FG Free Report NVIDIA・Micosoft・Google~AI世界の構造はどうなるのか~(5月26日号抜粋)

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2025年5月19日と20日、NVIDIAのジャンセン・ファンCEO、Microsoftのサティア・ナデラCEO、そしてGoogleのスンダー・ピチャイCEOが、各都市で行われた開発者カンファレンスに登壇しました。

興味深いことに、そこで語られたのはもはや各社の製品技術についてではなく、AIとの共存を目指す新時代の社会構造についてだったのです。

今回はその全体像を把握し、今どの企業がどのような立ち位置で右肩上がりのビジネストレンドを形成しているのかを、プロのファンドマネージャーの視点でお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド~AI秩序の設計者たちが描いた未来地図~

NVIDIA @COMPUTEX 2025:インフラ産業としてのAIファクトリーの完成宣言

5月19日に台北で行われたCOMPUTEX 2025にて、NVIDIAのジャンセンCEOが語った話の一部を以下に抜粋する。(上のYouTubeの6:50〜19:00あたりのお話をぜひお聞きいただきたい)

“ We realize now we are an AI infrastructure company. An infrastructure company that’s essential all around the world. Every region, every industry, every company will build these infrastructures.
(略)
AI has now part of infrastructure. And this infrastructure just like the internet just like electricity needs factories. And these factories are essentially what we build today. They’re not data centers of the past. 

「NVIDIAはAIインフラ企業となったのです。世界中で不可欠なインフラ企業です。あらゆる地域、あらゆる産業、あらゆる企業がAIインフラを構築するでしょう。
(略)
 今やAIはインフラの一部になりました。そしてこのインフラには、インターネットや電気と同様に工場が必要です。そして、その工場をNVIDIAが今まさに建設しています。これは過去のデータセンターとは異なります。」

…つまり、NVIDIAは今や社会の基盤そのものを再構築する「インフラ産業」としての地位を手にしようとしているのだ。

そしてそのインフラの心臓部には、「AIファクトリー」があるこれは従来のデータセンターのような単なる情報処理装置ではなく、最新のAIモデルとアルゴリズムを経由して推論し知性そのものを出力する工場の役割を果たす。

そして、このAIファクトリーが単なる製品ではなく社会的なインフラだというのは、1GW級のAIファクトリー(Stargateプロジェクト)の設備投資額が600〜800億ドル規模に達した、というジャンセンCEOの発言からも明らかだ。

さらに今回注目すべきは、「NVLink Fusion」という新しい提案である。これは、他社(たとえばQualcomや富士通)のカスタムCPUやASICと、NVIDIAのAIインフラを直接接続できるようにして融合させる取り組みだ。ここでも、NVIDIAは単にチップを供給する立場から、さらに先へと進んでいることがお分かりいただけるだろう。

Microsoft @Microsoft Build 2025:Copilot経済圏の拡大

“Today, we are introducing a new class of enterprise grade agents you can build using models fine-tuned on your company’s data, workflows, and style. We call it Copilot Tuning.
(略)

Copilot can now learn your company’s unique tone and language. And soon, it’ll even go further understanding all of the company’s specific expertise and knowledge. ”
「今日我が社が紹介するのは、Copilot Tuningです。これは、それぞれの企業のデータやワークフロー、そしてスタイルにぴったりと合わせて作られたモデルを使用して構築できる、新しいエンタープライズグレード・エージェントです。
(略)
Copilotは今や、それぞれの企業が持つトーン(社風)や共通言語を学習しており、そしてゆくゆくは、会社固有の専門知識や知見をより深く理解できるようになるのです。」

Microsoftの開発者会議「Build 2025」でサティア・ナデラCEOが発表した、「Copilot Tuning」。これは、MicrosoftがジャンセンCEOのAIファクトリー構想とは異なるAIビジネスだ。つまり、NVIDIAが「AIはインフラの中核を担う存在だ」と主張するのに対し、Microsoftは「AIエージェント(Microsoft Copilot)は人間と協働する存在である」という考えを持っているのだ。

さらにMicrosoftのAIを身近な存在として人間が認識できるような環境づくりの一環として、イーロン・マスク氏の率いるxAIと提携した「Grok on Azure」や、Open AIと提携した「Azure Open AI」の提供を発表した。

このように、複数のAIモデルと柔軟に組み合わせられる「マルチモデル対応」の設計を構築することで、「Microsoftはいろんなモデルと協働できる中立的なプラットフォーマーですよ」とアピールしている。これが、CopilotやAzureをあらゆる職務で使わせるMicosoftの戦略なのだ。

もっと言えば、AIモデルはOpen AI社やxAI社製のものであっても、それを制御するのはMicrosoft(Microsoft Foundry)であるというMicrosoftの抜け目のなさには感心させられる。

ただ念を押すが、Copilotはあくまでも「人間のエージェント(補助役)」であり、自ら設計したり工場そのものを再発明したりするような力は持たない。だから構造としては、NVIDIAがAIファクトリーで「計算の土台」を設計し、Microsoftは「その土台の上でどう動くか」に徹するということになろう。

それでも今、世界中の企業がまず最初に導入するAIは、NVIDIAではなくMicrosoftになる可能性が高い。なぜなら、Windows上にCopilotがいるからだ。Officeに、GitHubに、既にいるからだ。

Google @Google I/O 2025:Geminiが目指す、「3つのP」

スンダー・ピチャイCEOがGoogle I/O 2025の開幕ステージで語った言葉は、ジェンスンCEOやサティアCEOとはまた異なる温度と視点を持っていた。

それは、AIを社会構造の根本から変える産業インフラでもなければ、オフィスに溶け込むAIエージェントでもない。GoogleのAI戦略は「実際に行動する」AIではなく、「知識の解釈と伝達」に特化したAIを設計することである。

これが一体どういう意味を持つのか説明しよう。

同社のAI構想の中心にあるのは、Geminiシリーズの最新バージョン「Gemini 2.5 Pro」だ。Geminiについては以下のように動画で紹介されている。

“For years, people have pursued building an AI assistant that doesn’t just respond, but understand. One that doesn’t just wait, but anticipate.
(略)
Our goal is to make Gemini the most personal, proactive, and powerful AI assistant.”

「人々は何年もの間、「回答するだけでなく理解する」あるいは、「待つのではなく先読みする」AIアシスタントを作ろうと追い求めてきました。
(略)
我々の目標は、Geminiを最もパーソナルかつプロアクティブでパワフルなAIアシスタントにすることです」
Geminiが目指すこれら“Personal”,”Proactive”,”Powerful”を、「3つのP」と表現しており、
  • Personal…真の意味で「自分だけの」AIアシスタント。自分の分身のような存在。
  • Proactive…従来の「受け身の」AIから、ユーザーの行動や感情をいち早く理解して提案する「プロアクティブな(=先手を打つ)」AIへ。
  • Powerful…優れた機能と基盤で、人間の思考を現実化するサポートを行う。

という役割を担うという。(実際にGeminiを動かしている様子や詳細は上記YouTubeで”Gemini”の項目を参照)

つまり、Googleのアプローチは、NVIDIAのようなハードウェア主導でもなく、MicrosoftのようなCopilotによるエージェント構想でもない。むしろそれらの動きを一歩引いた視点から見つめ、「ユーザーと情報の距離をいかに短縮するか」に専念していると言えよう。

Googleは構造を握らない。NVLinkを持たず、Foundryも持たない。ただし、すべての人が毎日使うWebの上に立つことで、Googleは依然として巨大な価値を持つのだ。

まとめ:AI時代の新しい秩序を作るのはだれか?

こうして見てくると、AI世界の秩序は大きく三層に分かれつつあることがわかる。

  1. 設計者層(NVIDIA)
     → インフラを定義する

  2. 実装者層(Microsoft)
     → エージェントやAIシステムを現実社会に導入する

  3. 媒介者層(Google)
     → 情報やUIを整え、既存秩序の中で最適化を行う

そしてこの秩序の中で最も中心的存在といえるのが、やはりNVIDIAだろう。

Microsoftは「誰にでもCopilotを」という普及戦略で社会実装を先行するが、その基盤がNVIDIAに依存している以上、構造の深部に手を入れる力は限定的である。加えてGoogleも、NLWebを使っていわゆる「知識の仲介者」としての地位を守ってはいるものの、まだ秩序そのものを設計するには至っていない。

今や、「誰がAIを所有するか」という問いから、「誰がAIの秩序や経済圏を設計するのか」ということが問われているのだ。

編集部後記

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