FG Free Report ASMLと半導体製造装置銘柄(10月21日号抜粋)

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昨今注目の絶えない半導体関連銘柄ですが、ひとくちに半導体と言ってもその製造には様々な工程があり、そのために必要な装置も多岐に渡ります。

今回は、そんな半導体製造に欠かせない「露光装置」メーカーであるASMLが発表した決算に関連して、半導体の製造工程について理解を深めていきましょう。半導体関連株に詳しいプロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)  

右肩上がりのビジネス・トレンド ーASMLの作る露光装置とはー

ASMLの決算 〜半導体製造プロセスを理解する〜

先週、オランダの半導体EUV露光装置企業であるASMLの決算発表が行われた。売上高は74.7億ユーロ、純利益は20.8億ユーロでいずれも市場予想を上回り、前四半期の62.4億ユーロからの増加(+20%)と純利益の増加(+32%)を裏付けた。一方で、第三四半期の受注額が26.3億ユーロと、前四半期比で53%の減少となったことが、市場にネガティブなインパクトを与える結果となった。

そもそも「EUV露光装置」とは何なのか、みなさんはご存知だろうか。

半導体製造工程は、設計工程ウェハー製造工程前工程後工程に分かれており、ASMLが製造する「EUV露光装置」は「前工程」で必要な装置である。ちなみにこのEUV露光装置製造を行う企業は、世界で唯一ASMLだけだ。

半導体製造の前工程は、「成膜⇒露光⇒エッチング⇒洗浄⇒検査」という流れで行われる。

成膜
シリコンウェハー(半導体の基盤となる部分)の表面に薄い膜を形成する工程。その際、絶縁層を作り削ることで回路を作成する。また、感光材の層も作っておく。

露光
感光材に極紫外線(EUV)で光を当てることで、シリコンウェハーに回路パターンを焼き付ける工程。光が当たる部分と当たらない部分が分かれることで、回路が浮かび上がるイメージ。

エッチング
成膜された層から不要な部分を化学薬品や反応性ガスを使って除去し、ウェハーに正確なパターンを形成する工程。必要な部分だけが残るように削り取る。

洗浄
エッチング後のウェハーから、残留物や不要な微粒子を除去する工程。液体や薬品を用いてウェハー表面を清潔に保つ。

検査
レーザーや光を使って、ウェハーの表面に欠陥や異常がないかを検査する工程。高精度で品質をチェックし、不良品を除外する。

 

…半導体製造の前工程について文章にすると上記のようになるが、なかなか伝わりづらい部分も多いので、より噛み砕いて解説しているこちらの動画(FG公式YouTube)もぜひ一緒にご覧いただけると理解が深まるだろう。

ASMLの需要と連動する各プロセスと代表メーカー

これら半導体製造プロセスの各段階を担っているのは、もちろんASML一社だけではない。ここからはEUV露光装置の需要動向から見る、他のウェハープロセスへの連動性・相関性について考えてみよう。

ASMLの動向に強い相関を持って考える必要があるプロセスは、エッチングと計測だろう。

エッチング装置 ー露光後にパターンをウェハーに形成するための装置。

主要メーカー:Lam Research(LAM)東京エレクトロン(8035)

計測装置 ーエッチング後の精密な検査に使われる装置。

主要メーカー:KLA Corporation(KLA)

 

反対に、露光装置の動向と必ずしも一致しない、または露光行程以外の要因で成長を享受する可能性がある行程や装置メーカーも存在する。

成膜装置 ー成膜工程の高度化が求められるのは、主にAIや高性能計算向けのチップ(3D NANDやDRAM)の製造時。

主要メーカー:Applied Materials(AMAT)

洗浄装置 ーこちらもAIやデータセンターの成長に伴う製造量増加が、需要の拡大を促す分野。

主要メーカー:SCREEN Holdings(7735)東京エレクトロン(8035)

おまけ:ASMLと、その他の半導体製造プロセスとの関わり合い

ASMLの決算内容やEUV露光装置の動向、さらに半導体市場全般に関連するトレンドと、日本企業で半導体製造装置銘柄として株式市場が好む、アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)といった企業の関係は以下のように整理することができる。それぞれが異なるプロセスを担っており、ASMLのEUV技術に関連する部分を含めて独自の役割を持つため、各々異なる観点から市場への影響を受けると考えられる。

テスト装置(後工程)

    • ASMLとの関係:半導体製造プロセスの最終段階で使用されるため、直接的な影響はあまり受けない。AIチップや最先端ノードでの需要が高い。
    • 主要メーカーアドバンテスト(6857)

EUVマスク検査装置(前工程)

    • ASMLとの関係:EUVマスク検査装置はASMLのEUV装置の需要と密接に連動している。マスクとは、露光装置の中で言わば「フィルム」の役目を果たす部品のこと。
    • 主要メーカー:レーザーテック(6920)

ダイシング装置や研削装置(後工程)

    • ASMLとの関係:ダイシング装置や研削装置は、露光プロセス以降に使用されるため、露光装置の需要に直接的な影響を受けにくい。むしろ、AIやデータセンター向けのチップ需要が高いことから、半導体全体の製造量が維持されることで安定する分野。
    • 主要メーカー:ディスコ(6146)

総括として、これら3社のうちレーザーテックがASMLの受注減による影響を最も強く受ける可能性が高いと言える。

ただ誤解なきように付け加えれば、これはASMLの動向との関係の話であるので、全体需要やそもそも個別に各銘柄が適正なバリュエーションで売買されているかなどは、別途議論する必要があることを忘れてはならない。

まとめ

いかがだっただろうか。

最近でこそ、株式市場も半導体製造装置の前工程と後工程の区別ぐらいはするようになったと見えるが、間違いなく以前は「半導体製造装置」というのは1つのカテゴリーとして扱われていた。初期の半導体は相当にシンプルにできており、種類も少なかったのが理由の一つだ。

ただし昨今は、半導体そのものがロジック系とメモリー系という以外に、更に種類が細分化されその用途も大きく分かれてきている。「半導体関連銘柄」という大雑把な括りは言うに及ばず、「半導体製造装置銘柄」についてもその用途や市場動向を個別に捉えて適切に対処をしなければ、無用な投資損失を出したり投資機会を逸したりしてしまうような未来は近い。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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