FG Free Report テスラの「Full Self Drive」、トヨタの「運転補助機能」(11月18日号抜粋)

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「完全自動運転化」した車が道路を走る光景は、いつか日常のものとなるのでしょうか。

現状として「Full Self Drive」のモットーを掲げているテスラと、「運転補助機能」という表現にとどめているトヨタ。この両者の違いはなんでしょうか。

今回は、そんな「クルマの自動運転と安全性」について、自動車関連株を専門とするプロのファンドマネージャーとご一緒に考えていきましょう。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)  

フェールセーフ(fail safe)に対する意識の違い

テスラのバッテリー爆発問題

さて、前回のレポートではトヨタ自動車の決算についてじっくりと見ていった。その中には、「これからはBEVではなくHEVなんだよ」というメッセージがあったが、今回は「クルマの自動運転」という側面から、自動車産業の現状に対する私の考えをお伝えしようと思う。

中国製電気自動車のバッテリーが頻繁に爆発しているという話はよく聞かれるが、実はテスラ(TSLA)も結構な頻度で爆発をしている。そして日本の新聞などのメディアでは殆ど報じられることが無いが、現地の新聞などでは、テスラのバッテリーが爆発して炎上という記事は、実は頻繁にある。

直近では、下の記事が新しい(2024年11月現在)。これはカナダで起きた事故で、クルマが何らかの理由で燃え始めたが、バッテリーが毀損したためドアの電子ロックが作動しなくなり、5人乗っていた若者のうち4人が車内で焼死したというものだ。1人は、通り掛かりの人が窓ガラスを外から割ったことで救出できた。

この事故の最初の問題は、なぜクルマが燃えたのかということにある。ただ、この写真の状況からすれば、バッテリーが衝突によって爆発したというのは想像に難くない。

次の問題は、バッテリーが毀損したことによりドアの電子ロックが作動せず、乗員が車内からドアを開けられなかったという点だろう。

本来はこうした事態を想定して、フェールセーフ(fail safe、機械やシステムに故障や異常が発生した場合でも、安全に動作・停止できるように設計された機能)の仕組みが発動すべきなのだ。

例えばベンツのドアノブは、外からウィンチやレッカーがドアノブにワイヤーを引っ掛けて引っ張り出せるような構造をしている。その理由は、車体が衝突などで歪んでしまった時でも、ドアを外せる力が掛けられることを想定している。(最近のベンツSクラスのドアはシームレスドアハンドルと言って、普段は外に出っ張っていない形式のものとなっているが、簡単に外に引き出せるようだ。)

かつて、デンソー(6902)のエンジニアと定期的に会合していた時があったが、その時に強く感じていたのは「そこまでエラーの可能性を考えているんだ」という驚きだった。

「何かが起きた時」に初めて役に立つのがフェールセーフの考え方であり、開発コストなどを考えたら、無駄に思えるのかも知れない。しかし、命にかかわる問題であるから、その基本発想があることとないことの間には、雲泥の差があると言えよう。

クルマの自動運転は日常的になるのか?

テスラの「Full Self Drive」という自動運転システムへの取組みは、早くから話題にはなっていた。

その一方で、トヨタ自動車などはまだ、「運転補助機能」という表現を超えたものを発表はしてきていない。

ただ冷静に考えれば、傘下の自動車部品メーカーなども合わせた技術力から考えれば、テスラだけが他社に先駆して「完全自動運転化」ができるというのはおかしな話だと気づく。要は、その「安全基準」をどこに置くか、フェールセーフをどう考えるかということに尽きる。

実際、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が現在、テスラのFSD(自動運転システム)を搭載した240万台の安全性について調査を行っている。つまり、当局もこれでは如何なものかとと腰を挙げたということだ。

話は逸れるが、日本国内ではトヨタの不正認証のことはいつまでも叩くが、ほとんどのメディアがテスラ叩きになるような記事、或いは電気自動車の否定になるような記事は取り上げることがない。こうしたテスラに絡む事故の話の裏には、ある意味では意図的にエコー・チェンバーを作ろうとしている人達がそこには居るようにも思えてならない。

同じチェンバーに入っている人達の思考は、結果的には一緒になってくる。つまり、違う意見が聞こえなくなり、同じ意見だけが反響して増幅されるかのように強調される。

そもそも、トヨタ自動車は1997年に初代プリウスを発売した時から今日まで、車載の大型バッテリーが爆発したことは一度もないという事実がある。これは決算説明会で公言もしている。トヨタにとって本当の「自動運転機能」とは、「クルマ作り」という「乗せている人の命を守る」という重要な使命を負ったモノ作りの発想を持った上で作られるものなのだ。

まとめ

タイムリーなことに先日、「今後トヨタは自動運転の時代についていけるのか?」という内容のコメントを公式YouTubeでいただいた。

今回の記事はそれにお答えするような形にもなったが、最も私がお伝えしたかったのは、

  1. トヨタ自動車はまだ『運転補助機能』という表現を超えたものを発表はしてこない。
  2. だが、傘下の自動車部品メーカーなどを合わせた技術力から考えれば、技術として自動運転ができないわけがない。(現にYouTubeなどで技術は公開されている)
  3. テスラのような新興自動車企業との違いは、『フェールセーフ』という考え方のもと、「乗せている人の命を守る」ことを第一に考えたモノづくりを行っているか否かだ。

ということ。ぜひ今後の投資活動の参考になれば幸いだ。

編集部後記

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公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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