東芝とWestern Digitalの泥縄状態に想う

東芝とWestern Digital両社の関係悪化の報道が連日のようにされているが、元を質せば東芝が原子力事業の失敗の穴埋めをするために、虎の子の半導体(フラッシュメモリー)事業を売却してしまおうとしたところからドラマは始まっている。

この問題、「東芝とウェスタンデジタル」と書かれるから即座にピンとこない人もいるかも知れないが、「東芝とサンディスク」と書いたら随分と見え方も違ってくるのかも知れない。両社の合弁によるフラッシュメモリー事業、元はと言えば「東芝とサンディスク」で仲良く行われていた。ただサンディスクが2015年にウェスタンデジタルで買収されてしまったので、同社名が無くなり「東芝とウェスタンデジタル」という関係になってしまったが、東芝とサンディスクの蜜月があったからこそ、東芝の半導体事業は、その他の日の丸半導体がほぼ全て壊滅する中で唯一生き残れたとも言える。

2000年を目前にした頃、フラッシュメモリーがハードディスクに置き換わるかも知れない、などという話題が市場を席巻していた頃、日本電産の永守社長などは「ハードディスクは無くならないよ」と笑われていたが、実際に多くのパソコンのCドライブ(メインのプログラムなどを保持しておくドライブ)はSSD(フラッシュメモリーを記憶媒体とした小型記憶装置)に殆ど置き換わってしまった。IBMが手放したHDD事業を買い取った日立のそれも(日立グローバルストレージテクノロジーズ:日立GST)も、結局は2011年にウェスタンデジタルに買収されている。

ハードディスク陣営は、大きな技術革新の流れの中で、最後の抵抗として1999年にTypeIIのコンパクトフラッシュ(CF)カードと同じ寸法の筐体に、1インチHDDを搭載したマイクロドライブをIBMが発表し、実際これがあったらこそiPodが誕生出来た。しかし、今ではその発展形であるiPodどころか、iPhoneを含む全てのスマホがフラッシュメモリーがあるからこその製品になってしまっている。それだけこの不揮発性メモリがIT革命の中で演じた役割は大きい。

そしてその製造メーカーとして、勝ち残った数少ない陣営の一つが「東芝とサンディスク」で、東芝ブランドで発売もされていたし、San Diskブランドで発売されてもいた。サンディスクがウェスタンデジタルに買収されてからも、その良好な関係(合弁事業なので、実際には中でドロドロは在ったかも知れませんが・・・)は続くと思われていた。

実際、日本株を選定する時、このフラッシュメモリー事業の将来に投資したいと思ったら、東芝を選ぶしかなかったのだが、私はと言うと当時から「今、東芝のフラッシュメモリー事業を買うと、もれなく原子力事業もついてきます」と言っていた。つまり私はどうしても手が出せなかった。結果としては、投資家としては正解だったわけだし、東芝はこの事業があったからこそ、何とか原子力事業の失敗を埋め合わせる絵が描けそうになっている。

ならばどうして最初からウェスタンデジタルときちんと話し合って、双方が納得出来るような解決策が見出せなかったのか、それを思う時、残念でもあり、不思議でもある。恐らく余計な当事者が複数登場したことで話が拗れに拗れてしまった、というのが真実であろう。ただこれは日系企業と外資系企業の合弁事業には必ずついて回る問題なのかもしれない。

現場のエンジニアたちはどう思っているのだろうか?少なくとも合弁事業で工場を稼働させてきた以上、エンジニア同士には出身母体を越えた共同関係と信頼関係があった筈だ。しかし日本で合弁事業と言うのは、儲からなければ儲からないで「どっちのせいだ?」という事になるし、儲かったら儲かったで「貢献度合いに応じた取り分となっているのか?」というあさましい議論が外野から起こってしまうもの。当初の「一緒にやりましょう!」という気概は、日に日に薄れていくのは残念でならない。何故って? それは人事異動があるからだ。当初合弁事業を立ち上げる時に苦労した人たちが日本企業では転勤でいなくなることが多い。一方、外資系企業では最後までその事業に関わり続ける。事実、サンディスクは買収される時まで、創業メンバーが経営陣であった。

両社の関係が拗れて停滞しているうちに、ライバルであるサムスン電子は、大きな設備投資の発表を過日行った。この産業、片時も休まず止まらずに、研究開発と設備投資を繰り返していかないと、勝ち組から脱落してしまう性質なのは周知の事実。恐らく既に周回遅れとまでは言わないまでも、半周程度は遅れてしまったであろう。つまり事業価値も目減りしているということだ。

ワンマン社長が必ずしも良いとは言い切らないが、合併買収を繰り返しながらも、厳しい環境の中で破竹の成長を続けている企業には、件の永守社長率いる日本電産がある。HDDのブラシレス・スピンドルモーターで立ち上がった同社は、今や回るものすべてを司るような企業に発展している。経営者の人柄と求心力、そして経営者としての決断力。日本の大企業が抱える多くの病魔が、今回の東芝とウェスタンデジタルのごたごたの中では蠢いている。