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現役で機関投資家のファンドマネージャーとして数千億円を運用していた時でも、投資額が数百万円にしかならないIPOの勧誘に対してでさえ、必ずしてきた質問があります。「御社は何故IPOをするのですか?」すなわち上場する意図はなんですか?ということです。そして正直、余程のストンと腹落ちする理由が無い限り、自分の運用するファンドでの引き受けはお断りして来ました。

大手の運用会社には日々多くの証券会社が出入りをしています。当然その証券会社の多くが引受部門を持っており、企業の新規上場のお手伝いをしています。

今の時代、すなわち多くの運用会社が「FD(フィデューシャリー・デューティー)宣言」という金融庁が平成29年3月30日に制定した“顧客本位の業務運営に関する原則”に基づく「宣誓」をした現在、多分もうそんな事はないだろうと思いますが、かつては証券会社からの「お願い営業」に対して、運用会社の経営層が判断して相当量を引き受けるという例が実際にありました。

「●●証券から頼まれてんだけど、大島君のファンドで少し取って貰えないか?」とよく役員会後に聞かれたものですが、私のファンドは毎週組入れ銘柄すべてを、組入比率まで表示して開示しておりましたので、たとえファンドの0.01%であっても納得のいかないものに投資は出来ません。最善の返答として「その会社のIRミーティングで、質問して、納得がいけば考えます」というやり取りを繰り返してきました。因みに私も執行役員 共同CIOでもあったんですけどね。若造の相当生意気な奴と他の役員の方々には思われていたと思います。

では、なぜIPOをする本当の意図を問い質してきたのかと言えば、株式投資の本質は、その企業の所有権を得る代わりに、返済不要の資金を提供してあげることに他ならないからです。

銀行が融資をする行為、或いはその企業が発行する社債を購入するのとは本質的な意味が違います。そう、資本の部に注入する資金を提供する株式投資は、企業の側から見れば債務(借金)ではなく、自分のもの、極端な言い方をすれば「寄付を受ける」のと同じようなものなのです。“返済不要”というのは、経営陣にとっては大変魅力的な資金ですよね。投資家側から見れば、返済される約束のないお金をあげることなんです。

その対価として投資家は何を得るのでしょうか?それこそが企業の所有権であり、株主としての議決権です。議決権を行使すれば何が出来るかと言えば、一番大事なものは役員選任です。つまり選挙と一緒で、「あの人を取締役にするか、しないか」を決定する会議(株主総会)で投票する権利を持ちます。議決権行使で出来る内容は他にもたくさんありますが、一番意味があるのが、取締役や監査役の選任投票への参加でしょう。当然、所有権の割合(持っている株数)によって、その発言権は違ってきますが、1票は1票です。配当性向や役員報酬などの決定についても株主の権利です。

因みに、代表取締役や社長、専務というポストを誰にするかを決めるのは取締役会ですので、株主は口を挟めません。

そうした株主としての権利を有して企業を所有することで、その企業がこれから歩む道の将来、目指すビジネスビジョンに対して、同じ夢を持ちながら、株主配当や株主優待を貰い、そしてその株主で居ることを止める時(株を売る時)、初めて売買益(時には売買損)を手にするというのが株式投資です。

だから所有期間中、配当が多いというのは嬉しいことです。ただ「配当÷初期投資額」で計算される配当利回りは未来永劫約束されるものではありません。ひとつには配当は業績に応じて増えもする筈ですし、減ることもあるものだからです。また、株主を辞める時に発生する売買損益が、それまでの累積配当を大きく上回る時もあれば、下回る時だってあります。後者ならいくら高い配当を貰っていたとしても、総投資利回りはマイナスになる場合だってあり得ます。

ただ、その企業と同じ楽しい夢を見て、株主配当や株主優待を貰い続け、そしてある時株主を辞めたら大きな売買益まで貰うことが期待出来る、目指せる、というのが株式投資の本来の醍醐味であり、楽しさなんだと思います。

さて、本題に戻ってIPO(新規上場)ですが、まず、何のためにその企業は証券市場からお金を集めたいのでしょうか?今は正に金余りの時代です。本来ならば、上場出来るような企業なら、銀行が幾らだってお金は貸してくれる筈です。だって銀行はお金を貸し出す先が少なくて今は困っているんですから。それはスルガ銀行だけじゃありません。

株式市場に出回っているお金のことを「リスクマネー」と呼ぶことがあります。それは「企業の成長に手を貸すリスクが取れるお金。上手く企業が成長すれば、それが後々何倍にもなって戻ってくることを期待して出資出来るお金」という意味です。直接金融の歴史が長い米国などでは、リスクマネーを取り込むことの意義は、既存株主からも、市場からも共に厳しく精査されます。

今では世界一の大富豪となったアマゾンドットコムの創業者であるジェフ・ベゾス氏が、有り余る個人資産を持ちながらも、今尚、猛烈に働いているのは何故でしょうか?アマゾン株の16.4%を今でも所有し、大富豪になったベゾス氏ですが、同社立ち上げ時からIPOを経ても、久しく資金繰りは大変な状況にあったようです。それは事業拡張の為に、物流インフラをドンドン整えないとならなかったからです。だからこそリスクマネーが沢山必要だったし、彼を非難する人も多い傍らで、そのビジョンを猛烈に支持する人も多かったのです。当初は二の足を踏んだウォーレン・バフェットでさえ、途中から劣後債購入で参戦したぐらいです。

翻って日本の場合、同じように沢山の企業がIPOをしていますが、本当の意味で資金調達が必要な企業はどの位あるのでしょうか?勿論、もう起業からその時点までで経営に疲れてしまい、所有権をPublic(パブリック)に手放したいからIPOという経営者もいるでしょう。上場することで知名度を高め、優秀な人材を集めたいという考え方もありだと思います。

でも、何となくIPOをして、巨額の資金を手に入れてIPO長者となり、フェラーリを買って乗り回すのが目的みたいな例も過去にはありました。

一方、「財務の安定性を高めるため」と言えばパッと見には聞こえは良いかも知れませんが、それって要返済の資金を、返済不要の資金に切り替えるため、敢えて荒っぽく言えば、「借金をチャラにするため」という見方も出来なくはありません。当然、その分、投資家は企業の所有権を得る訳ですから、意味が分かった上で同じ夢を見ようというリスクマネーならば何ら問題はありませんし、素晴らしい話です。ある意味、それが資本市場の大切な役割ですから。

でも、もしそれが今朝の新聞報道にもあったような「お願い営業頼み」のIPO、すなわち投資家が充分当該企業にリスクマネーを入れるんだということを理解していないものなのだとしたら、それはまず証券市場関係者として「このままで本当に良いのか?」ということを考えないといけないと思います。

そして投資家の方も、企業の内容はもとより、その資金ニーズ(IPOの理由も含めて)などを充分理解した上で、例えば配当利回りが高くて魅力的だからと思って買ったのならば、初値がどうこうなどという近視眼的なことで嘆き節を言う必要は無いだろうと思います。

公募価格が1,500円だったソフトバンク(9434)の上場初日は、初値が1,463円、高値1,464円、そして引値は本日の安値となる1,282円、一度も公募価格を上回ることなく終わりました。一般的に言えば、このIPOは大失敗と言えるでしょう。公募価格の設定が高過ぎたのではないか、需要の読み間違いがあったのではないか、そもそもこの時期に史上最大規模ののIPOを行う必要があったのか、などなど、発行体(企業側)、引受証券会社、そして投資家のそれぞれが今一度考え直してみる必要があると思います。それがより良いIPO市場を作ることに繋がる筈だと信じます。

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