FG Free Report 常時推論AIがCSPのCapExを支える理由——米小売3社の決算から(3月9日号抜粋)

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AIの普及を考えるとき、注目されがちなのはGPUやCSPの巨額設備投資(CapEx)でしょう。

しかし実は、その投資を生み出す起点は、AIを「止められない運用」へ組み込み始めたエンドユーザー側にあったのです。

今回はウォルマート、ターゲット、ロスストアーズの決算から、小売の現場で広がる常時推論AIとCapExのつながりをプロのファンドマネージャーが読み解きます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

常時推論AI——小売とサイバーが示す上流需要の実像

ウォルマート(WMT):AIを「意図→購買→実行」に接続し、推論を“回転数”へ変えた

常時推論AIが「チャット(喋るAI)の流行」を超えて企業の稼ぎ方の芯に入っていくとき、最も腹落ちしやすい入口は小売だろう。小売は、検索や広告といったデジタルの入口があり、その先に在庫・配送・店頭という物理の実行系がある。つまり、入口で生じた「買いたい」という意図が、実行系で現実の購買に変換されて初めて売上になるのだ。

ウォルマートが展開するAIショッピング・アシスタント「Sparky(スパーキー)」は、その代表例だ。これは、従来のように商品名やキーワードから検索するのではなく、「こういう目的で買いたい」「この条件に合うものを選びたい」といった意図(intent)を受け取り、候補や必要なものを提案する役割を担う。ウォルマートは、Sparkyを従来の検索から、「intent-driven commerce(意図起点の商取引)」へ進化させる装置として位置づけている。つまり、入力された言葉の表面を拾って候補を並べるのではなく、その背後にある目的や状況を推定し、「その意図なら次に必要になるものはこれだ」と購買へつながる提案を組み立てていく。

たとえば「明日の朝食を整えたい」という意図が読めれば、牛乳だけでなく、シリアルや果物やヨーグルトまで提案できる。顧客が頭の中で思い出しながら探していた作業を、AIが先回りして補うのだ。結果として、「バスケット(=1回の買い物で購入する商品の集合)」が膨らみ、平均注文額(AOV)の上昇にもつながる。だから、ウォルマートが進める常時推論は“便利な検索機能”にとどまらない、購買の回転を上げる運用装置だといえよう。

ただし、意図を理解して提案が作れても、商品が在庫切れなら売上にはならない。配送やピックアップ(店頭受け取り)の準備が間に合わなければ、購買体験に不満が残る。ここで効いてくるのが「オムニチャネル(Omni-Channel)」という実行系である。これは、実店舗・ECサイト・SNS・アプリなど、企業が持つすべての販売・顧客接点(チャネル)を連携統合し、顧客がどこからでもシームレスに購入・サービス利用できる環境を作るマーケティング戦略だ。簡単に言えば、ネットで選び、家に届けてもらい、店で受け取り、返品も柔軟にできる。こうした選択肢を“同じ店の体験”として束ねる設計である。

なお、ウォルマートの常時推論についての詳しい解説は以前の無料記事『ウォルマート決算を読み解く——小売りの現場で進む常時推論AI』を参照。

ターゲット(TGT):「運用の復元」と、その上に乗る常時推論

では、ウォルマート(WMT)だけが小売業の中の特殊な例なのか。ここを確かめるためにもう一社、ターゲット(TGT)の取り組みを見てみよう。

前提として、ターゲットは全米展開の総合ディスカウンター(大型量販店)で、日用品から食品・衣料までを“ほどよく上質”に揃え、店舗とオンラインを一体運用して稼ぐ小売だ。ターゲットはこの数年、不振が長く続いていた。しかし今回のFY2025Q4決算では、売上はまだ戻り切っていないが、利益は先に戻ってきた」という形が見え始めた。しかも、その立て直しの説明の中に、ウォルマートと同じ種類の「入口の推論(検索・提案)」と「実行系の復元(在庫・店頭・損失管理)」が並んで語られている。ここに、常時推論が“小売全体の現象”として広がり得る手触りがあるといえよう。

決算の具体的な数字は次のとおり。第4四半期の売上は304.5億ドルで前年比1.5%減。一方、Non-GAAP EPSは2.44ドルと市場予想を上回った。売上が弱い中でも利益を伸ばせた背景には、シュリンク(棚卸減耗)の改善や、サプライチェーン/デジタル運用の生産性改善がある。

特にこのシュリンクとは、盗難・紛失・破損などによって「本来あるはずの在庫が消える」ことを指し、この改善によって粗利率を約90bp押し上げたという。これは売上が増えることによって利益が伸びるパターンとは異なり、漏れていた利益が塞がったという性格の改善だ。

さらにターゲットは、サプライチェーンとデジタル・フルフィルメントでのコスト改善を進めている。仕入れから倉庫→店舗→顧客までの流れや、配送と店頭受け取りといった実行系が効率化すれば、売上が同じでも利益は残りやすくなる。言い換えれば、ターゲットはAIの入口を広げるより先に、まず実行の回転効率を戻しているのだ。

その一方で、同社は会話検索やパーソナライズといった入口のAIにも投資している。これらは顧客の目的や条件を読み取ってから、表示や提案を変える仕組みであり、一度作って終わるものではない。顧客・在庫・販促の変化に合わせて更新され続けるため、うまく回り始めるほど常時推論に近づいていく。

さらに2026年には20億ドル超の増分投資を計画し、投資を増やしながら営業利益率も改善させる方針を示している。これは、運用改善に一定の手応えがなければ置きにくい計画だろう。

ターゲットは、ウォルマートのように「意図→購買→実行」を完成形として見せているわけではない。しかし、シュリンクやサプライチェーン、生産性といった運用の歪みを直し、その上に会話検索やパーソナライズという推論を乗せる段階に入っているのだ。

ロスストアーズ(ROST):AIを語らなくても「回転で稼ぐ」

ウォルマート(WMT)やターゲット(TGT)を取り上げると、どうしても「AIアシスタント」「会話検索」「パーソナライズ」といった言葉が前に出る。すると、常時推論が「デジタル機能の話」に縮んでしまいかねない。

だが忘れてはならないのは、アプリの機能が常時推論の本質ではないという点だ。常時推論においては、需要の変動を読み、在庫を動かし、店頭で捌き、利益を取り切るという運用の回転を止められない形で回すことに本質がある。その構造をわかりやすく示すのが、全米でオフプライス小売を展開するロスストアーズ(ROST)だ。

オフプライスとは、簡単に言えば「ブランド品や衣料・雑貨などを、正規ルートより安く売る」業態で、余剰在庫や季節品などスポット的な仕入れも多い。そのため、売れ筋の見極め、投入のタイミング、在庫の回転、店頭のスループット(処理能力)が利益を左右するのだ。つまり、ロスストアーズの稼ぎ方は「回転」で決まると言い換えられる。

今回のFY25Q4決算でも、既存店売上の伸びはトランザクション(来店・購買回数)の増加によって牽引された。また、経営陣が使う言葉の中で、常時推論の文脈にそのまま接続できるのが、「fresh receipts※1」と「fast turning inventory※2」だ。この二つが揃うと何が起きるか。まず、売場が“新しい”状態を保てる。オフプライス小売では「行けば何かある」という期待が大きいので、売場の新鮮さが客数に直結する。そして、在庫が古くならないので値下げ圧力が減り、粗利が保たれやすい。さらに、回転が速いと資金効率が上がり、次の仕入れを打ちやすくなる。つまり、fresh receipts × fast turning inventory は、売上と利益の双方に効くということだ。

重要なのは、これが「一度の判断」で作れないことだ。入荷の波、天候、季節、競合の販促、顧客の嗜好など、変動要因は多い。その中で「新鮮な入荷を維持し、在庫を速く回す」には、どの商品を、どの店舗に、いつ、どれだけ投入するのかという意思決定を更新し続ける必要がある。これこそが、まさに運用の常時最適化なのだ。

※1…receipts は小売の言葉で、入荷・受領のことを指す。fresh receipts は「新鮮な入荷」、つまりタイミングよく商品が入ってくる状態を意味する。

※2…turn(回転) は在庫回転のことで、fast turning inventory は「在庫が早く売れて入れ替わる」状態である。

クラウドストライク(CRWD):常時推論が進むほど「常時攻撃」—だから“常時セキュリティ”

<FG Free Report では割愛>

エンドユーザー→CSP→CapEx:投資の起点はCSPではなく“上流”

ここまで、小売3社を通して、推論が「会話」から「運用」へ入り、商売の回転を支え始めている姿を見てきた。こうした常時推論の広がりは、その裏側で計算資源を提供するCSP(クラウドサービスプロバイダー)にも影響を与えている。

近年、MicrosoftやAmazon、AlphabetなどのCSPは、AI需要に対応するためデータセンターやGPUなどへの大規模な設備投資(CapEx)を続けている。この巨額CapExは、「CSPが儲けたいから」でも「ベンダーが煽るから」でもない。結論から言えば、ここまで見てきた小売企業という“上流のエンドユーザー”が、推論を止められない運用として回し始め、しかもその運用が“量と質”を同時に要求するからに他ならないのである。つまりCSPは、その需要に応えるために供給量と運用品質の双方へ投資を迫られているということだ。

まず企業が必要とするのは、GPUそのものではない。企業が探しているのは「業務として回せるCompute」である。

常時推論の導入が実装段階へ移ると、企業が最初に直面するのは「回せない」という問題だ。モデルが賢いかどうか以前に、必要なタイミングで、必要な量を、安定して回せる計算資源が確保できなければ業務には使えない。

そこで多くの企業は、まず必要なComputeをCSPで探す。オンプレミスで大規模な設備を揃えるには、サーバーだけでなく電力・冷却・ネットワーク・運用体制まで準備する必要がある。一方、CSPなら必要なときに必要な規模から始めやすいのだ。

つまり、常時推論が業務へ入り込むほど、まず「回せる量」を確保する需要がCSPへ流れ込むという構造だ。

しかし、供給量を確保するだけでは終わらない。運用として回し始めた瞬間、次に必ず問題になるのが“質”である。

たとえば、検索や推薦ではレイテンシ(遅延)が大きければ顧客体験が悪化する。在庫・配送・店頭の運用なら、処理の遅れはそのまま現場の詰まりになる。常時稼働する以上、「ときどき落ちる」ことも許されないため、安定して回せる品質が必要になる。

ここに、今回割愛したクラウドストライクの議論もつながる。常時推論が進み、企業のシステムやデータが常につながるほど、攻撃面も常時化する。したがってセキュリティも後付けではなく、止められない運用を成立させる条件になるということ。

つまり、常時推論の時代に企業が求めるComputeは、「たくさんあればいい」という単純な議論にはとどまらない。レイテンシ(遅延)・スループット(処理量)・安定性・ネットワーク・監視・自動化・セキュリティまで含めた「運用として回せる品質」が必要になる。

編集部後記

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ファンドガレージ 大島和隆

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