FG Free Report アップルのビジネスとエッジAI(3月18日号抜粋)

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今年9月に発売されたiPhone16は、新しいエッジAI機能やカメラ機能を搭載するなど多くの人々の心を掴みました。ただ、アップルのすごさは、スマホだけではなく、その確立されたビジネスモデルやAI技術にあると言えるでしょう。

今回は、そんなアップルのエコシステムと技術革新について、プロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド

アップルのビジネスモデル、Googleとの違い

マグニフィセント7の中でアップル(AAPL)の株価運びがCY2024になって以降、継続的にNASDAQ総合よりもアンダーパフォームしている。その最大の理由は、市場の目線が「スマホの売上」に集中しているからだろう。中国国内でのiPhone売り上げのダウンターンや、EUが全面適用を決めた「デジタル市場法(DMA)」による欧州域内におけるアップルストアの解放、そしてアップルカー開発からの撤退など、気の毒に思えるぐらいネガティブ・ニュース・フローが続いた。

しかしそのような中でも、iPhoneシリーズが人々の気持ちを捉え続けられている理由は、決してスティーブ・ジョブズ由来のアップルのファンション性だけではない。アップルが常に、「アップル製品による顧客満足度」という視点を大切に持ってきたからだ。

その端的な例のひとつに、アップル製品の梱包の美しさがある。こうした拘りは、OSだけ提供し、ハードは別の会社がつくるandroidOSのビジネスモデルでは相当に異なるものだ。もちろん、GoogleもオリジナルのAndroidスマホである「Google Pixel」を提供しているが、残念ながらその勢いは加速していない。iPhoneとの違いはやはり、顧客満足度を考えたエコシステムの存在にあるのだろう。

ではその、アップルのエコシステムとはどのようなものだろうか。それは単純にiPhoneというスマホ端末が売れるか、売れないかで判断するべきものではない。

アップルの最先端半導体は、常にTSMCの最先端技術で作られている。その時、iPhoneなどのスマホ系に使われるCPUのAシリーズと、MacパソコンのCPUとなるMシリーズは通常は常に同じデザインルールだ。またiPhone、iPad、Macなどのデバイスはエッジデバイスとして機能し、そこで生成されたデータや処理がiCloudを介して管理・同期される。この構成により、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの間での処理の分担が確立できるのだ(そしてほとんど現在の株価はそれを理解して動いていない)。

別の言い方をすれば、すべてのアップル製品間での連携性の高さや、デザインの統一感、操作慣れといった利点をユーザーが享受できることで、どんどんアップル製品のファンが増えていく仕組みなのだと言える。

このようなアップルのエコシステムを正しく理解すれば、単純なスマホの売上数だけで市場が動くことはなくなるはずである。

アップルのAI技術①大規模言語モデル「Ferret」

アップルは、独自の大規模言語モデルにも積極的に取り組んでいる。

特に注目すべきは、「Ajax」と呼ばれる生成AIモデルの開発で、OpenAIのGPT-3やGPT-4に匹敵する能力を持つとされ、2000億パラメーターを基に構築されている​​。このモデルは、Appleのプライバシーに対する厳格な姿勢を維持しながら、市場の要求に応じて進化する可能性がある。

さらに、Appleは「Ferret」と呼ばれる新しいオープンソースのマルチモーダルLLMを2023年10月にリリースしている。マルチモーダルAIとは、画像・テキスト・音声・動画などの複数のデータを統合して処理することのできるAIである。

ここで、具体例を挙げてみよう。あなたは公園の写真を持っていて、その中の特定の木や花についてもっと詳しく知りたいとする。Ferretを使用すれば、その木や花を囲むように領域を指定し、「これは何?」と問いかけるだけで、その植物の名前や種類、さらにはそれに関連する情報を得ることができるのだ。

Ferretの公開は、AppleがAI技術における透明性を高めようとしていることを示しているが、現在のところ商用利用はまだできない。ただ将来的にAppleの製品やサービスで利用される可能性はある。

アップルのAI技術②ニューラルエンジン

アップルは、ニューラルエンジン(Neural Engine)も独自開発している。これは、人工知能(AI)、機械学習(ML)、拡張現実(AR)などのアルゴリズムを高速かつ効率的に処理するために設計された。

このニューラルエンジが、Face ID、Memoji、Siriの理解向上、Photosアプリ内での画像検索など、ユーザー体験の中核を成す多くの機能に貢献していることは、あまり市場で意識されていないようだ​​。特にMac用のM3シリーズのチップは、ニューラルエンジンがさらに高速化され、初代M1ファミリーのチップと比較して最大60%の速度向上が達成されている​​。

ニューラルエンジンは、特定のタスクを高速に処理するだけでなく、写真のテキスト読み取りや日常のアプリ使用パターン予測など、ユーザーの日常生活を豊かにするためにも活用されているのだ​​。

アップルの技術進化というのは、自然にジワジワと身近に浸透してきた。逆に言えば、違和感のない変化だからこそ、写真や動画がなぜいつでもどこでも昔からは考えられないほど綺麗に、また芸術的にも撮れるようになったのか、その理由を利用者を含めた多くの人が理解していないのかも知れない。

今年9月には、A18チップを搭載した新作iPhone16が発売された。それに加え、アップルが独自のAI「Apple Intelligence」を開発発表したことも、記憶に新しいだろう。Apple Intelligenceは、iPhone 16の全モデル、iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Max、M1以降を搭載したiPadとMacで使用可能だ。日本語対応は来年2025年からだというが、今後のアップルのエッジAIに大きな期待が寄せられている。

まとめ

今回は、以下の内容でアップルのビジネスモデルやAI技術についてお伝えした。

 

  1. アップルが常に、「アップル製品による顧客満足度」という視点で独自のエコシステムを維持してきたことが、ユーザーに愛され続けている理由である。
  2. アップルのビジネスモデルは、OSだけ提供し、ハードは別の会社がつくるandroidOSのビジネスモデルとは異なるものである。
  3. アップルは、「Ferret」と呼ばれる独自のマルチモーダルLLMを2023年10月にリリースしており、今後近い将来に商用利用可能になることが期待されている。
  4. さらに、独自のニューラルエンジンや生成AI「Apple Intelligence」など、アップルは市場に新しい風をもたらしてくれるだろう。

 

いかがだっただろうか。投資活動を成功に導くためには、やはり企業のファンダメンタルズを理解することがものを言う。

特に、アップルの技術革新は非常に自然に行われてきたものなので、小さな変化のように思えるかもしれない。しかし、アップルはかなり大きな進化を遂げているということを、市場はもっと意識すべきである。

だから、「iPhoneの売れ行き」に左右されがちな市場の動きとは別に、アップルのエコシステムや最新技術にぜひ着目してほしい。

編集部後記

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ファンドガレージ 大島和隆

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