前回記事ではエヌビディアのGPU「Blackwell」についてお伝えしましたが、今回はAIデータセンター環境に焦点を当てエヌビディアの2つの最新技術についてご紹介します。
その2つとは、①「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」のソリューション ②「ディスアグリゲート(分解)」技術 です。
馴染みのない言葉も多いかもしれませんが、半導体関連株式専門のプロのファンドマネージャーがわかりやすく解説していきます。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
進化するエヌビディアの技術
エヌビディアの技術①「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」のソリューション
エヌビディアのジャンセンCEOは、2024年11月の決算発表カンファレンスの中で、
エヌビディアは「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」のソリューションを提供しますが、これらを各企業のカスタマイズされたデータセンターに統合する必要があります。このプロセスは非常に複雑で、各社の異なる設計に適応するためのエンジニアリング作業が膨大です。
と言っていた。
ここで言及されている、「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」のソリューションとは何だろうか。「フルスタック」と「フルインフラストラクチャ」に分けて説明しよう。
フルスタック(Full Stack)とは?
「フルスタック」とは、ハードウェアからソフトウェアまで、システムのあらゆる層をカバーすることをいう。具体的には以下のようなものが挙げられる(リンク付きのものはそれぞれを詳しく紹介している過去記事に飛びます)。
- ハードウェア層
- ソフトウェア層
- CUDA(GPU向けプログラミング環境)
- NVIDIA AI Enterprise(AI開発のための統合ソフトウェア)
- Omniverse(シミュレーションや設計向けのプラットフォーム)
- アルゴリズムとモデル
- AIモデルのトレーニングや推論に最適化されたアルゴリズム
つまり、エヌビディアは単にGPUを販売するだけでなく、そのGPUを最大限活用するためのソフトウェア環境やツール群も一緒に提供することで、トレーニングや推論効率の大幅な向上に成功しているのだ。
フルインフラストラクチャ(Full Infrastructure)とは?
「フルインフラストラクチャ」とは、AIスーパーコンピュータの設計・構築に必要なすべての要素を提供すること。その要素とは、以下のようなものだ。
- システム全体の設計
- AIワークロードに特化したスーパーコンピュータ全体の設計を司る
- GPU間通信やデータ転送の効率化を図るための技術(NVLink、InfiniBand)
- 高いカスタマイズ性
- エアクーリングや液冷システム、x86やGrace CPUといった多様な選択肢
- 各データセンターの設計に合わせて柔軟に対応可能
- さまざまな規模の製品
- 小規模なクラスターから数十万GPUを搭載する大規模クラウドまで対応
つまり、従来のGPUベンダーはGPUそのものを提供するにとどまる一方で、エヌビディアはGPUを中心にデータセンターの冷却システムやネットワーク構成など、AIスーパーコンピュータ全体の設計と統合をサポートしている。
以上をまとめると、「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」とは、エヌビディアがAIスーパーコンピュータを「ゼロから完成品まで」設計・構築・運用するためのあらゆる要素を提供していることを指す。
そのような複雑なプロセスを、エヌビディアは数世代にわたり成功裏に実施してきた。
この実績こそが、エヌビディアが提供する技術の広がりと深さを表していると言えよう。
エヌビディアの技術②既存システムを分解(=ディスアグリゲート)
では、(冒頭のCEOの言葉を借りると)”エンジニアリング作業が膨大”な「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」のソリューションを、エヌビディアが提供する理由はなんだろうか。
それは現在、データセンター内でAIインフラストラクチャーを導入するためには、既存システムをディスアグリゲート(分解)しないと始まらないからだ。
ディスアグリゲートとは、計算資源とメモリを独立させて拡張可能にすることを指す。例えば、計算負荷が高い場合はGPUを追加したり、メモリ要求が高い場合はメモリノードを増設したりするなどの対応を行う。
ディスアグリゲートの対象とするシステムは、主に従来の「モノリシック」なデータセンターインフラストラクチャだ。「モノリシック(Monolithic)」とは、「一体化している」という意味。データセンターに当てはめると、CPU・メモリ・ストレージ・ネットワークといったコンピューティング要素がすべて一体化したサーバーから構成されているデータセンターということになる。
この「モノリシック」の短所としては、
- メモリやCPUが不足しているサーバーがある場合、余りのある他のサーバーから移動させることが難しい(利用効率が低い)
- ある役割に特化したサーバーを増やしたい場合、全体の構成を大幅に変更する必要がある
- 新しいアプリケーションやAIワークロードなど、従来のシステムにない要件に対応するためのカスタマイズが難しい
のようなものが挙げられるだろう。
そこで、課題解決の支えになるのがエヌビディアの「ディスアグリゲート」なのだ。この技術は、総所有コスト(TCO)の削減やシステム効率の向上にも寄与している。
★ひとことポイント★
従来の「モノリシック」なインフラは、例えるなら…「フルセットの家電パッケージ」
→冷蔵庫、食洗機、電子レンジが一体化したもの。
→冷蔵庫だけ壊れたとしても、フルセットで買い替える必要がある。
一方、「ディスアグリゲート」は…各家電を「バラバラに」したもの
→冷蔵庫が壊れたら、それだけ交換すればよい。
→電子レンジをもっと高性能なものにアップグレードするのも簡単。
このようにイメージすると、わかりやすいですね!
まとめ
今回は、エヌビディアを支える2つの技術「「フルスタックかつフルインフラストラクチャなソリューション」と「ディスアグリゲート」についてお伝えした。
- エヌビディアは単にGPUを販売するだけでなく、そのGPUを最大限活用するためのソフトウェア環境やツール群も一緒に提供している(=フルスタック)。
- エヌビディアはGPUを中心にデータセンターの冷却システムやネットワーク構成など、AIスーパーコンピュータ全体の設計と統合をサポートしている(=フルインフラストラクチャ)。
- つまり「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」とは、AIスーパーコンピュータを「ゼロから完成品まで」設計・構築・運用するためのあらゆる要素を提供するソリューションである。
- エヌビディアはこの「フルスタックかつフルインフラストラクチャ」を実現するために、「ディスアグリゲート(分解)」技術を利用している。
- 「ディスアグリゲート」は、モノリシックなデータセンターの制約を克服するための方法。従来のサーバーの要素(CPU・メモリ・ストレージなど)を「分離」し必要に応じて再構成することを目指し、新たなAIデータセンターとして生まれ変わらせている。
このようなエヌビディア独自の進化した技術は、次世代データセンターの基盤を形成しており、これこそがエヌビディアが提供する技術の広がりと深さを表していると言えよう。
編集部後記
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