【連載3】新入行員諸君!リスク商品でござる「リスク商品の基本その2」

私は長く運用サイド/商品組成サイドで運用パフォーマンス評価を受ける立場で居た為か、運用に関わるコストに関してのセンシティビティは普通の人より高いと思う。何故なら、コストは全てパフォーマンス悪化要因であるため、顧客の受取りを減らし、すなわちパフォーマンスの悪化として運用サイド/商品組成サイドの首を絞める要因だから。逆に言えば、如何にコストを引き下げるかに腐心してきた立場だからだ。

単純な例を挙げてみよう。販売手数料が3%、年間の信託報酬が1.5%の投資信託がある。極めてオーソドックスな投資信託の手数料体系で、利益率が高いため販売サイドには受けが良いかタイプだが、この二つを合わせた4.5%分のマイナスを取り戻さない限り、お客様は「儲かったわ。この投資信託にして本当に良かったわ」とは言ってくれない。現状の日経平均株価で言えば、約900円分の上昇をフルに享受しないと取り返せない水準である。

よく販売員がお客様に「手数料の合計4.5%分を“除いて”考えれば、ファンドは3%近く(日経平均株価600円相当分)回っており、このマーケットの中では健闘している部類に入ると思いますよ」などと説明しているのも知っているが、お客様にしてみれば知ったことではなく、その顔色は今一つ冴えない。

ただ当然のことながら、金融機関の営業サイドから考えると、販売手数料と信託報酬を合わせて4.5%分は収益として認識出来るため、これほど力を入れて販売したくなる商品は無い。この時代、銀行が預貸利ザヤで4.5%稼ごうなど、夢のまた夢、でしかないのだから。もし金融庁が、投資信託に関わる手数料収入は銀行の実力を示す業務純益からは除外するとでも宣言することがあったとしたら、恐らく銀行業界の投資信託に対する熱意は瞬時に消え失せるに違いない。現に金融庁が販売手数料の問題について狼煙を上げたら、すかさず長年の懸案であったノーロード(販売手数料ゼロ)の投資信託がデビューした。すなわち、投資信託に関わる手数料は飴、フィディーシュアリー・デューティー宣言は鞭、というのが足元の状況となる。

話を元に戻してコストの話。投資信託の販売手数料や信託報酬のように分かり易いものは良いのだが、問題はあまり表に出ないコストをどのように把握するかということである。以前、富裕層のお客様で元外資系投資銀行の幹部だった人が居たのだが、当然のことながら内情は全て理解されている。何せ元業界人。ある日、担当の営業が新商品をセールスに行くと「面白い商品だけど、手数料の内訳が知りたい。計算は自分出来るから、これと、これと、この原データを貰えませんか?」と恐ろしいことを言われた。

当方も特にいかがわしい手数料設定をしているわけではないので、全てのデータを開示すると、後日先方から「思ったよりも良心的ですね。買わせて頂きます」という返事を頂いた。その金融商品を組成する上で、どうしても掛かってしまう手数料だけだったので、逆にお客様はその仕組みが分かって、ご納得の上、快く伝票にサインをしてくださった。

どういう金融商品だと投資信託の販売手数料と信託報酬のようにクリアに見えてこないかと言えば、その代表的なものがデリバティブを組み込まれた商品である。または外国籍のファンドやETFを組み入れたような、日本の法律体系の中だけで処理し切れない商品が組み込まれたものである。これらは金融商品のコストが非常に分かりづらくなる。ファンドラップなどに案外多い。

商品の仕組みにオプションを組み込んだものは極めて多い。「対象資産の値段が○○になると繰り上げ償還となります」という「IF文」が入っていれば、殆どの場合、オプションが入っていると見て良いが、代表的なものが「株価連動仕組債(EB債)」「カバードコール付き投資信託」そして「プレミアム外貨預金」などである。これらの場合、まず「お客様にご負担いただく手数料」という形でそのコスト分が人目に晒されることはまず有り得ない。またここで発生するコストについては、販売会社や運用会社や商品組成会社などの受取りにはならない場合のものが殆どである。誰が受け取るかと言えば、そのオプションを組成した業者である。

次に業界では「2階建て」とか「3階建て」と呼ばれることの多い商品が、外国籍のファンドやETFを組み入れたようなファンドである。商品の目論見書には「予め計算できないお客様にご負担いただく手数料」などと、非常に分かりづらい表現で存在自体は明らかにされているが、実際にそれは蓋を開けてみないとわからないファンドの監査費用であったり諸々の諸経費であったりする。仕方ないと言えば仕方ないのだが、これも運用コストとしてパフォーマンスの劣後要因となる。すなわち、お客様負担の部分となり、運用サイド/商品組成サイドは取り返さないとならない。

もうひとつがファンドラップやSMEと呼ばれる、「お客様向けテーラーメード」を謳う運用サービスも「2階建て」や「3階建て」の典型的な商品である。それは投資顧問会社が一任勘定手数料として受け取るものと同等のもの、それプラス投資対象の信託報酬などの諸々の諸費用で2階建てとなる。中には販売用手数料が含まれる場合もある。

最後にファンド運用の結果について、第三者が保証する場合の保険料がある。詳細は「プロテクトライン付き投資信託を考える」をご参照頂きたいが、要するに保険会社役が介在し、その保険料を徴収するやり方である。生命保険や損害保険の多くが生存率や事故率などの統計的データを元に金額が決定しているのに対して、これらの料率がどうやって算定されているかは、かなり疑問の残されるところである。過去の発生確率のデータが無い筈だから。

ここまで見てきたように、金融商品に関わるコストの種類は、スキームが複雑になり、組成に関与する金融機関/業者が多くなればなるほど高くなる。ただ問題はその高くなることではなく、お客様がその仕組みを納得されているかどうか、それ以前に販売員がそれらをきちんと理解しているかという点である。「リターンとリスクのトレードオフ」という点からいえば、そのリスクに見合った期待リターンが描けて説明出来ているのかということでもある。お客様に「当面浮かんでくることのない原子力潜水艦」のような商品を知らず知らずのうちに販売してしまうことが無いことを願ってやまない。なぜって、そこら中の波止場にそうした原子力潜水艦が繋がれて出航の時を待っているだけは確かなのだから。

次回はオプションについて、話してみよう。