個人投資家の皆さんにとって、日々変動する株価は時として不安の種になることもあるでしょう。
もちろん、値動きや市場の変動を随時確認することは大切ですが、長期投資を成功に導くためには「企業価値」や「ポジション/ポートフォリオ作り」にもっと目を向ける必要があります。
今回は、投資のチャンスを逃さないためのアドバイスをプロのファンドマネージャーがお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
「買って売る」だけが投資行動ではない
最近、投資家の方々と話をすると「あれ?」と思うことがある。それは誰もが株価の話、すなわち「値段が上がった・下がった」の話はするが、企業価値の話にはほとんど触れないということだ。
たとえば、「エヌビディアを買ったんだけど、参戦が遅かったから下がりっぱなしで全然儲からない」というような嘆き節ばかりで、エヌビディアが直近にどんなことをしてどんな方向性にあるか、なんて話は一向に出てこない。
せめて、株価の上下変動とは関係なくその会社のビジネス・トレンドがどうなっているのかについて、漠然とでも理解する術をもつ必要があると私は考える。
株式投資をする場合、その投資対象を保有し続けようと考える期間は人それぞれだ。朝買って、午前中の内に売買するような人もいれば、1年以上保有しようと思って買う人もいるだろう。
しかし、実際にはほとんどの人が、最初から具体的な保有期間の目標値を持っていないと言っても過言ではない。「株式運用は長期投資で」と証券業協会は謳っているものの、大抵の人が「儲かったら売ろう」というスタンスでいる。
だからこそ、値段が下がってくると狼狽し、大変な失敗をしてしまったのではないかと思い悩む。
投資家は一度そういうネガティブ心理のスパイラル状態に陥ると、値段だけを追いかけて、少し戻ったところで売ってしまう場合がほとんどだ。
確かに株式投資は、「安く買り、高く売ってなんぼ」のものである。とはいえ、「買って売る」という2アクションで済ませるのが株式投資ではない。これが、多くの投資家が株式投資に対して誤解している部分だと言える。
株価の変動要因を見極めてポジションをつくる
ファンドマネージャーの世界では「ポジション※1をつくる」という表現を使うことがある。
これは、①ポジションにしたい銘柄を次々と買っていくという横の拡がり ②いろんな値段で「買い溜める」という縦の拡がり という2つの意味がある。
どんなに優秀で天才的なファンドマネージャーであっても、一度に全部買い切ることはまずしない。なぜなら複数の銘柄に分散投資をするよりも、少数の銘柄を何度かに分けて買う方が優れたパフォーマンスが手に入るからだ。
時々「買い下がろうと思ったけれど、株価が上がってしまって…」と残念がる人がいるが、株価の絶対値を追うだけが「株を安く買う」ということではない。そう、バリュエーション(企業価値)で判断するということも重要な要素だ。
端的に言えば、最初はPER30倍の時を買ったのなら、値段の上下に関係なく、もしPER25倍で次を買うことが出来たら、実際には「株を安く買う」ことになるという話だ。株価が上昇しても、PER※2が下がることは合理的に起こり得る事象であり、逆に株価が下落してもPERは下がらないというのも良くある話だ。
ここで、株価が下がる主な理由を確認しておこう。
ひとつは、たとえば減益発表があったとか市場シェアを奪われたというような、個別にネガティブな理由が明らかになった場合。そしてもうひとつは、市場の下落につられる場合だ。
実は、自分が投資している銘柄が市場要因で下落しているのか、あるいは個別の要因で下落しているのかを判断することができる計算式が存在する。それは、CAPMにおけるシングルファクターモデル(Single-Factor Model)のリターン分解の式と呼ばれる下記の数式だ。
Ri=αi+βiRm+ϵi
【各項の意味】
-
- Ri :資産 i のリターン
- αi :資産 i のアルファ(市場の影響を除いた超過リターン)
- βi :資産 i のベータ(市場リターンへの感応度)
- Rm :市場ポートフォリオのリターン
- ϵi :誤差項(固有リスク、非システマティックリスク)
つまり、個別資産のリターン Riは、市場要因(βiRm)と固有要因(αi+ϵi)に分解されるということを表している。
ある銘柄の株価が下落していると仮定しよう。その要因が市場要因だけなのであれば(=個別要因でマイナスの話がない)、高い確率で追加投資のチャンスだと言える。特に、メディアの扇動によって生まれたネガティブセンチメントから株価が下落しただけ(市場要因)で、保有している銘柄のファンダメンタルズに問題がなければ、追加投資の絶好の機会だろう。逆に市場要因は何もなく、個別要因で下落しているならば、それが損切りのタイミングと考えることもできる。それは所謂「ナンピン買い※3」とは違い、ポジションを作ることでもある。
このような好機を逃さないよう工夫するのが、株式投資の醍醐味と言えよう。
※1…ポジションとは、売買した株式を決済せずにそのまま保有し続けること。売買による価格差で利益を得るのではなく、価格変動によって損得が生まれる状態。
※2…PER(Price Earnings Ratio)は、「株価収益率」と呼ばれる。「株価÷1株当たりの純利益」の計算式で求められ、株価上昇への期待が高いほど、この数値も高くなる傾向にある。
※3…ナンピン(難平)買いとは、手持ちの株価が買値よりも下がった時、さらに買い増して平均購入単価を下げること(=株価が上昇すればナンピン買いをする前よりも利益を多く得られる)。
株式投資には金銭的・精神的余裕を持って臨もう
「同じ銘柄を何度も買えるほど資金はない」という個人投資家の人がいる。あるいは、最初に株式投資用に確保した資金を「3分の1ずつ、定期的に時間分散で使いましょう」とアドバイスする人がいる。
それらが間違いだとは言わないが、もし投資銘柄が合理的には説明が付かないような状態で「安く」なった時のために、「買い乗せ」する資金を作る算段は準備しておくべきだ。カツカツの資金で投資をして上手くいくほど、投資の世界は優しくない。
実はこれには2つの効用がある。1つ目は市場が反転した場合であっても、真の意味での「ポジション作り」ができていれば大きな投資収益を挙げられるということ。2つ目は、下げ相場もポジティブな好機と見れるようになるということだ。つまり、欲しいものが値下がりしているバーゲンセールと思えるか否か、ということだ。
一度買ったら最後、「値上がりすれば勝ち、値下がりすれば負け」といった考え方ではまず投資は上手くいかないだろうし、そもそも精神的に潰れてしまう。実際、私はそういうファンドマネージャーを数多く見てきた。
ファンドマネージャーの実務的には、合理的にこの「ポジション作り」が行われている。なぜならポートフォリオを運用している時は通常、個々の銘柄の組入比率は株数ではなく、文字通り「組入比率(相対的な保有比率)」で管理しているからだ。つまり銘柄Aは5%、銘柄BからDまでは3%などといった按配だ。
ただ当然のことながら、個々の銘柄は日々別々の値動きをするので、当初の計画通りの組入比率はあっという間に崩れてしまう。言い換えれば、大きくアウトパフォームして(株価の運用成績が日経平均やTOPIXなどのベンチマークを上回って)いる銘柄は徐々に組入比率が大きくなる一方で、アンダーパフォームしている銘柄はだんだんとその存在感を失っていくということだ。
たとえば、当初予定が4%だった銘柄が3%に凹んでいたとしたら、もう一度その銘柄を精査し、組入比率を元に戻すために追加で購入することで組入比率を引き上げる(=保有株数を増やす)という対処方法を取る。
たとえ一度株価が市場要因で落ち込んだとしても、ファンダメンタルズやビジネストレンドへの確固たる信用がある銘柄であればその場で慌てて売る必要はなく、元々その資産に対して計画していた通りに全額保持していれば、市場センチメントが安定した時にその銘柄は大きな利益になる。なぜならその企業の経営に問題がなく、市場要因で下落しているだけならば、必ずどこかでその株価は再度上昇するからだ。
そしてその「投資先への確固たる自信」をつけるためには、一次情報を常日頃から入手して着実に足元を固めていくこと以外に方法はないと言ってもいいだろう。
だからこそ、ファンドマネージャーの仕事は(投資対象を決めて「買った売った」をするのが大半だと思われているが、)ポートフォリオを作り込む地味な作業の方が実は圧倒的に多い。今後もFundGarageでは正しい情報を皆さまにお届けするよう尽力していくので、みなさんの助けになれば幸いだ。
まとめ
- 株価の数字だけを追いかけるのではなく、長期的に企業価値やビジネストレンドを精査するのが株式投資の醍醐味である。
- 自分が投資している銘柄が市場要因で下落しているのか、あるいは個別の要因で下落しているのかを判断できるようになると、より多くの利益を上げることができる。
- 「値上がりすれば勝ち、値下がりすれば負け」といった考え方ではまず投資は上手くいかない。ファンドマネージャーが地道にポートフォリオを作り込んでいるように、資金には余裕を持って、合理的なポジション作りをすることが投資成功の秘訣だ。
編集部後記
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公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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