバーがアマゾンのAWSやマイクロソフトのAzureといったクラウドサービスプロバイダを使うのか、あるいは、自社内にサーバーを設置し運用管理を行うのか、ということだ。
それぞれにメリットもあれば、デメリットもある。例えば、コスト効率やメンテナンスという点では、専門のクラウドサービスプロバイダーを利用した方がメリットは大きい。一方、コントロールを完全に掌握できるかとか、カスタマイズ性という点で言えば、オンプレミスデータセンタの方が有利と言えるだろう。
加えて、セキュリティやプライバシーの問題を懸念される方は多いと思うが、必ずしもクラウドデータセンタが見劣りするとは言えない。なぜなら、クラウドデータセンタにも、パブリッククラウドとプライベートクラウドの二種類があるからだ。もし、リモートワークやリモートアクセスは絶対にしない(現代社会では有り得ないだろう)というのならば話は別になるが、外部からの接続の可能性がある限り、プライベートクラウドとオンプレミスデータセンタの差異は小さくなると言ってよい。
近時注目されている、「ソブリンAI」をご存知だろうか。これは、国家や大企業が自国のデータ主権を守るために重要な技術で、オンプレミスやプライベートクラウドの形態をとることが多い。そうすることで、データのセキュリティとプライバシーを高いレベルで確保し、外部からの影響やリスクを最小限に抑えることできるからだ。ちなみにこれが上手くいって好決算を発表、株価も一気に急騰したのがオラクル(ORCL)だ。
現状ではデータセンタAIとエッジAIのコンピューティング能力は、次元が違うものだ。また現時点では当分の間はデータセンタAIとエッジAIは共存共栄が始まったばかりで、関係性はより今後進化していくことなるだろう。
まとめ
「データセンタAIとエッジAI」という関係についてもう一度おさらいしたが、いかがだっただろうか。
今までに有料記事、無料記事ともに何度もお伝えしてきた話ではあるが、今回このテーマでお話をさせていただいたのには理由がある。それは、会員の皆さまのみならず身の回りの友人知人に話をしても、この辺りの定義というのが曖昧な人も多いと私は感じるからだ。
逆にいえば、AIについての知識をきちんと整理をしておけば、なぜ「AIがまだ始まったばかり」なのかが理解できるだろう。そして、この先の展望を踏まえて「安心して」投資活動を進めていただければ幸いだ。
編集部後記
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