みなさんは、ブロードコム(AVGO)という会社をご存じですか。同社は、今話題のエヌビディアに代表される「AI・半導体」関連分野で成長を見せている企業の一つです。
今回は、ブロードコムが持つ「AI半導体」と、同社傘下にあるVMwareの「仮想化技術」のビジネス・トレンドについて、プロのファンドマネージャーの視点でお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
AI時代に欠かせないブロードコムの技術
ブロードコム(AVGO)の歴史
ブロードコムという会社をご存じだろうか。マグニフィセント7にも数えられるテスラを超える時価総額を持つ企業であり、コンピュータネットワークおよび通信ネットワーク全般をカバーする半導体を作っている企業である。
かつてのティッカーシンボルは「BRCM」であったが、サンノゼ(シリコンバレー)に本社を移してからは「AVGO」に変わっている。
元々AVGOは、Avago Technologies(アバゴ・テクノロジー)という名前の会社だったが、2016年2月にブロードコムを買収した。つまり、今では名前はブロードコムでも、実態はアバゴ・テクノロジーということになる。ブロードコムはその後もさらに、
- 2016年11月 ブロケード コミュニケーションズ システムズ(通信機器製造企業)
- 2018年7月 CAテクノロジーズ(ソフトウェア開発企業)
- 2019年8月 シマンテック(ウイルス対策ソフト大手企業)
- 2022年5月 VMware(仮想化ソフトウェアとクラウドコンピューティング開発・販売企業)
を買収している。特に最後のVMwareは、仮想化市場で世界一のシェアを誇り、Dell technologiesが所有権の8割を手放した相手先でもある。
先に述べた通り、この会社が開発するのはネットワーク接続を必要とするデジタルデバイスには必ず搭載されている、以下の写真のような半導体である。恐らく、パソコンのマザーボードや、スマホの中身などを分解したことがある人ならば、このような半導体を見たことがある人もいるだろう。
ブロードコムの「AI半導体」とは?
ブロードコムのAI半導体は、AIスーパーコンピューターや大規模データセンター内のAI作業を最適化するために開発された。代表的なものに、「Jericho3-AI」というASICチップ(特定の用途向けに作られたICチップ)が挙げられる。これは特に、AI計算タスクの実行時間を短縮し、全体のシステム効率を向上させることを得意とする半導体だ。
そしてこの技術は、エヌビディアのInfiniBand技術や、シスコなどと競合にある。投資家レベルでは、詳細な技術内容について把握するのは難しいが、とにかくAIデータセンター専門のネットワーク技術が存在し、今後のビジネス・トレンドになるだろうということは認知しておく必要がある。
なぜなら今後、「アクセラレーテッド・コンピューティング」の需要が高まるほど、その重要な要素の一つとして、こうしたAIデータセンター専門のネットワーク技術も高まっていくことが予想されるからである。
同社のHock Tan CEOは、「AIデータセンターでのネットワーキング製品への強い需要、およびハイパースケーラー※1からのカスタムAIアクセラレーター※2が、半導体セグメントの成長を牽引している」と指摘している。
※1…ハイパースケーラーとは、巨大なデータセンターを運用し、クラウドコンピューティングやストレージ、ネットワーキングなどを大規模に提供する企業を指す。例えば、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP)などである。
※2…カスタムAIアクセラレーターとは、ハイパースケーラーがAIモデルの訓練やデータ解析をより効率的に、高速に実行するのを助け、ビジネスやサービスの革新を加速させる役割を果たすものである。
ブロードコム傘下 VMwareの「仮想化技術」とは?
ブロードコムの傘下にあるVMware(VMW)は、仮想化技術で世界シェアトップを誇る。冒頭でも触れたとおり、Dell technologies(DELL)の子会社DELL EMCが8割の所有権を手放したのが、このVMwareだ。
さて、まずは「仮想化技術」とは何かを紐解いていこう。「仮想化技術」とは、1台の物理的なコンピューター上で、複数の仮想コンピューター(仮想マシン)を動作させる技術だ。
仮想マシンとは文字通り「仮想の」、あるいは「ソフトウェアのみで作成された」コンピューターのことであり、物理的に目に見えるハードウェアデバイスと同じように動作する。
例えば、新しいOSを試す場合、この仮想マシンが有効である。具体的には、物理的なコンピューターのリソース(CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークなど)を仮想マシンに割り当てることで、複数の仮想マシンが同時に動作し、それぞれが独立してOSを実行することが可能になる。
この仮想化技術を利用する利点としては、
- 1台の物理的なコンピューターを複数の目的に利用できるため、ハードウェアの効率が向上する
- 独立して動作するため、異なるOSやアプリケーションを同じコンピューター上で実行できる
- 仮想マシンの管理や移行が容易になる
ことが挙げられる。
そして、この「仮想化技術」のトップを独走するのが、VMwareなのだ。
VMwareが提供する、VCFとは?
VMware Cloud Foundation(VCF)とは、VMwareが提供するクラウド・インフラストラクチャ・プラットフォームである。これは、仮想化やネットワーキング、ストレージ、またはセキュリティなど、企業のITインフラストラクチャ全体を包括的に管理するためのソフトウェアパッケージだ。
VCFは、オンプレミスのデータセンターからパブリッククラウドまで、さまざまな環境で展開できるため、異種のワークロードやアプリケーションを柔軟にサポートするという利点がある。
例えば、オンプレミスのサーバー上でリソースが不足した場合、VCFを使えばパブリッククラウドのリソースを利用して追加の容量を確保できるのだ(このようなアプローチを、「ハイブリッドクラウド」と呼ぶ)。
企業や組織が競合と競い合うためには、独自のアクセラレーテッド・コンピューティングのインフラストラクチャーを構築していく必要性があるが、それらを最大限無駄なく効率的に使うためには、ブロードコムの技術は必要不可欠であると言えよう。
また今後、エッジ・コンピューティング機能が展開し、そこで多くのデータが作られ、それがエッジAIとして機能も果たしていくようになるとき、セキュリティの向上という点でもブロードコムの必要性は高まるだろう。
まとめ
今回は、以下の内容でブロードコムの技術についてお伝えした。
- ブロードコム(AVGO)は、コンピュータネットワークおよび通信ネットワーク全般をカバーする半導体を開発・販売する企業である。
- 中でも「AI半導体」は、AIスーパーコンピューターや大規模データセンター内のAI作業を最適化するためにブロードコムが開発した。
- これは、エヌビディアのInfiniband技術やシスコと競合関係にあり、今後さらにAIデータセンター専門のネットワーク技術の需要は高まっていくだろう。
- ブロードコムの傘下にあるVMware(VMW)は、「仮想化技術」で世界トップシェアを誇る。
- 「仮想化技術」とは、1台のコンピューターを複数の仮想環境に分割することで、リソースの効率化や柔軟性の向上を実現する技術である。
ブロードコムの提供するAI半導体と、ブロードコム傘下のVMwareの仮想化技術は、これからのアクセラレーティッド・コンピューティングを支える「右肩上がりのビジネス・トレンド」だと言えよう。
編集部後記
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