「市場予想」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。朝のニュースで「今月の雇用統計は市場予想から~~」などと聞いたことはありませんか?
市場予想とはそもそも何なのか、そして市場予想とはどのように付き合っていくことが大切なのか。
皆さまの疑問に、ファンドマネージャーの視点からお答えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
市場予想から得られるものとは
先週についての総論
先週の各市場の動きは下記の通り。
日本市場は前週の下げを取り戻した程度だった。一方、米国株式市場はNYダウがこの2週間で10%以上の値上がり。決算が振るわなかったビッグテックがメインのナスダックでさえ、2週間では7.46%の上昇となった。表には記載していないが、フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)も2週間で12.55%もの上昇になっている。その意味では一番上昇したのは半導体関連株の指数といえる。
しかし、この一週間のニュースフローは決して平穏では無かった。ポジティブ・ネガティブそれぞれ見ていこう。
ポジティブ
- 辞任した英国の首相の後任(スナク元財務相)が無事に当選を果たし、英国の混乱が収まる兆し。
- 英国バークレイズで働いていた時にも感じていたが、日本は欧州系の話題に対する感度が低いことは問題だ。
- 米個人消費支出の伸びが加速し、個人消費支出が引き続き堅調に増加している。
- 景気が良いことの証左だが、利上げ加速に対してもポジティブに働く。
ネガティブ
- 米消費者信頼感指数が市場予想より大幅に下げ、2021年4月以来の低水準となった。
- 米消費者信頼感指数とは消費者の感情をアンケートで調査して指数化した景気関連の経済指標で、高いと経済が好調と判断される。
- 大型ハイテク株(GAFAMとインテル)の決算はほぼ全敗であった。
つまり、好材料・悪材料が混在していたのが先週の米国株式市場だ。その中で米国株式市場は大幅上昇という結果だった。取り分け、週末の大幅上昇については戸惑っている市場関係者も多いだろうと思う。
様々なニュースのあるこの状況で、市場予想とはどう見ればよいのだろうか。
市場予想とはそもそも何なのか
市場予想とは日経新聞によれば、
金融機関のアナリストなど専門家による企業業績や経済指標の事前予想のこと。予想値の平均である「コンセンサス」を市場予想と呼ぶこともある。会社側は1期分の業績予想のみを開示する場合がほとんどだが、アナリストは数期先までの予想を算出することが多い。将来の成長性を見通す際に役立ち、多くの投資家が判断材料として活用するため、株価に与える影響が大きい。(日本経済新聞「市場予想とは 投資材料、株価に影響大」, 2020.3.3)
だという。
さて、市場予想とはどの程度重要なのだろうか。
「市場関係者」と呼ばれる人種は2種類に分けられる:
- 市場を解説したり分析したりして評価・コメントを発する人達
- 他人に何かを伝えることなく黙々と投資判断を行い、その結果責任を負う人達
の2種類だ。アナリストやエコノミスト、或いはストラテジストなども前者に入る。メディアも当然前者だ。そして「市場予想」も前者の人達が作る。
だが実際、株価も債券価格も作るのは後者の人達であり、彼らが前者の発信した情報も参考にしつつ、後者の判断で市場を動かしている。
つまり、前者が何を言わんと、後者の判断の集積が数値(株価)であり、投資家が影響を受けるのは当然数値の方だ。
確かに市場予想を確認することは大事だ。だが本来は、多分に分析者の意見が入った市場予想ではなく、実際の数値を確認することが最も重要なのである。
市場予想に対する勝ち負けに意味は無い
結論は見出しの通り。だが、このところの市場動向に大きく影響を与えているのは「市場予想に対する勝ち負け」だ。
雇用統計のようなマクロの話にしても、企業決算のようなミクロの話にしても、市場は「市場予想よりも良ければ〇」であり、「市場予想よりも悪ければ×」という反応を示している。これは非常に安易な脊髄反射と言わざるを得ない。
だが仕方ない面、これを進化だと捉えられる面もある。ネット社会が発展し、その意味では効率的市場仮説が唱えるように、情報は瞬く間に広まるものであり、予めそれを取得しようと準備している者にとっては発表と同時にデータを取るなど簡単だ。それを事前にプログラムに組み込まれた市場予想と比較して即座にオーダーに繋げることも可能だ。これは技術の進歩である。
本来株価と言うのは、仮に決算発表が市場予想と結果的にある程度違うものであったとしても、事前にそれをある程度は不思議と見込んで織り込んでおり、余程のことが無い限り「突拍子もないほどの乱高下」をするものでは無かった。実際その為にアナリストという職業があり、決算発表の事前に「良さそうだ」或いは「悪そうだ」という「アナリシス」を公表し、その内容に従って株価が上下したものだ。
もちろん、「ソニーショック」と呼ばれるような「予期せぬ収益悪化」だということで株価が急落することはあった。それは正に市場も「不意を突かれる」ような内容だったからというのが基本で、多くは不思議なぐらい、「株価の先見性」などと言われる通り、市場は先回りした動きをしていた。
だが、情報社会の進化と共にプログラミングによる売買が加速し、市場は「市場予想に対する勝ち負け」で一旦は大きく上下に動くようになった。
では個人の投資家は、瞬間売買のプログラムの技術など持ち合わせない一般人は、投資で資産を形成したいと思う層はどうしたらいいのか?どのように市場予想と付き合えばよいのか?
答えは簡単だ。
正しく冷静に、常識的に考えたもの、世の中の動きを俯瞰して得られる答えに従えば良い。
決して「市場予想の勝ち負けで一喜一憂する」「それらしい数値をでっち上げる」必要などない。
皆さまがこの考えで投資を成功できるよう、Fund Garageでは「右肩上がりのビジネストレンド」をご紹介している。
金利の動きから見る市場予想
今週の米国債券市場の動きは非常に示唆に富むものだった。こちらのイールドカーブ(利回りと債券の残像年数のグラフ)をご覧いただきたい。10年債の動きを見てることで、債券市場が今後の経済・金融政策がどうなると見通しているかがわかる。
やはり金利水準3%と6%の中間点となる4.5%のところには大きな壁があるらしい。目下のところ、そこを大きく超えていける、つまり利上げをしても景気はリセッションに陥らないと信頼できるデータは得られないようだ。市場金利はその手前で足踏み状態となっている。
ちなみに、期間の短い金利は週末現在が一番高いところへと上昇してきているが、これは来週のFOMCで0.75%の利上げがあることを織込みにいっただけだろう。
先週一週間に絞ったイールドカーブの動きは以下の通り。
チャート下部の凡例をみながら、時系列に前週末10月21日からの毎日の動きを見て欲しい。10年債金利は木曜日まで毎日順調に低下している(黒→黄→緑→茶→青)。そして週末に発表になったPCE(前述)の結果をみて、ギリギリ4.01%に小戻しして終わっている(赤)のがわかる。
債券市場が織り込みに行ったものは、GAFAMの決算から見えてくるマクロ動向だろう。
企業決算に対して市場が実際に注目するのは、終わった期の実績ではなく、企業経営者がリアルに社会を見ながら、その景気実感から予想する今期や来期の未来予想だ。ましてやGAFAMのような巨人から見えているものは、それこそ全米だけの話では無く、ほぼ西側全世界の先々の見通しだ。
GAFAMの決算が悪い、力強いガイダンスやアウトルックが出てこないということは、それらが先々を警告しているということであり、債券市場はそれを素直に織り込んでいるのだろう。これが数字から見る「市場予想」今後の経済の予想だ。最近の株式市場は、本来は株価が景気の先行指標であるということを忘れたのか、1,2カ月前のマクロ統計を振り返ってばかりなことは嘆かわしいことだ。
流石にショート筋は買い戻し始めている
ここはわかる人だけ見てもらえれば大丈夫だ。
売る人、ショートポジションを狙う人、が新たに出てこなくなれば、株価は下がらなくなる。オプションを買い漁ってヘッジを完了させてしまえば、そのオプションのマーケットメーカーを含めて、新規に売りやショート(基本的に同じ意味)を仕掛けてくる人は居なくなる。またショートのポジションを作るのは基本的にコスト(株を借りてくる金利相当分)が掛かるので、長くは続けていたくない。だからこそ、思ったように市場が下落して利益が稼げないと、徐々に痺れを切らして買い戻してくる。それを如実に表しているのが、お馴染みのS&P500とVIX指数のチャートだ。
ただ先週末のVIX指数は26まで大きく低下したので、慌てた買戻しニーズは一旦目先は落ち着くだろう。ただこうしたことで売買を執行する投資資金は、どちらかと言えば投機的な資金であって、ロングターム・インベスターではない。ロングターム・インベスターはこうした市場の変調を見極めながら、バリュエーションを見つつ、やがて入ってくる筈。
右肩上がりのビジネス・トレンド
GAFAMの動きが示唆するもの
まずは下記のチャートを見て頂こう。GAFAM5銘柄のナスダック総合に対するパフォーマンス比較のチャートだ。見事なまでにアップル(AAPL)を除く4銘柄は足許決算発表後に大きく売り込まれた。
さて、ここで考えてみて頂きたい。もし暮らしの中からGAFAMが無くなったらどうなるかということを。アマゾンドットコムが無くなり、マイクロソフトが無くなり、グーグルが無くなり、Facebookがなくなり、そしてアップルが無くなった状態だ。その答えは「有り得ない」、言い換えるならば「石器時代に戻ったようになる」ということだと思う。
おそらく、ネット通販が無くなるのは困るとか、FacebookやInstagramが使えなくなるのは困るという次元以上にもっと困ることがある。それを端的に表したチャートがこれだ。これは世界のクラウドサービスのマーケットシェアを表している。2022Q2現在、アマゾンのAWSが31%、マイクロソフトのAzureが24%、アルファベットのGoogle Cloudが8%となり、この3社で市場の2/3を支配する寡占状態、取り分けAWSのそれは圧倒的とも言える。これらがもし無くなると、世界中のITシステム、すなわち金融サービス、通信サービス、行政サービス、公共インフラの管理コントロールなどが止まる。
Googleが無くなると、いきなり辞書、地図などアナログな知財を購入する必要が生じる。当然、マイクロソフトのTeamsが無くなればリモート・ワークは夢と消え、officeソフトが無くなれば、全員出社して手書きで表をまとめ、企画書を書くことになる。現代人の生活には、圧倒的なシェアでGAFAMの商品やサービスは、見えるところ、見えないところで浸透しているということだ。
逆に言えば、GAFAMの経営状態、決算状態こそ、世界経済の景気実態を示していると言っても過言ではないだろう。今やテレビなどのブロードキャスティングに頼る世代のマジョリティは高齢者層であり、所謂現役世代はYouTubeやSNSに割いて過ごしている時間の方が圧倒的に多い。だからこそ、ターゲット・マーケティングも行えるそれら媒体こそ、企業にとって最適な広告媒体となったのだ。景気が悪くなれば、最初にカットされるのが広告宣伝費。それを肌身に感じているのがYouTubeを運営するアルファベットであり、Facebookなどを運営するメタプラットフォームズだろう。
だから私にはこれらが「無くなる」とは決して思えない。「バリュエーションの修正」という言い方、最近では「マルチプルの低下」みたいな言い方をする人もいるが、どちらも同じ意味であり、その低下は充分に既に数種のチャートでお見せしたように完了していると言える。
まとめ
インターネット社会の発展、プログラミング技術の発展に合わせて、市場予想に対する反応は株価の反応は苛烈になっている。
しかし、実際に重要なのは、アナリストの予想でもメディアの悲観的なコメンテーターの発言でもない。大事なものは、実際に市場を動かしている人の数字と、企業経営者がリアルに社会を見ながら予想する今期や来期の未来予想だ。
是非この記事を読んだ皆さまは「市場予想」なるものに踊らされず、「右肩上がりのビジネストレンド」に従った投資判断を行ってほしい。
決して人智は万能ではなく、市場に対してのスタンスが傲慢になった途端、どこかで天誅が下る。
これが今号最大のメッセージだ。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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