昨今、日毎に勢いを増しているエヌビディア(NVDA)ですが、みなさんはその強さの秘密である「CUDA」を知っていますか。「CUDA」は、エヌビディアが開発した専用のプラットフォームで、エヌビディアのGPUを支える根源です。
同じロジック半導体企業であるAMDやインテルも、なかなか追いつくことができないエヌビディアの技術「CUDA」。今回は、その強さと、AI時代における投資家の心得についてプロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
いよいよエヌビディア(NVDA)の四半期決算が目前に
今週はいよいよ、米国国民にとって1年のうちで最も重要なイベントである、「Thanksgiving(感謝祭)」(毎年11月の第四木曜日)の週となる。当日は、全米で多くの小売店(百貨店やスーパーも含む)がお休みか、この週は休暇を取って帰省する人が多く、家族でゆっくりと過ごす1週間が始まる。
だからと言って、NYSE(ニューヨーク証券取引所)が休場となるのはThanksgiving当日のみであり、商いが薄い中で悪さをするヘッジファンドが現れないことを祈るのみだ。
そんなのんびりとした1週間の中で、現地時間の火曜日には、大注目のエヌビディア(NVDA)の決算発表が行われる。
その結果を受けて、株式市場がより一段と強気になるか、一旦は失望して「上げ一服」となるか、市場参加者の中で分かる人は誰もいない。
ただ、エヌビディア(NVDA)の場合、現在は「AI」という時代の流れが大きく株価を後押ししているのが事実だ。
なぜなら、エヌビディアのGPUがなければ、現在の優秀なAIは成り立たないからだ。AIを自社で使いたい、AIを使ったサービスを顧客に提供したい、などと考える企業は、現在はこぞってエヌビディアのGPUを購入するしかないとさえ言える。
エヌビディアの「CUDA」というプラットフォームの存在
では、なぜエヌビディアがそうまで強いのかを考えてみたことはあるだろうか?
もちろん、エヌビディアはGPUの老舗であり、ハードウェアとしてのGPUの能力がずば抜けていることも事実だ。
しかし、もうひとつ重要なことがある。それは、「CUDA」と呼ばれるソフトだ。
CUDA(Compute Unified Device Architecture)とは、NVIDIAが開発したGPUを使って、高速な計算を行うためのプラットフォームとプログラミングモデルを提供するもの、開発環境だ。
NVIDIAはこのCUDAを2006年に発表し、AI開発者におけるデファクトスタンダード(=「事実上の業界標準」)となっている。
一般的に、GPUはビデオゲームやグラフィックス関連の作業に使用されるものだったが、このCUDAを使うことで、科学計算・工学的なシミュレーション・データ解析など、さまざまな高度な計算作業にGPUが利用できるようになった。当然、画像処理だけでなく、ディープラーニングなどのAI技術を活用した開発に、CUDAもはや必要不可欠な存在となのだ。
実は、GPU自体はアドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)も作っているし、インテル(INTC)もAIチップを開発している。さらに、クラウド・サービス・プロバーダーである「AWS」のアマゾンドットコム(AMZN)、「Google Cloud」のアルファベット(GOOG)、あるいは「Azure」のマイクロソフト(MSFT)も、GPUや同等の演算が可能な半導体を開発製造している。近時は、これにアップル(AAPL)やクアルコム(QCOM)なども加わり、しのぎを削っている状態だ。
だが、このCUDAが他のGPUを開発している企業との大きな差別化ポイントとして、NVIDIA製品がAI開発者に圧倒的に支持されている大きな理由の1つとなっている。
実際、エヌビディアのCUDAに類似する技術として、他のハードウェアベンダーが提供する代替技術はいくつかある。主なものは以下の通りだ。
- AMD ROCm (Radeon Open Compute Platform):
- オープンソースのGPUコンピューティングプラットフォーム。
- AMDのGPUに特化しており、高性能コンピューティング・機械学習・データ分析などに利用される。
- CUDAよりも後発であるため普及度はまだ低い。
- OpenCL (Open Computing Language):
- 異なる種類のプロセッサ(CPUやGPUなど)での並列コンピューティングが可能。
- NVIDIA・AMD・Intelなど、複数のハードウェアベンダーによるサポート有り。
- 汎用性は高いが、特定のハードウェアに最適化されていないため、場合によってはCUDAよりもパフォーマンスが劣ることがある。
- 普及度は広範にわたっており、多くのプラットフォームで利用されている。
- Intel oneAPI:
- Intelのハードウェアに特化しており、特にIntelのGPUやXeonプロセッサ向けに最適化されている。
- 普及率はまだ低い。
これらの技術は、CUDAと同様に高性能コンピューティングの分野で重要な役割を果たしているが、現状CUDAには及んでいない。
ならば次の議論は、AIがどこまで普及しているのかということになる。
こうしたものは、ある一定以上の普及率に達した段階で、需要が急減し、より高性能な新商品を開発するか、あるいは時間が経過しての更新需要しかなくなる。その最たるものがパソコンであり、スマホだ。ローエンド・モデルの汎用品と呼ばれるものが登場する頃には、市場は飽和状態になっている。
AIの普及度を考えて、ビジネス・トレンドをつかもう
では、「AIの現状の普及度はどの程度か?」を考えてみよう。
今や、世界第二位の経済大国になった中国の習近平国家主席が、わざわざサンフランシスコまで出向いて「AI向けの最先端半導体を輸出しないのは不公平だ」と言わしめる程に、その世界的な需要は大きく、とてもローエンド・モデルの汎用品といったものが登場する段階にはなっていない。
というよりむしろ、AIはまだ極めて初期の段階にあるといえよう。実際周りを見回してみて、適切なAIの現状評価を持っている人はそう多いとは思えない。多くは「そもそもまだ使ったことがない」とか、「少し試してみた」程度の人が多いようだ。
企業サイドでは、「積極的に使いなさい」としているところもあれば、「業務にChatGPTなどのAIを利用することは禁ずる」としているところも見受けられる。実際に業務フローに取り込んで利用している人は、案外少ないのかも知れない。
これはなぜなら、AIがまだ「未知なる存在」であるからに他ならない。
そこにあるのは「過大な期待」である場合もあるし、単に「新技術のアダプテーションに後ろ向き」ということもあるだろう。つまり、「AIなんて・・・」という言葉の後に続くのは、得てして「等身大のAIの現状」を適切に捉えたものではない場合が多い。
そもそも、短期的(3カ月毎)な企業収益予測をピンポイントで立てることに必死になるのは無意味である。なぜなら、未来を見てこれる人はどこにもいないからだ。
ならばその結果発表を待つまで、投資家は「数字当てっこゲーム」の参加者としてギャンブルをするだけなのだろうか。
いや、間違いなく、その答えは「NO」だと言える。投資の目的は、「当たった、外れた」で一喜一憂することではないのだ。
収益予想を精緻にデータから予測しようとする人もいるが、どんなに精緻な予測モデルを作ったとしても、四半期毎の決算数値を完璧に予測できる方法はない。
できることと言えば、傾向値を探り、その傾向値の集合体としてのトレンド分析をすることだけだ。そのような意味で、投資家の仕事は「刑事」の仕事に似ているかもしれない。状況証拠を集めては推論し、更に状況証拠を集めては、より適切だろうと思われる推論を立てるのが仕事だからだ。
だからこそ、大きなデザインを描いて、その流れを確認してみる必要性がある。それこそが、「右肩上がりビジネス・トレンド」なのだ(Fund Garageでは毎週、有料版記事で「右肩上がりのビジネス・トレンド」をお伝えしている)。
だからこそ、「良い決算だと嬉しいな」とは思いつつも、この火曜日に過大な期待もしていないというのが実態だ。それでも、結果はあとからついてくるのだから。
まとめ
今回は、以下の内容でエヌビディアのCUDAについて解説した。
- Thanksgiving明けの来週、市場が大注目のエヌビディア(NVDA)の決算発表が行われる。
- エヌビディアの強さは、CUDAというプラットフォームにある。CUDAは、GPUの用途を、画像処理のみならず高度な計算やデータ分析などの並列処理にまで広げることを可能にする。
- AIはまだ未知のもの、あるいは極めて初期段階のものであり、普及度はまだ高いとは言えない。
- 投資は、一時的な株価の上げ下げで一喜一憂するようなギャンブルではない。日々情報を集めて精査することで、ビジネス・トレンドを掴んでいこう。
エヌビディアの強さが、単にGPUの物理的な性能優位性だけではなく、CUDAにあるということがお分かりいただけたと思う。
CUDAの長年にわたる開発と広範な採用により、特にGPUコンピューティングの分野ではCUDAがリーダー的な地位を築いているのが現状だ。つまり、パソコンに喩えるならば、Windows OSを提供するマイクロソフトのような存在だと言える。
AI時代のリーダー的存在であるエヌビディアの決算発表に、世界中が関心を寄せていることに間違いはないが、こんな時こそ冷静さを求められるのが我々投資家であると私は考える。
編集部後記
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