REITは勧めない

筆者はREITは勧めない。少なくとも、日本の不動産物件を対象としたREITは勧めない。

REITとは、投資家から集めた資金でオフィスビルなどの物件を取得し、賃料収入を分配する仕組みの金融商品。不動産価格が右肩上がりで、賃料水準も右肩上がりが続くのなら、悪くない商品と言える。でも、これって80年代に起きたことの記憶が残っている人なら、当時銀行で融資業務に関わっていた人なら、誰でも思うだろう。「あの頃と何が違うのか?」と。

1980年代後半、プラザ合意以降の日本は思いっ切りお金がジャブついていた。銀行は集まる預金と貸出先に困っていた。だから駅前不動産の登記簿謄本を片っ端から取ってきては、そのオーナーを訪ねてお金を貸した。その時の代表的なセールストークが「良い土地がありますよ。お持ちの駅前不動産を担保にして融資しますから、あそこにビルを建てませんか?賃貸収入で何もしないでも融資は返済出来る上に、更に毎月○○万円も収入が入る計算になります。不動産の有効活用ですよ」と威勢がいい。そして締め括りの決め台詞は「皆さん、もうやってますよ」である。

これがバブルの始まりである。一本目のビルで止めていれば、まだ話は穏やかだったかもしれない。でも、新たに建てたビルの登記簿謄本を取った別の金融機関が、今度は2本目を担保に3本目のビルを建てることを提案してしまう。筆者が入行した1985年当時、配布された「信用調査の手引書」なる本には不動産担保の掛け目は時価の6割~7割程度とするとあったと記憶しているが、数年後には10割でも審査が通るようになっていった。何故なら、不動産価格が上がるからである。融資審査時点では10割評価をしておいても、数年後には値上がりにより担保余力がまた生まれる仕組みになってしまっていた。そしてそうでもしないと競合他行に負けてしまうという事情もあった。そして誰もこの右肩上がりが永遠に続くことを疑わなかったし、疑ったとしても、もう見て見ぬふりをするしかない状態に世の中はなっていた。

景気が良かったか?確かに会社の経費を使える立場の人の羽振りは良かったし、その人達といる限り、美味しいものを食べられ、楽しくお酒が飲め、分不相応な贅沢を楽しむことが出来た。失業率も下がっていた。ただ自分の口座残高とお財布の中身で言えば、決して景気は良くなかった。そしてその後何が起きたかは言うまでもなく「バブル崩壊」である。全てが逆回転を始めて失われた20年へと突入していく。

話は戻ってREITの話。バブルの頃のように、駅前不動産を持っている人からドラマが始まるわけではなく、「投資家から集めた資金」というのが大きな違いでどこかスマートに聞こえはするが、不動産の値上がり益と賃貸収入を狙ったスキームということでは、全く構造は一緒である。

記事によれば運用資産全体の4割がオフィスビル、2割がマンションなどの賃貸住宅が占め、運用規模は同じ時期の上場REITのほぼ1割に相当するという。金額にして9,500億円。逆算すると上場REITは9兆5千億円となるので、REITだけで10兆円を超える資金がオフィスビルや賃貸住宅を買っていることになる。これがサステイナブルな状況かどうか、信じるか信じないかは貴方次第ですって、笑い事では無い気がするのは筆者ばかりではあるまい。

日銀は何としてもインフレ率2%を達成させると言っているが、まだまだその実現には時間がかかる。出生率を1.8まで引き上げるという政府目標もあるが、現実には全然届かない夢語り。つまり人口動態は逆三角形を維持したままであり、次から次と住宅需要が生まれるわけではない。逆に筆者の家の周りには、必ず空き家がある。それはつい先日まで、素敵な老夫婦が暮らしていた家だ。一人っ子と一人っ子が結婚すれば、必ずどちらか一方の実家は余る。子供夫婦が自ら家を購入していたら、実家は両方とも余る。残された需要は、一軒家からバリアフリーのマンションへの引っ越し需要だけだ。需要は構造的に強くはもうならない。

オフィスビルを考えてみよう。確かに新入行員の時の筆者のデスクは60センチ×90センチの片袖デスクで、ゆったりはしていなかったが、外資系企業の一部などを除いて、日系金融機関の就労環境は最近でもそんなに変わっていないように思われる。一人にひと区画毎のパーティションで区切られた空間、などというオフィスは、そうそう無い。つまりひとり当たりのワーキングスペースが劇的に拡大しているわけではないので、需要は強いわけがない。

だから都心を歩いているとよく不思議に思うことがある。こんなにビルを建てて、どの企業が入るのだろうかと。六本木ヒルズが出来た頃(2003年4月)、当時赤坂アークヒルズのビッグテナントであったゴールドマンサックスが、業績の悪化からか移転計画を撤回し掛けたことがあった。キーテナントが入らなくなったら六本木ヒルズは当初から躓くことになる。この為、森ビル側が大変な譲歩をしたという話がある。つまり賃料のカットである。 そんな状態の時、不動産価格は上昇しているのかと言えば、当然上がっているわけがない。

こうした流れを1980年代後半に起きたことを記憶している人なら、誰もが覚えている筈なのに、それがREITとアルファベットになった途端に誰もが安心してしまているように見える。だから筆者はREITを薦めはしない。

ん?誰です?REITには流動性があって、好きな時に売れるから違うんだと言われたのは?上り坂の時には、流動性は当然あります。売りたいのは貴方だけなのだから。でももし、みんなが売りたいと思ったら・・・。くわばら、くわばら。

 年金基金や金融機関などプロの投資家が投資する非上場の不動産投資信託(私募REIT)の規模が急拡大している。2016年度末時点の運用資産は約2兆2000億円と1年間で4割増えた。マイナス金利による運用