2024年11月に控えた、米国大統領選挙。国土が広く、多くの人種が住まう自由の国アメリカでは、「政治の二極化」がこの大統領選の大きな論点になっていることをみなさんはご存知でしょうか。
今回は、米国の「政治の二極化」とは何か、どのような理由で起こり、そしてどのような影響を与えるのかについて、プロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
米国政治の二極化問題、予備選挙にも影響
今年11月に行われる米国の大統領選挙に向け、いよいよ予備選挙が始まった。と言っても、実は共和党だけが先行して始めるという、極めて異例な状態であり、今年の大統領選挙の趨勢がどのように市場に影響するのかを予見することは現段階では難しい。
米国の大統領選挙では、大統領候補者を絞り込むため、本選挙に先立って州ごとに予備選挙を行うことになっている。
これは過去52年間(すなわち1976年の大統領選挙から計13回)民主党と共和党両党の合意により、同日にアイオワ州で党員集会を開くことから始めることを慣例としてきた。しかし今年、実際に開催したのは共和党だけという、前代未聞の事態となったのだ。
この背景にある問題こそが、「米国の今=政治の二極化」を如実に反映している複雑で難しい問題である。つまり、黒人などのマイノリティー層を支持基盤とするバイデン現大統領の選挙チームは、人種が白人に偏るアイオワ州を初戦にするのは適切でないと判断し、この52年間の慣例を変更したのだ。
この米国政治の二極化(ポラライゼーション、Polarization)が常に問題視されるのは、人種差別・ジェンダー・LGBTQといった問題や思想が、アメリカで実際に顕著に現存するからこそである。
例えば実際、日本人が仕事や観光でよく見聞を広めているロサンゼルスやニューヨークなどのコーストサイドの都市では、ほとんど全ての有色人種が生活をしている。だが、前述のアイオワ州のように、有色人種をほとんど見かけないような都市が米国内に沢山あることは、日本人にはあまり知られていない。
そうした地域や州に行くと、私も「あ、自分は黄色人種なのだな」と実感させられるが多々ある。実際、コロナ禍のパンデミックの頃には「アジアン・ヘイト」なる、アジア人向けの集団暴力のような事件が各地で起きた。また現在は、2001年の9.11同時多発テロ事件の後と同じように、アラブ系の人への風当たりは強いと聞く。
このように大統領選挙は、予備選という形でひとまずその長い選挙期間に幕を開けた。
バイデン大統領とトランプ元大統領の政策の違いから見る、米国政治の二極化
現職バイデン大統領とトランプ元大統領の経済政策は、それぞれ異なる理念と優先順位に基づいている。次期大統領としてどちらが選ばれても、米国経済には特有のメリットとデメリットがあるだろう。以下に、両者の経済政策の主要な要素と、それが経済に与える可能性のある影響についてまとめてみた。
★★★編集部のひとことポイント★★★
なお、2024年8月23日現在、バイデン大統領は既に大統領選から撤退し、カマラ・ハリス副大統領が次期大統領候補として正式指名されています。
ハリス氏の政策は、基本的にバイデン大統領の政策を引き継ぐと考えてよいですが、もちろん彼女独自の経済政策(例:新規住宅購入支援、生活費引き下げ)があることを念頭においてください。
民主党 バイデン現大統領の経済政策
◎メリット
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- インフラとクリーンエネルギーへの投資:長期的に見て、雇用創出と持続可能な経済成長を促進するねらい。実際、米国のフリーウェイの再整備や橋梁などの架け替え工事など、米国内ではそこかしこで見ることが可能。また、電気自動車(BEV)の普及も後押し。
- 医療保険の拡大と教育への投資:労働力の健康とスキル向上に寄与し、経済成長をサポートするのがねらい。米国の公的医療保険については、日本の国民皆保険制度と全く異なり、貧富の差により受けられる医療水準までが異なる。
◎デメリット
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- 高い税率と規制:企業税や富裕層への税率の引き上げ、厳格な環境規制は、短期的にはビジネスのコストを増加させ、投資を抑制する可能性がある。
- 財政赤字の増大:大規模な政府支出(これがポストコロナのインフレの最大要因となったというのが、現状のコンセンサスでもある)は、国の財政赤字を増大させ、将来の世代への負担を増やす可能性がある。この点が、将来の米国を担うZ世代から忌避されるひとつの理由ともなっている。
共和党 トランプ元大統領の経済政策
◎メリット
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- 低税率(企業税の削減)と規制緩和:短期的に、ビジネスの利益を増加させ、投資と雇用の創出を促進。
- 貿易政策:国内産業の保護と、外国との貿易バランスの改善。この最たるものが対中国政策である。特に、中国向けの最先端半導体技術の輸出規制に関しては、軍事的・地政学リスクを踏まえてのものと言える。
◎デメリット
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- 保護主義と貿易戦争:長期的に見ると、国際的な貿易関係を損ない、輸出産業や輸入に依存するビジネスに悪影響を及ぼす可能性がある。
- 不確実性と市場の変動:政策の予測不可能性は市場の変動を引き起こし、経済的安定性に影響を与える可能性がある。
バイデン大統領とトランプ元大統領の政策は、それぞれ一長一短があり、一概にどちらがどうとは言い難い。なぜなら、経済的影響は短期的と長期的な視点で異なり、また政策の実施方法や国内外の状況に大きく依存するからだ。
これらの政策の違いが今後どのように米国経済に影響を及ぼすかを見極めながら、当面の市場展開は続きそうだ。
Z世代とベビーブーマーが引き起こす、米国政治の二極化
現在、アメリカにおけるZ世代(1997年から2012年生まれ)とベビーブーマー世代(1946年から1964年生まれ)との間には、様々な分野で対立が見られるようになった。
これは、価値観・政治的傾向・テクノロジーの利用方法・労働市場における態度など、多くの要因によって引き起こされていると考えられる。
以下に、一般的に現在のアメリカで認識されているその違いを図示した。あくまでも傾向としての差異ではあるが、今後の大統領選挙の行方を考える上で重要なものとなるだろう。
まとめ
今回は、大統領選から見るアメリカの政治的二極化について、以下のポイントでお伝えした。
- 2024年1月15日から、米国大統領選挙の予備選挙が行われた。過去52年間の慣例を変更するという異例の事態となったが、これは米国の「政治の二極化(特に人種問題)」が原因であった。
- この米国政治の二極化(ポラライゼーション、Polarization)が常に問題視されるのは、人種差別・ジェンダー・LGBTQといった問題や思想が、アメリカで実際に顕著に現存するからこそである。
- バイデン現大統領(ハリス副大統領)とトランプ元大統領の政策には多くの点で違いが見られるが、一概にどちらが良いとは言えないような状況であり、米国経済への影響を見極める必要がある。
- 現在、アメリカにおけるZ世代(1997年から2012年生まれ)とベビーブーマー世代(1946年から1964年生まれ)との間には、様々な分野で対立が見られるようになったが、これは、価値観・政治的傾向・テクノロジーの利用方法・労働市場における態度といった要因によって引き起こされている。
- この2世代の対立が、11月の大統領選の明暗を分けるだろう。
アメリカZ世代とベビーブーマーの違いは、今回の大統領選のような政治的な議論のみならず、家族内の対話や職場での協力関係においても影響を及ぼしていると言われている。
ただこの点は、我が国においても同様であるかもしれない。個人的な意見としては、米国よりも日本の方が人口動態的に状況は悪いように思うが、如何なものだろうか。
編集部後記
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