【連載4】新入行員諸君!リスク商品でござる「リスク商品の基本その3“オプション”」

オプションを使うと、実に色々なパターンの金融商品を作ることが出来る。プレーンなコール・オプションやプット・オプションを利用したものから、ある一定条件を原資産が満たした場合(ノックイン/ノックアウト)に、オプションとしての権利が発生するようなものまで、実にオプションの種類が多種多様だからである。損失限度を設けたり、或いはある一定の水準までの原資産価格の上場を前提に利回りを上昇させたり、多種多様な仕組みを作ることが出来る。上場しているオプションもあるが、商品組成などの場合に頻繁に使われるのは、上場していない店頭オプションと呼ばれる非上場ものであるが、オプションは商品組成の現場においては、正に基本常識のひとつとなっている。

さて、運用のコスト(反対側から見ると、金融機関の収益)という点からこのオプションの価値判断をする場合、上場オプションについてはあまり問題にすることはない。何故なら、市場という仕組みそのものが、その需給関係から常に公正な価格を提供するからである。すなわち、オプションの価格も、それに関わる手数料も白日の下に晒されているからである。一方、店頭オプションの場合は逆に非常に細かい注意が必要になってくる。

オプション価格の決定要因は一般に①原資産価格、②行使価格、③残存期間、④金利、⑤ボラティリティの5種類であると言われているが、この5種類のうちで一つだけ、リアルタイムで精査出来ない数値、ブラックボックスがある。それがボラティリティだ。これが良い意味でも、悪い意味でも、宝の宝庫になる。蛇足だが、つい数年前までは、ボラティリティという単語は、テレビで解説などをする時には、必ず注釈を加えさせられた。一般の人には当然馴染みのない単語だからだ。最近ではモーニングサテライトでも、普通に使われているのだが、元々はそういう扱いであったことをお客様などと話される時には注意した方が良い。銀行のお客様にはまだまだ馴染み薄い人は多い筈だ。

話は戻って、まず日経225オプションを例に取って考えてみよう。これは当然のことながら上場オプションである。故に、市場が開いている間は、その価格を誰もがモニタリングすることが出来る。8月限月20,000円行使価格のコール・オプションの7月19日の引け値は205円(前日比△10円)であり、その元となる日経平均株価の水準は誰にとっても同じく20,020円86銭だ。日経新聞をはじめ、多くのもので確認することが出来るし、行使価格や残存期間は明確、そして金利水準についても新聞でも読める。

5つのファクターのうち、4つまでが簡単に入手出来た上で、その価格も明確である以上、ボラティリティについては、一次方程式を解くのと同じ要領で逆算することが出来る。こうして計算されたボラティリティのことを、インプライド・ボラティリティと呼ぶが、市場がどの程度のこの先の市場変動を予測して織り込んでいるかを見るのに有益な数値である。

しかし、店頭オプションの場合だと、上述のように話は簡単にはいかない。つまり、値付けを自分たちで行わなければならないからだ。最初からボラティリティを含む5つの項目について把握しておかなければ、オプション価格を提示することが出来ない。逆に言えば、ボラティリティの水準如何で、幾らでもオプション価格を設定することが出来るということだ。これがオプションを使った金融商品の如何わしき部分に最も成り易く、業者はそれを自らのブラックボックスとして内容はあまり開示しない。故に、商品組成サイドはオプション業者とのやり取りに、販売員は商品組成サイドに対して最もセンシティブにその論拠を問い質さないとならない。不確かなままだと、お客様に迷惑を掛けてしうことになる。

Bloomberg端末には、確か日経225オプションの価格シミュレーションを行える機能があった筈なので、是非、ボラティリティの項目を任意に変化させて、オプション価格への影響度合いを体感しておいて欲しい。案外とシビアに変動するものである。すなわち、ここにオプション組成時において、オプション業者が“抜く”ポイントがある(抜き方は伏せます)。恐らく、運用会社のファンド営業に「御社のオプション価格の決定方法を教えてください」と質問したら、たぶん「幾つかの異なる期間のヒストリカル・ボラティリティから当社独自の方法で最終的には決定しています」などと答えるだろうと思う。それ以上に突っ込んだ質問をしても、皆さんも分からないだろうし、相手も多分そう詳しくは無い筈なので不毛な議論になってしまう。ただ、ここで覚えておいて欲しいことは二つ、一つ目が質問への回答が頓珍漢なものだったら何かを疑った方が良い、二つ目は、店頭オプションが手数料を抜き易いということと、その背景について。

私が投信投資顧問会社の社長をしている時、リートのETFに店頭オプションでカバード・コール戦略を付け加えることで利回りアップを図る新商品(現在も販売されています)を開発し、ある投資銀行と組んで投資信託を組成した。当然、そんなオプションが日経225オプションのように上場されているわけはなく、店頭オプションを利用することになるのだが、上記の理由から、オプション価格の適性性を担保するため、常に複数の投資銀行でプライス・コンペ(価格入札)を行い、最良価格のものを使うようにした。結果、当初ファンドサイズが小さいうちこそ、元々の投資銀行が組成する店頭オプションを使うことが多かったが、ファンドが大きくなるにつれ、他の投資銀行が落札することが多くなっていた。すなわち、オプションの組成だけでも充分な旨味が取れるサイズになったので、多くの投資銀行がオプション業者として真剣に入札に参加するようになり、その結果としてオプション価格の適性化がより進んでいったという好例となった。