FG Free Report トランプ大統領の自動車関税は本当に悪か?(3月31日号抜粋)

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トランプ大統領が就任して3か月と経たぬうちに発表された25%の自動車関税は、世間を大きく揺るがしました。

しかし、メディア報道の中には、この関税の意図を正しく汲み取れていないような意見が多く散見されます。

今回は、トランプ大統領の自動車関税の本質と影響について、政治経済両面と「EUの非関税障壁」の観点を含めて、プロのファンドマネージャーが解説していきます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

本当に関税で“物価高”になるのか?

先日行われたトランプ大統領の記者会見によれば、全ての米国への輸入車に対して25%の関税が4月3日より課税されることが明らかになった。この発表以来、もう右を見ても左を見ても、

  • 「関税のせいで車の価格が上がり消費が冷え込めば、経済に悪影響」
  • 「物価上昇はインフレを悪化させ、国民負担も増える」
  • 「企業のコストが上がり、株価が下がる」

といったネガティブリアクションのオンパレードだ。

しかし、このような「関税=即物価高」という短絡的な思考展開に、私はどうしても違和感を感じずにはいられない。

その違和感とは何か、今回のトランプ大統領のアナウンス内容の意義についてもっと詳しく見ていくことにしよう。

⚠️前提として、私はトヨタ自動車(7203)をこよなく愛する日本の投資家であり、米国よりも我が国日本を大切に思うパトリオット(愛国者)だ。ましてや米国共和党を支持するわけでも、民主党を支持するわけでもなく、ニュートラルな立場から投資分析を行なっているファンドマネージャーだという点を、皆さまにご理解いただきたい

トランプ大統領が発表した自動車関税についての内容整理と意味分析

トランプ大統領が記者会見の席上、最初に明確にされた内容を以下に整理してみた。

① 25%の自動車関税導入の基本方針

  • 米国外で製造されたすべての自動車(および軽トラック)に対して25%の関税を課す。
  • 米国内で生産された車両には一切関税はかけない

➡️米国における製造業の回帰と雇用創出を促す。

分析:非常に明快なルール設計(25%という一律税率)により、複雑な例外や抜け道を防ぎ、企業の生産地判断を明確に誘導。WTOのルールに抵触する可能性はあるが、相互主義(reciprocity)で正当化の余地も。

② インセンティブ:米国製車ローンの利子控除

  • 米国製の自動車をローンで購入した場合、利息分を所得税から控除可能
  • 海外製車両をローン購入しても、控除は適用されない。

➡️税制面からも米国製品を選ぶ動機を強化。

分析:関税(=ペナルティ)だけでなく、控除(=報酬)によるポジティブ誘導も同時展開。自由主義経済における「選択の自由」を保ちつつ、行動経済学的にも効果が期待できる設計

③ 外国企業の工場建設支援・誘致策

  • ホンダなど既に工場を持つ外国企業は既存施設の拡張で即対応可能。
  • 工場と同時に発電所も建設可能。

➡️1工場あたり10〜20Bドル規模の投資、数百億ドル規模の流入が見込まれる

分析:単なる規制ではなく、インフラ整備や許認可の迅速化による実務面支援まで完備。トランプ流の“Deal-Making”がここに表れている。

④ 「自由な選択肢」の回復(EV一択の否定)

EV・ガソリン車・ハイブリッド車、すべての選択肢を国民に提供

➡️バイデン政権下のEV義務化への反動

分析:「自由な選択」こそアメリカ精神の原点であるという立場。EV推進≠EV強制という立論で、規制より市場選好を優先するというスタンスが明確。

⑤ 長期目標:国家収入と債務削減への寄与

関税収入は年間1,000億ドル規模に成長見込み

➡️その収入を通じて、税金を下げ、国家債務を圧縮する。

分析:関税を税金の代替財源として用いる構想。これは「他国が払う税収で、米国民の負担を減らす」という、歳出削減と言った観点とは異なる方法で、MAGAロジックに完全に合致。

…いかがだろうか?

  • 「飴(控除)とムチ(関税)」・「ハードとソフト」・「ルールとインフラ支援」が三位一体という戦略性の高さ
  • 国内生産・雇用創出・中間層支援・自由な選択というMAGA(Make America Great Again)との整合性
  • 経済合理性と政治的メッセージの両立

が図られており、「感情的保護主義」とは明らかに一線を画す設計となっているようとしか考えられない。

また③のような実務的な支援、更には歳出削減というよりも歳入増を狙うというロジックまでもが考えられていることも注目に値するだろう。

25%関税は本当に”大きな”価格変動なのか?

そもそも本質的に、この25%関税というのは、ここまでヒステリックに騒ぎ立てるほどにシリアスな問題なのだろうか。

一部メディアでは、ウェドブッシュ証券のアナリストが「最大1万ドルの価格上昇になる」とコメントした話などを拾うが、実は私の実体験を通じて違和感を感じている。

それは、為替変動があるからだ。

かつて私も1998年頃〜2012年頃は、ドイツ車を乗り継いでいたのだが、この間、ユーロ円相場は最大で50%以上変動した(例:1999年の1ユーロ=100円未満 → 2008年には170円超)。

もちろん、当時に比べればメルセデスであれVWであれ、高級ブランドとして日本に定着しその輸入量も増えている。だが、ユーロ円相場の変動(上の例だと70%だ)を吸収できるほどに日本経済、すなわち国民所得は上昇しただろうか?いや、もし上昇したのならば、間違いなくとっくの昔に日本はデフレから脱却していたはずだ。

欧州車の輸入価格は、基本的にユーロ建てなので、 為替で20〜30%は普通に価格に影響している

つまり我が国では、25%の関税は「通常の為替変動の範囲内」とも言えるのだ。それが米国では異なるというロジックは、通用しないだろう。

25%という数字だけが独り歩きしているが、これは実のところ、市場が日常的に吸収している範囲のコスト変動にすぎない。むしろ“感情的・象徴的インパクト”を与えることこそが、トランプ大統領の戦略の真骨頂である。

EUの「非関税障壁」について

もっとも自動車産業といえば、EU(欧州圏)の最重要産業である。ところがトランプ大統領が指摘するように、EUの自動車産業には「Non-monetary tariff=非関税障壁」がある。例えば、

  • 米国で一般的な排ガス基準や安全基準と、EUの基準(EU型式認証)は大きく異なる。
  • 米国仕様の車をそのままでは販売できないため、再設計や特別対応が必要になりコストが跳ね上がる。
  • EUは「技術的に正当な規制」と主張するが、事実上の市場参入障壁となっている。

といったものが挙げられる。

加えて、これは日本でも同様に米国車が普及しない理由と一致すると思われるが、 「技術的な障壁の装いをした文化的・経済的な利権防衛」も存在する。具体的には以下のようなものだ。

  • 【CO₂規制】:米国車は排気量ベースでペナルティを課されやすい。
  • 【騒音規制】:V8やV6の音は「うるさい」とされる。
  • 【車幅制限】:都市部の駐車・通行規制が多い。
  • 【整備網】:わざと米国車への整備体制を作らず、「維持が大変」と印象づける。
  • 【文化的障壁】:アメ車はダサい。「図体が大きく、大飯ぐらい」という刷り込み(日本同様)。

CO₂規制や騒音規制は一見すると論理的に見え、また欧州の狭い道、というのもなかなか論理的に聞こえるかもしれない。しかしながら実は、全幅1900mm〜2000mm超えのフェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティンはモナコ、スイス、イタリア、ドイツなどで富裕層が普通に日常使いだという。これらの車種がCO₂排出で環境にプリウスよりも優しいとは考えられず、またこれらのエンジン音が騒音規制に抵触しないというのは不思議でさえある…。

つまり何が言いたいかというと、欧州市場でも「サイズが大きいから売れない」とか「うるさいから売れない」というのは通用しないのだ。

またEUは、域外からの自動車輸入に対してもともと関税を課している。具体的には乗用車に対して10%の関税が適用される。しかも、輸入品に対しては「付加価値税(VAT)」と呼ばれる税が適用される。​これは域内製品と輸入品に平等に適用される税金だが、輸入車の場合、関税が課された後の価格に対してさらにVATが加算されるため、最終的な販売価格が更に高くなる要因となっている。

残念なことにこうした事に関しては、ほとんどのメディアが今回の流れの中で報道していないということだ。

だからこそ(いつもお伝えしているように)、一次情報に積極的に触れることが最重要なのである。

まとめ

  1. 3月にトランプ大統領が発表した自動車の輸入に関する25%の関税は、市場やメディアをネガティブな方向に騒がせた。
  2. しかし、実は為替変動を考えれば市場が日常的に吸収している範囲のコスト変動にすぎないので、一国の経済を脅かすほどの大きな問題とは言えない。
  3. トランプ大統領の意図を正しく理解すれば、この自動車関税が「感情的保護主義」とは明らかに一線を画すような、経済合理性と政治的メッセージの両立を目的としたものであることが明らかである。
  4. EUがもとから設定している自動車関税や「付加価値税(VAT)」、あるいは認証制度や環境基準などといった「非関税障壁」についてメディアで報道させることは少ない。この事実は、トランプ大統領に対するネガティブな感情を煽る一因となっている。

 

いかがだろうか。もしかすると、自動車関税に対する見方ががらりと変わったという方も少なくはないかもしれない。

ただ事実として、メーカー側はすでに「適応モード」に入っており、今後は現地生産化が進むことが目に見えている。騒いでいるのは、短期の価格ショックを煽るメディアや一部の投資家なのだ。

25%という“数字”に目を奪われがちだが、実際の市場構造・文化・企業行動を踏まえれば、実体経済への影響は極めて制御可能であり、むしろ戦略的成果を見込める政策である。トランプ政権の動きは単なる保護主義ではなく、経済ナショナリズムと合理性の融合と言えるのではなかろうか。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
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ファンドガレージ 大島和隆

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