みなさんは、米国のパランティア・テクノロジーズという企業をご存知ですか。戦争をしていない日本ではあまり馴染みのない軍需関連企業ですが、生成AIを利用した同社の最新ビジネスに今注目が集まっています。
今回は、そんなパランティア・テクノロジーズの2023年第四四半期決算結果とビジネス内容を確認しながら、今後の生成AIの活用方法について、プロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
パランティア・テクノロジーズ
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)の決算
米国パランティア・テクノロジーズ(PLTR)の2023年四半期決算が、市場予想を大きく上回った。内容は以下の通り。
- 2023年は同社にとって大きな成長の年で、特に米国の商業市場が著しく成長し、四半期収入が前年比70%増加した。
- 同社は2023年第4四半期に608百万ドルの収入を記録し、前年比20%、前四半期比9%の成長を達成した。
- 商業ビジネスは過去12ヶ月で10億ドル以上の収入を記録し、第4四半期の商業収入は前年比32%増加した。
- AIPを活用したブートキャンプ(※次項で解説)は、顧客に新しい利用事例を提供し、新規顧客獲得や既存顧客との取引拡大に貢献している。
- 国際市場でも、特にヨーロッパでの長期的なパートナーシップや、日本を含む特定地域での成長機会を捉えている。
そして決算発表後、株価は約50%も上昇したのだ。
早速、どんな会社なのか見ていこう。
パランティア・テクノロジーズってなんの会社?
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)は、テクノロジー関連の企業としてはその内容を理解するのがなかなか難しいタイプの会社かも知れない。
パランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies Inc.)とは、データ分析ソフトウェアを専門とするアメリカの企業だ。大規模なデータセットの分析と統合を可能にする、高度なソフトウェアプラットフォームを提供している。主に政府機関や大企業を対象に、データ駆動型の意思決定を支援する製品を開発している。
要は、政府機関(諜報機関や軍など)や大企業は、いろいろなフォーマットで膨大な量のデータを保持していて、それらを縦横無尽に効率的に使うことはなかなか難しい。身近な具体例を挙げるとすれば、社内で誰かがファイルしているPDF形式のデータを「あ、これは使える」と思い立って、仮にExcelシートにコピー&ペーストしようと思っても、フォーマットが違うので、その対応方法を知らない人にはExcelシートに展開して有効活用できない、といったところだ。
パランティア・テクノロジーズは、それらのデータを全て統合して、ひとつのデータベースのようにして分析可能なものとする技術を持つ。またそのツールは、膨大な量の情報を処理できるように設計されており、災害対応・防衛・インテリジェンス・不正行為検出に至るまで、多くのタスクに使用できるのだ。
その代表的な製品に、「Palantir Gotham」と「Palantir Foundry」というものがある。
前者は、元々米国情報コミュニティ(USIC)向けに設計された。現在では、米国国防総省の対テロアナリストや米国政府のサイバーアナリストにも使用されている。
後者は、企業クライアントがデータの管理と分析に利用するものだ。製薬、保険、金融サービスなど、さまざまな業界で採用されている。
更に同社は、「AIP(Artificial Intelligence Platform、人工知能プラットフォーム)」という技術を用いて、人工知能と機械学習を活用したデータ解析を行い、顧客が前例のないスピードと精度で意思決定が可能となるようなサービスを提供するようになった。
さらに、顧客企業の従業員を対象に「ブートキャンプ」という形式で、パランティア・テクノロジーズの技術の使い方やデータ分析方法を教育している。リアリティを体感させることで、顧客企業が自社のデータをより効果的に活用できるよう工夫したのだ。
近時、このAIPとブートキャンプの戦略により、新規顧客の獲得や既存顧客との取引拡大が加速している。特に、パンデミック中にはヘルスケア分野でのデータ分析の需要が高まり、パランティア・テクノロジーズの技術が注目された。また、ウクライナ情勢を含めた昨今の地政学リスクの拡大が、DOD(米国国防総省)などの政府機関からの更なる大型契約獲得に寄与しているという。
パランティア・テクノロジーズと生成AI:AIPという技術
昨年火が付いた生成AIの世界は、ややもすると「生成AI=ChatGPT」などチャットモデルの類と狭義に受け取られがちだが、それはかなり短絡的な捉え方でしかない。
パランティア・テクノロジーズのWebページにある動画のひとつ、「AIP for Defence」というのものをご紹介しよう。
以下のスクリーンショットは、東ヨーロッパをモニタリングしている例なのだが、友好国から30キロのところに武装した敵軍が集まっているという情報が入っていきている場面だ。そこで、オペレーターが人工衛星を利用してより詳細な情報を取得して、更にどんな対応方法があるかをAIに問い合わせ、その答えを得ているのである。この画像を見ると、AIが即座に3つのオプション(COA1,2,3)を詳細と共に提供しているのがわかる。そこには、それぞれの作戦遂行に必要な時間・装備・距離などが表示されている。
(フル動画はこちら)
これらの情報は軍のサーバーにあるものもあれば、現場の兵士や戦車などエッジからのリアルタイム情報もある。それらを即座に常に把握して、AIが答えをオペレーターに与えている。LLMを持っているので、オペレーターは最下段にあるメッセージを入力するところに指示をタイプすれば、即座に答えが返るというものだ。
つまり軍参謀たちが作戦会議室にあつまり、大きな地図の上で各部隊の駒を動かしたり、多少電子的な表示に変えたような時代からは様変わりしたといえる。
パランティア・テクノロジーズが見せる、生成AIの成長余地
「生成AI」の導入は、今や多くの企業の喫緊の課題であろう。彼らは独自の大規模言語モデルを構築しようとし、インフラを整え、さらには人材を獲得しようと躍起になっている。しかし、そこまでは理解できても、生成AIの世界に対して「ChatGPTで何やるの?」というレベルの理解では、投資家としては不十分だ。
だからこそ、現時点では未だにAIの成長余地に関して否定的な見解も聞こえる一方で、逆に関連産業のCEO達からは「まだまだ始まったばかりだ」というコメントがある。「AIバブル」だと称する人もいれば、同じように「AI関連はこれから」と肯定的な人もいるのだ。
このパランティア・テクノロジーズ(PLTR)に関して言えば、「SBC(Stock-based compensation、企業が従業員や役員に株式で報酬を渡す制度)」が潜在的な株式の売り圧力を拡大していると考えて、否定的な人もいる。
一方で、私のように、とてもその将来性を評価してポジティブに捉えている人もいて、真ん中が中々いないのがこの会社の特徴だろう。因みに、私は「SBC」は優秀な人材を集める上では、とても有効な打ち手のひとつだと思っている。
競合する会社は、データ分析・ビッグデータ・AI分野で活動する複数の企業が該当する。例えば、Splunk、C3.ai、IBM、SAS Instituteなどが挙げられる。これらの企業も政府機関や企業顧客を対象としているが、各企業の提供する製品やサービスの特徴、対象市場、また技術の応用方法などには差異がある。
パランティア・テクノロジーズの決算内容が「凄い」と素直に思える人には、恐らくAIの未来、そしてAIはまだまだ始まったばかりというストーリーが、何の抵抗もなく腹落ちするのではなかろうか。
最後に、ChatGPTとパランティアのAIP(人工知能プラットフォーム)の重要な違いについてお伝えしておく。
- 用途と機能
ChatGPT:質問に答えたり、情報を提供したりする。
AIP:企業や組織が複雑なデータを分析し、意思決定を行うためのツール。 - データ処理
ChatGPT:一般的な知識と会話能力に焦点を当てている。
AIP:特定の業務やプロジェクトに関連する大量のデータを処理し、分析する能力に焦点を当てている。 - カスタマイズと統合
ChatGPT:一般的な用途に適したもので、特定の組織のデータシステムと統合する機能はない。
AIP:顧客の特定のニーズに合わせてカスタマイズされ、組織の既存のデータシステムと統合される。
まとめ
今回は、パランティア・テクノロジー社の決算とビジネスを確認しながら、生成AIの未来について考えた。
- パランティア・テクノロジーズは、データ分析ソフトウェアを専門とする会社で、主に政府機関や企業が持つ膨大な量のデータを全て統合・分析する技術を提供している。
- 同社は、生成AIを活用した「AIP」や「ブートキャンプ」のビジネスが評価され、2023年の四半期収入が前年比+70%となるなど、市場予想を大きく上回る決算を発表した。それに伴い、株価は50%上昇した。
- ChatGPTは、一般的な会話や情報提供に使われる。一方でAIPは、企業や組織が特定のデータを分析し、より深い洞察を得るために使用されるものである。
- 生成AIに対する理解度の違い(「AIバブル」vs.「AIはまだ始まったばかり」)が、今後のビジネスや投資の明暗を分けるだろう。そしてこのパランティア・テクノロジーに対する意見の食い違いこそが、その現状をよく表していると言える。
いかがだろうか。
「生成AI=ChatGPT」だけではないことがお分かりいただけたなら、幸いである。さらに言えば、今回紹介したパランティアのビジネスも、「生成AI」という大枠の中の、ほんの一つでしかないということ。
つまり、「AIはまだまだ始まったばかり」なのだ。
編集部後記
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