機関投資家の議決権行使の個別開示に意味を問う

昨今、機関投資家に議決権行使の個別開示を求める声が強まっている。従来、機関投資家、取り分け生命保険や銀行は、相互に株式を持ち合うことによって、株主決議を要する案件について白紙委任を取り付け、経営サイドの自由度を高めることに腐心してきた。「安定株主は物言わぬ株主」ということだ。だが、今では各企業の株主構成も大きく変わっており、議決権行使程度でその企業の経営に物申すことなど、そう容易いことではなくなっている。

また、そもそも株主総会等で株主による決議を必要とする事項(取締役会設置会社の場合)を下に纏めたが、ご覧頂ける通り、①決算関係処理(利益金処分を含む)、②役員の改選や専任などが普通決議の主なもので、特別決議の事項として、合併や吸収などが含まれるようになる。すなわち、通常の3月期決算に絡む6月に行われる株主総会において、株主の議決権行使により決される事項は、経営上、そう大した内容ではないという事だ。

例えば、決算について言えば、剰余金の処分のところで「もっと配当性向を上げろ!」と言うのが関の山で、決算内容自体に「反対」と言ってみたところで、何の意味があろう。決算をやり直させますか?また役員人事の件で、「○○氏を取締役にするのは反対」「いや賛成」と言えるほどに株主はその候補者の人となりを知らないし、別にその人の人事考課表などが添付されるわけでもない。単に「もっと社外取締役を増やせ」というのが関の山で、ただその社外取締役候補についても、本当にその会社の社外取締役として適しているのかなどは判りようがない。なんかの会議の「有識者とはなんぞや?」に近い例もたくさんある。

ならば株主総会など無意味ではないかと言われてしまいそうだが、私はそれを明確に「無意味ではない」と言い切るだけの材料を持ち合わせない。非上場の会社の場合は、事情は全く異なり、株主は実に会社の創業時などから縁が濃い。創業期の本当に苦しい時を、資本金拠出という事で支え、更には販路/販売先、仕入れ先の紹介、経営アドバイス、時には融資などの支援を行ったりしている。ベンチャーキャピタルなどはその一例かも知れない。ただ、上場したパブリック企業になってしまうと、当然のことながら、株主は社長に直接会ったこともないし、社長も株主の個々の顔を知らない状態になる。

ただ、上場企業の株主が明確にその経営について意思表示を示すことが出来る方法がひとつある。それは株主を辞めること、すなわち「株を売る」ことである。経営の仕方に不満があり、配当金の水準に納得せず、役員人事に文句があるならば、株を売ってしまえば良い。一人二人の個人投資家が動いたところでたいしたことは無いのは事実だが、それは正に選挙と同じである。「自分の一票なんて何のインパクトないよ」と投票に行かないか、これこそが国民の義務だと、一票の責任を果たしに行くか。その結果として、与野党が逆転したり、都議会選挙の結果に国政与党が動揺したりする。

株で言うなら、正にそれは株価が下落すること。自社の株価が市場全体の動きと関係なくガンガン下がるようなことがあれば、経営陣は大慌てになる。大株主が売却しているようだともなれば、市場の噂にも直ぐになる。株価が下がり過ぎれば、退場もあり得るからだ。

私は本来、投資家は「株主になりたい企業の株を買う」べきだと思っているので、そもそも些末な議案に目くじら立てて「賛成」だの「反対」だの労力掛けて考えることがナンセンスだと思っている。そこまで調べてから買うべきだと考えてもいるからだ。買った時は「株主になりたい企業」だったが、その後「株主でいたいと思わなくなった」のならば、とっとと売却すればいい。事実私はそうしてきた。それが上場企業の株式との正しい付き合い方だと思っているし、それが資本市場の真の存在価値だと信じて疑わない。

株主総会の決議事項 取締役会設置会社の場合



●自己株式の取得(会156条1項)
●総会検査役の選任(会316条1項)
●業務財産検査役の選任(会316条2項)
●延期・続行決議(会317条)
●役員の選解任(会329条1項、341条)
●会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表者の選定(会353条)
●会計監査人の出席要求決議(会398条2項)
●計算書類の承認(会438条2項、441条4項)
●減少額が分配可能額より少ない場合の資本金の額の減少(会447条1項)
●準備金の額の減少(会448条1項)
●資本金の額の増加(会450条2項)
●準備金の額の増加(会451条2項)
●剰余金の処分(会452条)
●剰余金の配当(会454条1項)
●株主総会議長の選任
●株主総会の議事運営に関する事項の決定



●譲渡制限株式の買収(会140条2項)
●特定株主からの自己株式の取得(会156条1項、160条1項)
●全部取得条項付種類株式の取得(会171条1項)
●譲渡制限株主の相続人に対する売渡請求(会175条1項)
●株式の併合(会180条2項)
●募集株式・募集新株予約権の発行における募集事項の決定(会199条1項、238条2項)
●募集事項の決定の委任(会200条1項、239条1項)
●株主に株式・新株予約権の割当を受ける権利を与える場合の決定事項の決定(会202条3項4号、241条3項4号)
●累積投票取締役・監査役の解任(会339条1項、342条)
●役員の責任の一部免除(会425条1項)
●資本金の額の減少(会447条1項)
●現物配当(会454条4項)
●定款の変更(会466条)
●事業譲渡の承認(会467条)
●解散(会471条3項)
●解散した株式会社の継続(会473条)
●吸収合併契約・吸収分割契約・株式交換契約の承認(会783条1項、795条1項)
●新設合併契約・新設分割計画・株式移転計画の承認(会804条1項)



●公開会社から非公開会社への変更(定款変更)
●人的属性に基づき株主の権利を取扱う定款の変更(会109条2項)