【連載1】新入行員諸君!リスク商品でござる(はじめに)

期待に胸を震わせたかは別にして、銀行に入行してからあっと言う間に最初の3か月間が過ぎ、何をしたかの記憶もあまりないままに夏季賞与も僅かながらも貰えて、また5月病、6月病をそろそろ克服してサラリーマン生活のサイクルにもだいぶ慣れてこられた頃と推察します。

たぶん、銀行に入って一番驚いたのは、研修が多いこともさることながら、受けなければならない試験の多さでしょう。行内の資格試験のみならず、業界の諸々の資格試験や認定試験の多さです。そうです、リスク商品、すなわち証券関連商品を販売するにも、保険関連商品を販売するにも、銀行員といえども当然専門の知識が必要だし、それがある一定水準以上はあるということを証する認定が無いと販売出来ないのです。銀行名だけで許してくれる時代ではありません。

また「自分は銀行に就職したのに、なんで証券外務員や保険販売員の資格を取らなければならないのか?」と疑問に思われるかも知れませんが、金融マンである以上、自分が販売に直接関わることもさることながら、敵の手の内を知ることも重要です。銀行のライバルはライバル銀行のみならず、証券会社や保険会社なのですから。

前置きはさておき、これから合計何回になるかは分かりませんが、新入行員の皆さんがその毎日の限られた時間の中で勉強しなければならないリスク商品のことについて、その販売の仕方や商品そのものについて、私が銀行員だった経験、ファンドマネージャーだった経験、投信投資顧問会社の社長だった経験、外資系プライベートバンクの商品・運用ソリューション・チームのヘッドであった経験から得たもので役に立ちそうなことを、少しずつ、日々の勉強の邪魔にならない程度にお伝えしていきたいと思います。銀行の研修課が行う学術的な話ではなく、現場での実学的な経験上の見地から、これから最前線で頑張る皆さんへの応援歌になればと思っています。

手元に某運用機関が12,000人を対象に最近実施したアンケート調査があります。これによると、リスク商品を使った資産運用の経験が今まで無い人は全体の38%、過去にはあるが今はしていないのは15%、すなわち併せると約53%の人が今は資産運用をされていません。ただその一方で、約55%の人が資産運用自体には興味があり、約59%の人は資産運用の必要性を感じており、興味がない/全くないを合わせた19%を遥かに凌駕しています。これは如何に資産運用ニーズが潜在的には存在しているかを見ることが出来ると思います。

もうひとつ面白い結果の一つは、現在資産運用をされている人のうち、保有のリスク商品を取引のメインバンク以外から購入した理由の43%が、他の銀行/証券の営業職員が薦めてきたからと答えています。これは如何に皆さんの積極的な正しい内容での顧客セールスが実を結ぶ可能性が高いかを示しているともいえます。フィディーシュアリー・デューティーが喧しく言われる昨今、フレッシュな皆さんの活躍の場がかなりありそうなことを示していると思いませんか。

私は皆さんにノルマを課して尻を叩く立場ではありません。私のインセンティブは、長年この業界に関わってきた者として、まだ無垢の皆さんに正しい知識を身につけて頂き、その結果としてより多くの個人投資家の皆さんに適したリスク商品が投資家の間に広まりゆくことです。つまり、業界と投資家のWin Winの関係の構築です。これは金融庁の最近の考え方に反していません。

ただ正直言って、既に長年の経験で自分の営業スタイルが出来てしまった方、もう頭が固くなってしまった方に、フィディーシュアリー・デューティーを説きながら、それを踏まえた営業スタイルに変わって頂くのはかなり難しい。なぜなら、彼らが築き上げた長年の結果がそれを示しているからです。すなわち、潜在的顧客層のリスク商品デビューを妨げている最大の理由が、上記アンケートによれば下記の二つだったからです。

  1. 資産運用への「知識不足」
  2. 資産運用への「リスク拒否姿勢」

投資家がどうしてこうなってしまうのか、しまったのか、全く分らなくはありません。ニーズはあるのに「知識不足」が大きな理由なのは何故でしょう?きちんと商品説明の合間に正しい知識を説明してこなかったからです。「ひとつの籠に卵を全て盛るな」という、分散投資を薦める決まり文句がありますが、通り一遍の説明は出来ても、その本質的な分散投資の理論と効能を説明出来る営業員は、案外少ないものです(効率的フロンティア、相関、分散、共分散を正しく説明出来ますか?)。だからこそ、周期的にバランス型ファンドや、ファンドラップなどの商品のブームが来るのです。それが明らかな証左です。

だからこそ、この結果はこの業界がそうさせてしまったのだと素直に受け取らざるを得ません。だからこそ、まだフレッシュな皆さんに、手垢のついた教育がされていない皆さんに、正しい理解をして貰えたらと思い、この連載を始めます。これからの連載に期待して頂くと共に、是非、宜しくお付き合いください。