2025年1月29日にIBM(IBM)・メタプラットフォームズ(META)・マイクロソフト(MSFT)、そして翌30日にアップル(AAPL)というスケジュールで行われた、2024年第四四半期の決算発表。
この4社の決算内容は、今の「AI革命」を形作る要素が多く散りばめられており、深く掘り下げて考える価値のあるものばかりでした。
本記事では、メタプラットフォームズ(以下、Meta)の決算内容に焦点を絞り、オープンLLMの「Llama」とシリコンチップ「MTIA」について解説します。
また最後には、日本で未発売のスマートグラス「Ray-Ban Meta」を実際に米国で使ってみた感想を、ファンドマネージャーの視点でお伝えしています。ぜひ最後までお楽しみください。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
Metaの「Llama」、「MTIA」、そして「Ray-Ban Meta」のポテンシャル
Meta決算発表のポイント①DeepSeek問題に対するザッカーバーグCEOの見解
今回、Metaの決算発表で注目したポイントは、
- 中国発のDeepSeekに対するザッカーバーグCEOの見解
- Metaの独自シリコン「MTIA」と、NVIDIA GPUの関係性
の2点だ。
まずはザッカーバーグCEOが、中国発のDeepSeekが登場したことについてどう受け止めたのかを確認しよう。これを確認すべき理由は、両社が「オープンソース(OSS)」という共通項を持っているからだ(「オープンソース(OSS)」とはソースコードが一般公開されているソフトウェアのことで、つまり誰でもソフトの中身を見ることができて、さらにそれを改変したり再配布したりすることが許されている)。
先週月曜日、突如として市場が認識したのが、DeepSeekという中国のAIスタートアップ企業の存在だ。この会社は、オープンソースの大規模言語モデル(LLM)の開発を専門としている。
ことの発端は、同社が1月20日にリリースした最新モデルの「DeepSeek-R1」が、数学・コーディング・推論タスクにおいてOpenAIのo1(2024年9月に発表)と同等の性能を示しながらも、約600万ドルのコストで開発できたと報じられたことだ。
「高額なGPUがAI開発には大量に必要だ」というNVIDIAのビジネス神話が崩壊したのではないかと、NVIDIAの株価が先週一週間で△15.81%も下落するほどの影響を及ぼした。
これを受けてMetaのザッカーバーグCEOは、DeepSeekの登場がグローバルAI市場におけるオープンソースの「標準」をどの企業が主導するかを考えるきっかけになったと指摘。そのうえで、「世界のオープンソースAIの標準をアメリカ発のものにするべきだ」とコメントしている。Metaとしては、自社のオープンソースLLM「Llama(ラマ)」シリーズを通じて市場をリードする意向を示した。
加えて、DeepSeekは推論(inference)の効率化を大きく前進させる可能性があるとし、MetaはLlama 4の開発とAIエージェントの進化を支えるため、今後も大規模な計算リソース(GPUやデータセンター)に投資を行う計画であるとも述べた。
META決算発表のポイント②Metaの独自シリコン「MTIA」とNVIDIA GPUとの関係
そしてもうひとつのポイントは、Meta独自のシリコンチップ「MTIA」とNVIDIA GPUとの関係の方向性だ。これに私が注目した理由は、従来よりNVIDIA GPUのヘビーユーザーであるMetaの、独自ASICの開発・利用促進が今後どう影響するのかを確認したいと考えたからだ。
決算説明の中で、MetaはMTIA(Meta Training & Inference Accelerator)という独自のシリコンチップをAI推論と広告配信のランキング最適化に投入し、2025年以降はAIトレーニングにも拡大するという計画が示された。
しかし、これは即座にNVIDIAとの関係を完全に置き換える動きではないと考えられる。つまり、MetaはMTIAとNVIDIA GPUの両方を活用する戦略をとる可能性が高い、と私は見ている。
市場がしばしば混乱するポイントは、「Metaが独自のシリコンを開発=NVIDIAのシェアが奪われる」と単純に捉えられがちな点だが、実際にはそれほど単純な話ではない。
そもそも、MetaがMTIAの開発に力を入れる背景には、
- NVIDIA GPUよりも、MetaのAIワークロードに適合する自社専用チップの方が効率的
- Metaの2025年設備投資予算は600~650億ドルと巨額であり、長期的に見れば、独自のチップを開発し特定用途に最適化するほうがコストを削減に繋がる
- 現在NVIDIA GPUは、需要が供給を大きく上回っていて確保が困難な状況。独自のチップを開発することで、NVIDIAの供給状況に依存しすぎるリスクを低減できる
といった、「最適化と効率性」「コスト削減」「供給の安定化」という3つの要因がある。
とはいえ、Metaは決算説明で明確に「今後もNVIDIAのチップを購入する」と発言していることから、今後も両社のパートナーシップは維持していくつもりなのだろう。たとえば、大量の計算資源が必要なAIモデルのトレーニングに、NVIDIAのGPUは欠かせない存在だ。
このように、Metaが独自のチップを開発したからといって、NVIDIAのビジネスが直ちに脅かされるわけではない。むしろ、MetaのAI事業が拡大するほど、トレーニング向けのNVIDIA GPUの需要は大きくなる。
結論として、MTIAとNVIDIA GPUの共存によって、MetaのAIインフラ全体が拡張されるという未来を描くことができた今回の決算発表であった。
おまけ:新たなビジネスモデルの登場?——Ray-Ban Meta
冒頭で、今回の決算では「AI革命」に貢献する要素が豊富だったと記述したが、新たな次世代コンピューティング・プラットフォームとして特に私が可能性を感じたのが、このスマートグラス「Ray-Ban Meta」だ。
これは現在日本で未発売の商品だが、先週ハワイを訪れた際に手に取って体験してきた。結論として、(ガジェットオタクのファンドマネージャー的にも)とても魅力的な製品だと感じた。
このスマートグラスは、カメラ・マイク・スピーカーなどの機能を備えており、スマホアプリと連携して使用できる。
あくまでも店頭での体験のためその真髄を楽しむまではいかなかったが、骨伝導イヤホンのように音楽が聴けたり、自分の見ている視界をそのままボタン一つ(あるいは音声指示)で撮影・録画できたりするのは唯一無二の面白い体験であった。
もちろんメガネとしても、これだけの機能が付いているとは思えないほど軽く、視力に合わせて度も入れられるし、調光レンズ(紫外線でサングラスに変化する)のモデルもあるようだ。
実際に米国現地では人気商品で品薄が続いているらしい。私が訪れた店舗には在庫も無く、画像のデモ版があるのみであり、店舗スタッフの話曰く消費者ニーズは大きいようである。(残念ながら、日本では在庫状況以外にも様々な事情で導入が遅れそうだが…)
現在のMetaの主な収益源は、 広告、ハードウェア販売(Quest, Ray-Ban Meta)、サブスクリプション(WhatsApp Business, Meta Verified) だが、スマートグラスの普及が進めば今後新たな収益モデルが生まれる可能性がある。
スマートグラスがエッジAIになり、そこから還流されるデータでLlama 4を継続学習(Post-Training Scaling or Test-Time Scaling)するのは、極めて強力な戦略だと言える。これは、テスラの自動運転データ収集と似たコンセプトであり、AIの継続学習をリアルワールドのデータで行えるのは非常に大きな強みとなりそうだ。
まとめ
- Metaの2024Q3決算発表では、①中国発のDeepSeekに対するザッカーバーグCEOの見解 ②Metaの独自シリコン「MTIA」と「NVIDIA GPU」の関係性 の2点がポイントであった。
- DeepSeekの登場を受け、Metaの目標はLlama 4を「最も高度で広く使われるオープンソースAI」にすることであり、それによってオープンソース戦略のリーダーシップを確立することだとザッカーバーグCEOは明らかにした。
- MTIA(Meta Training & Inference Accelerator)という独自のシリコンチップをAI推論と広告配信のランキング最適化に投入し、2025年以降はAIトレーニングにも拡大するという計画が示された。
- 「METAが独自のシリコンを開発=NVIDIAのシェアが奪われる」と考えるのではなく、「MTIAとNVIDIA GPUの共存によって、MetaのAIインフラ全体が拡張される」という未来を描くのが自然である。
- スマートグラス「Ray-Ban Meta」は新たな次世代エッジAIとして大きな可能性を秘めており、それをLlama 4を学習データとするのは強力な戦略だと言える。AIの継続学習をリアルワールドのデータで行えるのは非常に大きな強みとなりそうだ。
このように、Metaのポテンシャルは高いと言えるが、Llama4などがオープンソースが故の問題点に突き当たる可能性は考えておく必要がある。
また日本の投資家としては、META AI(MetaのAIアシスタント)にしてもスマートグラスにしても、まだ試してみることさえできないのは注意したいところ。「MetaはただFacebookとInstagramの会社」という捉え方は誤解を招く可能性が高いということも、ファンドマネージャー的には指摘しておきたい。
編集部後記
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