FG Free Report 自動車業界株投資のカギーHEVと自動運転技術ー(12月30日号抜粋)

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最新技術に関する知識を持っておくことは、投資方針を決める際に不可欠です。特に自動車関連業界については、「HEV車へのシフトチェンジ」と「自動運転技術」を語らずして業界の動向はつかめないと言えるでしょう。

今回は、自動車産業投資のプロがそれらの技術と今後の展望について解説していきます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)  

自動車産業に投資する上で知っておきたいこと

①「HEV(ハイブリッド車)」の種類

単純にHEV、すなわち「ハイブリッド車」といっても、大きく5つの方式があることはあまり知られていないだろう。

その5種類とは、

  • 「シリーズ式」…エンジンが発電機を回して電気を作り、その電気でモーターを駆動。
  • 「パラレル式」…エンジンが直接車輪を駆動し、モーターは補助的に駆動力を提供。
  • 「シリーズ・パラレル式」…低速時や加速時はシリーズモードに、高速巡航時はパラレルモードに切り替える。モーターのみの走行(EV走行)も可能。
  • 「マイルドハイブリッド車」…エンジンが主な駆動力で、モーターは補助的に機能する。効率向上と軽量化を狙うが、電動走行距離は短い。
  • 「プラグインハイブリッド車(PHEV)」…外部充電(充電スタンドから)ができることが最大の特徴。ガソリンエンジンとの切り替えも可能。

である。また、以下に各社のハイブリッド方式について整理した。

一言で「ハイブリッド」といっても、これだけの違いがある。

最近の話題といえば「ホンダと日産の経営統合」だが、もしそれが実現するなら、両社が独自のハイブリッド方式を継続開発するのでは意味がないと言える。当然、内燃機関であるエンジンの開発も同様だ。市場関係者からすればこの擦り合わせこそが経営統合の最大のメリットだと思っているので、それに対する表明がなかったのは、ある意味で何も言われていないのと同じ。

だからこそ、安易に株価が変動したことには強い違和感を覚えずにはいられなかった。

…2024年12月に両社は基本合意書を締結したが、2025年2月に協議は打ち切られた。ホンダが日産を完全子会社化するという打診を、日産は受け入れることができなかった(意思決定のスピードが遅かった)。

②2つの自動運転技術「FSD」と「ADAS」の違い——それは、「安全性」に対する価値観の違い

2024年12月現在、いわゆる「マグニフィセント7」と呼ばれるものの中で断トツの高PERを誇るのは、テスラ(TSLA)だ。

というのも、「イーロン・マスクCEOがトランプ新政権のブレーンになるから」という話以上に、「テスラの開発している自動運転システムが市場を独占する」と多くの投資家は考えているらしいのだ。

だが仮にそれが本当だとしたら、かなりリスクが高い賭けに出ているように思う。その理由をこれから説明しよう。

自動車産業において、「安全装置」といえば常にベンツが他に先んじて開発し、搭載車を増やしてきた歴史がある。同様に、トヨタも高い研究開発力と実用化の技術を持っている。その大きな理由の一つは、ベンツにはBOSCH(ボッシュ)、トヨタにはデンソーやアイシンなどのずば抜けて技術力が高い自動車部品メーカーがついているからだ。

ひと頃私は、トヨタやデンソーの開発エンジニアやその責任者の人達と定期的に一献酌み交わすことを続けていたことがあるが、特に強く印象に残っているのは彼らの安全に対する強いこだわりだ。

自動車はもし走行中に安全機器が不調になってしまったら、エンジンを1度切って再始動するようなことは不可能である。この「逃げ道のない」機器開発には、「万が一」に対するこだわりが不可欠なのだ。

一方で、テスラはいわゆる完全自動運転技術「FSD(Full Self-Driving)」を搭載して(何度も事故を起こして米運輸局から睨まれて)いるが、ベンツもトヨタも現時点ではあくまで「ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)」のレベルに留めたものしか発表していない。

実際、もしテスラのFSDと同様な頻度でベンツやトヨタが人身事故を起こしてしまっていたら、それはFSDの問題だけに留まらず、致命的に会社の信用を失うことになるだろう。そう、テスラに対する世間一般の認識は、どうしたって未だ「電気自動車(BEV)で急激に立ち上がった新興企業」というものであり、「クルマは命を乗せている」という安心感よりも「最新のテクノロジーが満載!」という方がクローズアップされる性質なのだと言える。

では、FSDとADASとは、どれほど違うものなのだろうか?目的・カバー範囲・目標という点で比較すると以下の通りになる。

  • テスラの「FSD」
    • 目的:完全な自動運転(レベル4やレベル5)を目指して設計
    • 範囲:交通信号・停止標識の認識・交差点での運転操作・自動車線変更・合流・自動駐車など、ドライバーの操作をほぼ全て代替可能な機能を提供。8つのカメラが360°のビジュアル情報を解析し、車載のAIチップが人間に変わって全てドライブ操作をしている。
    • 開発目標:ドライバーが監視せずとも車が目的地まで移動できること。
  • 最新の「ADAS」
    • 目的:ドライバーを補助し、安全性を高めることを主眼とした設計。
    • 範囲:車間距離維持・車線逸脱防止・レーダークルーズコントロール・衝突警告・自動ブレーキなど、部分的な運転支援に限定。
    • 開発目標:ドライバーの負担を軽減し、安全運転をサポートすること。

ご覧の通り、まず誤解なきように確認すると、テスラのFSDは自社のネーミングとしてのFull Self-Drivingなのであって、あくまでも現時点「完全な自動運転(レベル4やレベル5)を目指して設計」しているに過ぎず、実際のレベル4やレベル5としての認定を受けるには至っていないのだ。

しかし実は最新のADASが司る機能は、ほとんどFSDと比べて遜色ない

実際、先日の北米出張では、私ひとりで約1,900キロ相当のドライブをしているが、フリーウェイの大半ではADAS機能にほぼお任せで走っていた。現在のレーダークルーズコントロールは先行車に一定の車間距離を保ちつつ追随するし、信号待ちで停車すれば同じように静かに停車する。そして信号が代われば自動で走り始め、再加速してくれる。また、Lane Keeping Assist(車線逸脱防止)装置のおかげで勝手に道なりに転舵してくれるし、車線変更時死角に他車がいる時は、ドアミラーの隅に黄色いアラームライトがつく。

つまり、ドライバーが不注意でも、クルマの方が注意深く見ていてくれるのだ。逆に言えば、ここから完全自動化へのステップアップにそう大きなハードルがあるようには、素人には思えない。

だが実際には、ADASから自動運転のレベル4やレベル5にはジャンプアップしない。なぜかと言えば、基本的に万に一つもエラーが起きないことが保証されない限り、量販車での自動運転の開始は難しいからだ。仮に0.01%の確率であったとしても、それは10,000の同じ事象が起きれば1回は事故が起こるということを意味する。これを限りなくゼロに近づけない限り、自動運転の普及は難しいだろう。

だが私が時々考えてしまうのは、どの段階をもってOKとするかだ。つまり、人間が運転していても事故を完璧に防ぐことは不可能だということ。AIが操作する自動運転だからといって、正直、あのロスアンゼルスの片側8車線もある大規模ジャンクションでの車線変更は、運転に慣れているはずの私でも手に汗握る瞬間があった。また、土砂降りによる前方の視認性の低下や逆光の眩しさは、人の目もカメラも結局一緒である。

まとめ

今回は、「HEVの5つの種類」と「FSDとADAS」について掘り下げて解説したが、いかがだっただろうか。

確かに、テスラのFSDは通常のADASより進化しているが、将来的にその市場を独占できるほど優れているとは言い切れない。実際、サンフランシスコの街中を走るWAYMOの無人タクシー、この技術開発はGoogleが行っている。エヌビディアも、ベンツと組んでの自動運転の開発を行っている。

テスラに何らかの優位性があるとするならば、それは既に販売して公道を走っているテスラ車からの走行データが取得できるということだろう。ただ繰り返しになるが、結局は会社の安全に対する基本発想の違いに因るところが大きい、ということなのだ。

編集部後記

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